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Chapter10:秋の味覚をご一緒に
③
しおりを挟む「じゃああおくん、一緒にお茶碗選んでいこうね♪」
はなは足を止め、俺にニコニコ顔を向けながらそう言った。
「うん……」
楽しそうなはなとは違い、俺は冷や汗を垂らしている。
(種類豊富過ぎ…………どれを選べばいいのかすら分からないぞ……)
さすが大型店舗だ。お茶碗一つ選ぶにしたって品揃えが凄すぎる。
そしてその「品揃えの良さ」が俺に追い打ちをかけ、「何をどうすればいいのやら分からない」となってしまっていた。
「……はなは凄いね、食器なんて100円ショップで買えばいいやって思っていたから」
はなが棚から茶碗を一つ手に取り外側の柄や内側の色味などを吟味している隣で、俺は場の繋ぎとして彼女の真似事を行い、感心の意味でそのセリフをぼやく。
「食器はね、私も100円ショップのだよー。ここのコーナーに来るのは初めてで、チャコ叔母さんと来た時はテトラ型のビーズクッションとか、オシャレな小物を買いに来ただけだから」
「えっ? そうなの?」
すると彼女は意外にもそんな返事をしたので、俺は目を見開かせる。
「うん、私が今使ってるお茶碗もお箸もマグカップもぜーんぶ100円ショップだよ。あおくんと一緒♪ お店は違うかもだけど」
「そうなんだぁ……」
(はながいつも使っているワンコ柄のマグカップなんて、100円には見えなかったけどなぁ……はなってもしかして買い物上手?)
俺の部屋で使っているものは無地でモノクロなものが多く、明らかに安物といった風情。
けれどはながいつも使っている可愛らしいマグカップや茶碗はグッと質が良さそうに見えていた。
「ほら、あおくんが初めて私の家でお泊まりした時から使ってるお茶碗。あれも100円ショップだよ。
一人暮らし始めたばかりの時は1人ご飯が寂しくてチャコ叔母さんと食べる為にお茶碗も2つ買ってたんだ」
「ああ……だからチーズハンバーグの時から茶碗と箸が2人分あったのか」
そして、はなの家に泊まる度に使っていた俺の分の食器は元々久子さんが使用する分であったとこの瞬間知る。
「うん。叔母さんと一緒に食べなくなって1年以上経つんだけどね」
「なるほど」
「うん、だから今まであおくんが使っていた食器は『来客用』って扱いだったの」
はなはそこまで説明してくれたのだが……
「まあ……久子さんが使わなくなったのならそうなるよね」
(じゃあ、なんでわざわざ今から新しく食器買うんだろう?)
「今日の買い物に意味はあるのか?」という疑問が湧いてしまった。
「私ね、『栗ご飯をあおくんと美味しく食べたいなー』って、実家から栗が届いた時に思ったの」
俺の、無言の問いに答えるかのようにはなはブルーの茶碗を手に取り……
「お姉ちゃんと彼氏さんが手入れした栗で作る炊き込みご飯、絶対に美味しいだろうな~だからより美味しく感じられるようなお茶碗買いたいな~って思ったし……」
……茶碗の内側も底面も見て、ふむふむと頷き、それから……
「あおくんは『来客』じゃなくて『彼氏』だから。
だから、私達で使う食器を改めて買いたいなって」
俺の目を見て、またニコニコと微笑んだ。
「はな……」
(そっか……「来客用」をそのまま使うんじゃなくて、「俺とはな用」のものを買いたかったし俺と選びたかったのか、はなは……)
俺はこの食器選びにピンと来てないまま、ただただ彼女の真似を繰り返していた。けれど彼女の口からきちんとした「理由」を聞いて、俺まで彼女の目の輝きに近いキラキラとした視界が開けたような気分になる。
「そっかぁ」
はなのキラキラ笑顔に感化された俺は、ちゃんと俺達に合うものを選びたくなって……
「はな、これはどうかな? タンポポっぽい柄で可愛らしいし、ペア茶碗って感じしない?」
やわらかな白抜きの柄が可愛らしい山吹色と空色のペア茶碗を手に取ってはなに見せたんだ。
「ホントだぁ~タンポポみたい! いいね♪」
はなも嬉しそうに同調してくれ……
「じゃあ茶碗はこの2つで決まりだね!」
はなと同じ気持ちで、楽しく選ぶ事が出来た。
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