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Chapter10:秋の味覚をご一緒に
④
しおりを挟む茶碗、箸、マグカップを選んだ俺達は……
「ねぇあおくんっ! 栗ご飯のおかずにはやっぱり焼き魚だと思わない?!」
「えっ?? や、焼き魚?」
駅前のスーパーに入っていき、食材選びを始めた。
「うん。あおくんって、お魚嫌いな人? 私時々お家で焼き魚食べるんだけど」
「いやいや、一人暮らしのマンションで焼き魚なんかしたら煙ヤバいんじゃない? 魚焼きグリル、確かはなのマンションにも無かったよね??」
俺のマンションは学生よりも社会人の方が多く住んでいる印象があるけれど、焼き魚の煙がモクモクしているだなんて噂は聞いた事がない。
(焼き魚って、イマドキ自宅で焼かないところも多いんじゃないか……?)
俺の実家はじいさんが庭で七輪を出して秋刀魚を焼いていた。
幼い頃、煙で目に染みた経験だってあるし母さんだって良い顔はしていなかった。
(なのにはなはあの部屋で煙モクモクやっているのか? グリルもないのにどうやって……?)
だから俺の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになっているし、なんならはなの料理事情にドン引きしている。
けれど、はなはキョトンとした表情で
「フライパンで焼くし、換気扇回しておけば案外煙って出ないもんだよ?」
……と、なんでもない事であるかのように答えたんだ。
「えっ?! フライパン??」
「うん、何十年も前は知らないけど、魚が焼けるアルミホイルもあってね。後片付けも楽なんだ」
「…………」
はなの返答に俺は冷や汗をかく。
(えっ? 俺が無知なだけ??)
一人暮らし歴は俺の方が長いというのに……
「うん、まぁ……あおくん、自炊しないから必要ないアイテムなんだろうけどね。便利なんだよ、お魚だけじゃなくてふわトロオムライスを作る時にも使えるし、お餅をトースターで焼く時にも良く使うの」
料理に関しては、はなの方が断然経験値が高くって……
「そっかぁ……そうなんだ、知らなかった」
無知なのが、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「ああ~そっかぁ~」
はなは秋刀魚のパックと秋鮭のパックを手に取り、どちらにしようかと顔を動かしながら「そっかぁ」を言い……すぐに
「源さんだっけ? 商店街のお魚屋さんでは焼き魚のお惣菜も夕方出してて人気だって言ってたから、あおくんもお魚食べたかったらそういうのをバイト帰りに買ってレンチンするよねぇ?」
あっけらかんとした表情で話を続けた。
「えっ? ああ……」
確かに、魚屋の源さんと健人さんは親子ほど離れているけれど大の仲良しだ。
昔は亮輔さんの細い体を気にして、値引きシールを貼ったお魚を渡して朝香さんと2人でお世話してたって聞いた事もあるし、俺も美味しい刺身や惣菜をもらった事がある。
(源さんも健人さんに劣らず世話好きなタイプだし、確かに値引きが信じられないレベルで美味しいもんなぁ)
亮輔さんとは話が良く合うし商店街の話題もよくするんだけど「源さんが捌く刺身が美味い!」は亮輔さんと俺との中での共通事項で、ジュンさんに至っては「俺には値引きしてくれないのに2人共ズルイ!」と嫉妬していたくらいだ……まぁ、ジュンさんの嫉妬は半ば冗談なんだろうけれど。
「美味しい焼き魚が近くで買えるならわざわざあおくんのお家では調理しないよねぇ」
はなの「ああ~そっかぁ~」には、「自炊しないから知らないでしょ」といった嘲笑の意味が含まれているんじゃないかとヒヤヒヤしたんだけれど、全く別方向の意味だったようで俺はホッとする。
「そうだね、電子レンジで温めて食べるばっかりだから。俺って」
「いいなぁ~商店街がバイト先だなんて羨ましいよぉ。それでなくたってあおくんのマンションの近くには美味しい飲食店がわんさかあるんだからっ♪」
「そうだね、結構助かってるかな」
「私のマンション、桜並木や川があって景色抜群なんだけど、そういうお店は少ないからなぁ~コンビニ商品をレンチンであっためる事もあるけど、基本的に自炊しないと食べたいものが食べられないからねー」
はなはずっと俺にニコニコ笑顔を向けている。
「そっかぁ……俺のマンションとはなのマンション、自転車や原付だと距離が近い感じするけど生活圏がそれぞれ違うからね」
「そうなんだよ~! 自炊も嫌いじゃないし、一人暮らしになって料理の腕も上がってきたかなぁ~とは思うんだけどねっ!」
けれど、自分ばっかりを持ち上げたり俺を貶めたりといった発言はしない。
「うん、はなの手料理めちゃくちゃ美味しいっていつも思ってるよ♪ 栗ご飯も楽しみ♪」
「えへへ♡ あおくんに褒められたら照れちゃうなぁ♡ やっぱりシャケじゃなくて秋刀魚にしようかなぁ~」
いつもニコニコで、幸せそうな笑みを浮かべてくれている。
(嬉しいな……なんか)
はなの存在があったかいし、優しい言葉にいつも助けられている感じがする。
「じゃあ、会計済ませちゃうね! ここも私が払うから~」
はなはカートをレジの方へ押していき……
「えっ?! 食器も払ってくれたのに!! 食材くらいは俺も払うよ?」
焦る俺に手をヒラヒラと振って
「ここのスーパーね、レジカート式だから♪」
カートの端末操作をササっとやって、レーンをスルッと抜けてしまった。
(えっ? 会計済ませちゃったの??)
知らずにはなとレーンを通ってしまったので、既に買い物が会計済みである事を今更ながらに知ったし
「じゃあ……せめて割り勘でっ!」
俺がそう提案しても
「じゃあ、袋に詰めてってね~あおくんっ」
絶対に食材費を教えてくれないし、袋詰めや荷物持ちといった物理的な手伝いしかさせてもらえなかった。
(もしかして、今日は最寄りの店じゃなくてこのスーパーにしたのって、俺に金払わせない目的があったのか?!)
安さが売りなスーパーではなく、このスーパーを選んだのも俺に金銭的負担をかけさせない魂胆があったんじゃないかと勘繰る。
「じゃあ、私のマンションまで帰ろうっか♪ あおくん♡」
「う……うん」
応援ありがとうございます!
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