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Chapter10:秋の味覚をご一緒に

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 美味しいのは栗ごはんだけではない。シンプルな塩焼きにしてくれた秋刀魚だって、豆腐とワカメのお味噌汁だって美味しかった。

「はなは凄いなぁ……料理上手で」

 ほんわかとした空気や優しい彼女の微笑みで幸福感に包まれる中、俺はボソッとそう呟くと

「あおくんだって料理上手だと思うよ? だってあんなに上手に栗の皮剥きが出来たんだから」

 と、また俺の「皮を剥いただけ」の作業を話題に出して褒め返してくる。

「あれはただ剥いただけだから。はなが剥きやすいように栗を水に浸していたんだし、包丁じゃなくて専用のハサミをかしてくれたでしょ?」

 けれどその褒め言葉は素直に受け取れなかった。だっては初心者でも出来る調理器具があっての事だから。
 
「えっ?」

 なのにはなはキョトンとしている。

「はなの方が手際良かった。俺みたいにハサミじゃなくて小さめの包丁でスルスル剥いていたし……俺なんか全然で。経験の差が出ちゃうんだよ。俺はだから、台所に立つ経験なんて全くなくて」

 何故キョトン顔なのか分からないまま、はなに理解してもらうようそこまで詳細に話してみようとした……けれど

「男で、長男……だから……??」

(ヤバい! 余計な事まで喋っちゃった!!)

 時代錯誤な爺さんのセリフがそっくりそのまま漏れてしまい、バッと手で口を塞ぐ。

「…………」
「………………」

 直後、沈黙が続いてほんわかとした空気が一気によどんだ。

(しまった……余計な事を言い過ぎた……)

 はなが女の子だから料理上手なのは当たり前だ……などと言うつもりはなかった。

 寧ろ……なんていうか…………。

(そうだ……はなの実家は、とは全然違う。
 はなのお父さんはきっと長男さんで、何本もある栗の木は代々受け継がれてきているものなんだろうけど、手入れははなのお姉さんの彼氏さんの方が上手くて、歳上のお父さんが他人の彼氏さんを師と仰ぐような、現代的な人なんだ……)

 はなが俺に話してくれたご実家の栗の木の話題から、何となく俺とはなの差というか……違和感を感じていた。

 分かりやすく言えば俺の実家は
 はなの家のように継ぐものや財産なんて大してないのに男の子どもを執拗に求め、離婚しても俺だけを留めた。家長は父さんではなく爺さんで、爺さんの言う事は絶対だった。
 爺さん亡き後は父さんも再婚して新しい家族が出来たけれど……んじゃないかって気持ちでいる。

 対してはなの家は全然違う。
 代々受け継がれるものはきっと栗の木だけではないんだろうし、女の子2人で居ても長女であるはなのお姉さんが栗の育て方に詳しい人を彼氏に迎え、家長のお父さんに教えるなどといった逆転現象が起きているんだ。しかも俺達が食べている栗の実は、お姉さんと彼氏さんの2人が手掛け例年以上に豊作となったものだ。

(俺の実家とはなの実家は、「長男」とか「家長」とかいう昔ながらの制度が残ってるけれど実態は全然違う。はなの家では、男だろうが女だろうが関係ない。家族みんなで先祖代々のものを守ろう、受け継ごうって気持ちがあってそれを温かい気持ちで行動て、実を結んでいるんだから)

 だからはなは喜んで栗の実を受け取り、食材を大事にしようという一心で調理していつも美味しく食べている。
 俺とはなの家は似ているようで全く違っていたんだ。

「ごめん……変な事を口走って」

 俺は今、とてつもなく恥ずかしい気持ちでいっぱいになっていた。

 沈黙を生み出したのは俺なんだから、沈黙を破るのも俺からにしないといけない。だからこそ、俺ははなに謝って

「はなのご実家の関係性って、凄くいいし羨ましいし、料理上手なはな含めて凄くキラキラして見える。
 俺の実家とは全然違うよ。はなのお父さんも、お姉さんも彼氏さんも、を凄く大事にしていて……はなもそれが誇らしいって気持ちでいるんでしょ? はながこんなに美味しく調理するのは、はなが料理上手なのもあるけど家族の想いをちゃんと受け止めて大事にしようって気持ちがあるからなんだよね?」

 俺が今頭の中をいっぱいにしている内容を続けて話したんだ。

「えっ……」

 なのにはなは2度目のキョトン顔をして

「確かに、受け継いでる栗の木の所有者は私のお父さんになってるけど……元々はチャコ叔母さんの戸籍上のご家族のものなんだよ。
 お父さん、人が良いから叔母さんの代わりに引き受けているだけでじゃなくて本来はなんだよ」

 と、俺に説明してきたんだ。

「ええ……? 久子さんの……戸籍上の……????」
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