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 僕が高校1年の時に姉の花ちゃんは「女」となり、自分が姉に性的感情を向けている事実に気付いた。
 要は、「嫉妬による恋の目覚め」だった。


 きょうだいだから。
 あの男が資産家だから。
 ……何より花ちゃんがあの男の隣で幸せそうに笑うから。

 
 だから僕は自分の気持ちを押し殺して大学入学を機に本州と九州を繋ぐ大きな橋を渡って「逃げて」きたのに
 それなのに今日、花ちゃんは僕に会う為にこの橋の真下を通る地下トンネルを使って「追いかけて」きた。


「私、やっぱり結婚に向いてなかったのかな。結婚前から『本命』が居たんだって」
「……そうだったんだ」
「半年前に『本命さん』のお腹にあの人の赤ちゃんが出来てる事が分かって……昨日までの半年で私の方が悪者になっちゃって、私の味方になる人は1人も居なくなっちゃった」
「どうして?」
「どうしてって……太ちゃんも知ってるじゃない。お父さんもお母さんも、それからあの人のお家も、『跡取り』が一番大事なんだから。1年経っても妻になれなかった私はいまや『本命さん』の前の立場よりも下なの」

「下かぁ……あの人達も何考えてるんだか。娘なのに」
「仕方ないじゃない。あの人もだけど私達のお父さんお母さんも古い考えのまま生きているのよ」

 大きな橋を2人で見上げながら花ちゃんが悲しそうな声でその話をして……弟である僕は黙ってうつむいていたけれど

(知ってたよ、あの男に別の女が居た事くらい……)

 僕だけは、2年前の結納の時も1年半前の挙式の時もあの男の笑みが鉛のように重くけがらわしかった事に気付いていたし、花ちゃんに愛情のかけらもない事を知っていた。
 高校生の稼ぎを全て注ぎ込んで調べてみたら案の定だ。……いや、調べるまでもなかったのかもしれない。どう考えてもあの男はに対する恋慕れんぼの質が劣っていたのだ。

 だけど、結納を終えたばかりの花ちゃんの幸せそうな表情を見てしまったら……僕の唇は糸を縫い付けられたような状態となった。

(真実を口にするのが正しいとは限らない……)

 晴れやかな青空や涼やかな風に揺れ動く満開の華やかな花を見てしまった者はきっと、その美しさに心を奪われ言葉を失ってしまうだろう……2年経った今の僕の唇もやはり、その糸が解けないままでいる。

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