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Chapter:11 可愛いジェラシー

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(コルクボードの下半分……見ちゃったんだ)

 目の前で彼女は俯き、肩を震わせている。

「はな……」

 名を呼び、その震えを止めようと両手で肩に触れながら……

(俺のバカっ! なんで大好きなはなに勘違いさせるような真似しちゃったんだよ……!!)

 決してつもりも、わけでもないのに、きちんとコルクボードの掲示物を片付けなかった事を悔やんだ。

「はなは、俺の部屋を掃除しようとしてくれたんだね。一応、お風呂とか洗面台とかは綺麗にしておいてお留守番してくれるはなの手を煩わせないようにって努力してみたんだけど……足りてなかったね、ごめんね」

 なるべく声の調子を整え、優しく語りかけるようにしながら、はなに謝ったんだけど

「うぅ……」

 そんな程度じゃ彼女の気持ちが済むはずもなく、啜り泣きをし始めている。

「俺が小物置いてるカウンターをきちんと片付けしなかったのもあるし、普段からあのコルクボードの上半分しか使ってなかったから……だから俺が悪いんだよ」
「…………っ、ぅぅぅ」

 はなは悲しみのあまり、俺の身体からだにギュッとしがみつき

「元カノさんとの写真……見ちゃったのぉ」

 はなは声を絞り出しながら決定的な内容を言い、俺の服に涙を染み込ませながらわんわんと泣く。

「うん、それが原因だよね……本当にごめん」


 …………そう。

 はなの機嫌を悪くしたのは、俺の完全なる落ち度。

 元カノ美月みつきと撮ったツーショット写真をコルクボードの下半分にピンで貼り付けたまま、かれこれ1年近くも放置していた事だったんだ。


「あのね……私、本当はテーブルを拭くだけにしようとしてたの」
「うん……」

 まだヒクヒクと鼻や喉を震わせているはなは、それでも俺にを話してくれた。

「合鍵もらったの嬉しかったし、昨日私の部屋のもあおくんに渡して……嬉しかった。
 今日があおくんの鍵を使ってお留守番する日だからって、いつも以上にウキウキして、浮かれてて……」
「うん」
「でも、掃除もキチンとしてくれていたから、敢えて私が細かな部分まで掃除したら逆にいけないなって思ったの。なんていうか……そういう、粗探しみたいな行動取りたくなかったし、必要以上に小物を動かして掃除してしまったらあおくんの気持ちを害してしまうかなって思って」
「そうだったんだ……」

 彼女がそこまで話してようやく、「美月とのツーショット写真」ははなが無理矢理小物を動かして見たのではなく偶然見えてしまったのだと把握する。

「ご飯の準備する時にね、お尻がそこの壁にドンって当たっちゃって……」

 はなは顔を俺の胸部分に押しつけたままの状態で腕だけを伸ばし、お尻が当たってしまったという壁の方向を指差す。

「ああ……」

 その壁はちょうどカウンターに面していたので、衝撃で小物が倒れるなどして、コルクボードの隠れていた部分が見えてしまったのだという事を俺に理解させる。
 
「はな……お尻、痛かったでしょ。撫でていい?」

 美月との写真をキッカケにして俺を嫌いになったのではないと思いたい……そう思った俺は、片方の手を彼女の肩から背中の方に滑らしながら伺いを立ててみると

「うん」

 コクンと首を小さく縦に振ってくれたので、その手を腰の方へと下ろしていき

「どの辺? 右? 左?」
「ひだりぃ」
「そっか……痛かったね、なでなでするよ」

 可愛い彼女の胸と同じくらい痛めたであろう左側の臀部をスリスリと優しく撫でてあげる。

「私ね……お留守番してる最中にって思ったの。
 お付き合い始めて2か月経って、お互いのお部屋に遊びに行く事もあるけど、まだまだお互いのお部屋の中で知らない部分がいっぱいあると思うから」

 俺のスリスリを不快に感じることはなかったようで、はなは話をそのまま続けてくれる。

「うん……そうだよね。気遣ってくれてありがとう」

 そんな、健気な彼女に相槌だけ打つのは申し訳なくて、ありがとうの言葉をちょこっとだけ付け加えてみた。

「ううん、大事だと思うから。そういうの」
「そういう細かな心遣いが嬉しいんだよ、ありがとう」

(彼女に「ありがとう」を繰り返し言って良い奴みたいな素振りを見せているけれど、実は1年も元カノとのツーショット写真を放置していた、まるで元カノに未練タラタラであるみたいなとんでもないヤローなんだよなぁ……俺。最悪だよ、本当に)

 今すぐに言い訳したい。
 すぐに弁明して誤解を解きたい。
 …………だけど、俺の胸でシクシク泣いてグズグズ鼻を鳴らしている彼女の痛みを俺の手のひらで緩和させる事が先決だと思ったし

(どこからはなに説明すれば良いのか分からない……)

 何をどう話しても、はなに誤解を生んでしまいそうな危険を孕んでいて、説明したくてもなかなか口が開かない。
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