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Chapter:11 可愛いジェラシー

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「はぁぁぁ……あおくんが忙しいって分かっているとはいえ、会えないのは寂しいなぁ…………」

 桜並木の葉が紅く色付いていた日にお付き合いを初めて早や2ヶ月。

「寒いと余計に恋しくなるんだよね」
「うんうん分かるー! ちょうど読んでた小説にそういうシーンがあって、読んでたら体の奥がぎゅううぅぅって締め付けられる感じしたもん!」

 私は紗羅ちゃん音羽ちゃんと一緒にキャンパス内のカフェテリアでレポート書きに取り組みながらそんな会話をしていた。

「えっ?! 音羽、小説なんて読むんだ!! 課題図書読むので精一杯だから、他の小説読む時間なんて無いんだけど!」
「息抜きにweb小説をね♪ スマホでサクッと読めちゃうからオススメだよ♪」
「いやいやそれって音羽が速読出来るからっ! 私は絶対に無理っ!!」

 私の「寂しい」から始まった会話は何故か、「課題図書以外の小説が読めるか読めないか?」の話題に移って……

「えー? 出来る出来る! ジャンルが全然違うからいけるよ! ねぇ華ちゃんならいけるよね?!」

 イケる派の音羽ちゃんと……

「嫌っ! これ以上活字は無理!! 平仮名も漢字もキャパオーバーだって!! ねぇ華ちゃん! 無理だよね? だって全集読むの、あと半分以上残ってるんだよ?」

 全然無理派の紗羅ちゃんとの視線が私に一挙集中しちゃって……

「ええとぉ………………結局、音羽ちゃんがぎゅううぅぅってなった小説の一節って、どんな文なの?」

 どう答えて良いか分からず、会話の中で何気に気になっていた部分を質問すると

「おおぉう? 華ちゃん良いねー! 食い付いた?」

 音羽ちゃんは目をキラッと輝かせて、スマホをササッと操作して

「ここ! ここのページ!! これだけでも読んでみてよっ!!」

 ……と、私に寄越してきた。

(グイグイ来るなぁ音羽ちゃん……よっぽど共感してもらいたかったんだなぁ)

 音羽ちゃんのスマホを受け取った直後に紗羅ちゃんの顔をチラッと見やると、「私は読まないから!」「無理だから!」「読んだらドツボにハマるから!!」とばかりに首を左右に振り続けている。

(確かに全集読むのって興味深いんだけど量が多くて辛いもんね……私はあと1/3ってとこだけど)

 紗羅ちゃんの拒否る気持ちもすごく分かるので、私だけ紗羅ちゃんオススメの一節を読む事にした。

(全集は縦方向に読むけど、web小説って横方向なんだぁ……確かにこれは気分転換になるかも)

 目をいつもとは違う向きに動かしながら物語を読むって、なんだか新鮮な気持ちになる。ネットニュースを読んでるみたいな気持ちというか、音羽ちゃんの言っていた「サクサク読める」の気持ちがものすごく良く分かった。

「これね、主人公が女性向け風俗店で働いてる男の子なんだけど……」
「えっ?! これってセクシーな小説??」

 音羽ちゃんオススメのweb小説とはセクシャルな内容を含むストーリーで面食らったんだけど……

「まぁそうなんだけど、このページは全然ヤバくないから! 主人公とサブキャラの会話シーンなだけだから心配しないで」
「えっ? そう……? うん、分かったぁ」

 このページには直接的な表現が含まれてなくて気持ちを落ち着かせる。





 一応指定されたページだけでなくついでに前後も読んでみたけれど、このweb小説では「お金持ちの既婚女性が冬のもの寂しさや年末のイベント感の高まりが相まって女性向け風俗店へ足繁く通い、No.1の男の子に没頭して散財する様子」が描かれているようだった。





(あ……ここかぁ、音羽ちゃんのオススメ一文って)

 スクロールしていくとちょうど「12月」の文字を捉える事が出来、音羽ちゃんの「ぎゅううぅぅ」っとなった部分に私も追体験する。

(結婚していて幸せそうに見えていても、旦那さんがお仕事とかで人肌寂しくなって風俗店に通い詰めちゃう……なんかそれって浮気してるみたいに感じちゃうけど、この既婚女性にとってはなのかなぁ)

 ストーリー全部読んでないから音羽ちゃんのような「ぎゅううぅぅ」と全く同じにはならなかったけど、12月っていう時期は確かに、冬の寒さと共にクリスマスの煌びやかさが否応なしに目に入ってくる。

「まだ雪も降らない枯葉や枝だけになったこの時期の物悲しさってさ、ひとりぼっちになった自分に投影してしまうんだよ~! クリスマスイルミネーションで街の様子は華やかであってもお金に余裕があっても自分の心はそうじゃない。キラキラした外の世界からポツンと取り残された感じがするんだよねきっと! 寒いからこそ他人の温もりを求めてしまうっていうか」

 web小説に激ハマりしているのが、音羽ちゃんの熱量で伝わる。

「まぁ……今の時期のもの寂しさって分かるかなぁ。彼氏が居なかった一年前と今では温もりへの欲求ってダンチだし」

 紗羅ちゃんはカップに残っていたココアを飲み干し、温かな吐息と共に音羽ちゃんへの理解を示し

「やっぱり、あおくんと密に連絡取っていこうかなぁ。あおくんだって寂しいはずだもん」

 男性が風俗へ行く理由は女性のそれとは異なるだろうけど、やっぱりパートナー以外の温もりを求めるって相当な状態だと、ストーリーにも読者の音羽ちゃんの気持ちにも寄り添う。

(寒くなってきたからこそ、ラブラブに……今よりもっと親密な関係になりたい!)

 付き合って2ヶ月。私は音羽ちゃんにスマホを返しながら

(土日だけでなく、平日にも気軽に会えるようになったら……そしたらお互い寂しくならないよね?)

 が浮かんでいた。

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