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Chapter10:秋の味覚をご一緒に
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しおりを挟む「お待たせ、あおくん♪」
あおくんをリビングに座らせている間に私は緑茶や小皿などをトレイに乗せて運ぶ。
「テーブル、拭いておいたよ」
「ありがとう、助かるよあおくん」
「えへへ♪」
「ふふふ♪」
さっきみたいな痛々しい笑みではなく、ほんわかとしたいつものあおくんらしいニコニコ顔になっていたので、私はホッと胸を撫で下ろす。
「じゃあ、瓶を開封するね!」
あおくんの隣に座り、渋皮煮が入った小瓶に手をかけると
「あっ! 瓶の蓋って固いんじゃない? 俺が開けるよ」
そう言ってあおくんが代わりにパカッと開けてくれた。
「あおくん、力持ちって感じ♪」
「やめてよはなぁ、そんな褒め方されたら照れちゃう……あっ! でもすごい! いい香りする!!」
最初は照れ顔になっていたあおくんだけど、開封された瓶から甘くて芳醇な香りが立ち上るなり、キラキラと目を輝かせていて
「うん! するね!! 黄色い栗の甘露煮とは違う感じがするよ!!」
その香りは私の鼻もくすぐったので、期待感が高まる。
「食べるの、ワクワクするね」
「うん、ワクワクする~♡」
小皿に渋皮煮を一つずつ盛って……あおくんの前に差し出してあげて
「「いただきまーす」」
私達は同時に艶やかな茶色の宝石を口に含んで……
「「おいひ~!!!!」」
やはり同時に感嘆の声をあげる。
「すごいねー! 栗の香りがしっかりとする!」
「栗きんとんで食べるみたいな甘露煮とは美味しさが違うよね! うわ~美味しいなぁ♪」
感動レベルの美味しさで、渋皮煮をそれなりに知ってきた私まで新しい扉が開いた感覚がする。
「緑茶も合うね♪ はな、ありがとう♡」
「どういたしまして! っていうか、私ってよりは彼氏さんにありがとうだよね! わざわざ作ってくれたんだもん」
「確かにそうだね! 俺の分までお礼言ってね、はな」
「もちろんだよ~」
ご飯と一緒に炊き込んだ黄色い栗も美味しかったけど、渋皮を丁寧に処理した茶色い栗も格別だ。
「あのね、あおくん。さっきあおくんは、自分の事を栗に喩えていたでしょ?」
私は、一つ余った栗を半分に分けながら、さっきあおくんが口にした「栗の喩え」を持ち出してみる。
「うん」
「食べにくい渋皮もね、工夫したいでこんな風に美味しく出来るんだよ。
渋みは取り除くけど……この渋皮を上手く活かすからこそ、こうして栗本来の風味を残した甘煮になると思うんだ」
「うん……」
「だからね、ついてていいんだよ。必ずしも、取り除かなきゃ美味しく食べられないってわけじゃないんだもん。私、あおくんの色々を聞いてね……感じたんだ。あおくんの優しさは、その色々を経験してきてるからこそ深みが出てるんだろうなって。辛い部分だって、私が話として聞いて優しく包んであげられたらあおくんはずーっとニコニコしたお顔になれるんじゃないかなって」
「……うん」
私の話に、あおくんは何度も頷いていて……
「だからね、これからもね……色んなあおくんを教えてね。辛い事や苦しい事は私と半分こして……私と甘くハグして、人生そのものを美味しいものにしていけたら良いなって思うの」
私の手をギュッと、温かくその手で包んできて……
「ありがとうはな、大好き♡」
目尻に涙を溜めたまま、ニッコリと微笑んでくれたんだ。
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