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Chapter:8ハロウィンコスプレイベント
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しおりを挟む「オオカミさん、カボチャをぬってください」
「はーい」
あおくんはカボチャのジャック・オー・ランタンを男の子のほっぺたにぬりぬりしているその横で……
「じゃあ私は3番の黒猫さんをよろしくお願いします!」
「かしこまりました~」
男の子のお姉さんらしき小学生の女の子の頬に黒いペンで描き込んでいった。
(ふぅ……大盛況だなぁ)
初回の3年前から大人気と聞いていたけど、今年もかなりのお客様がフェイスペイントを楽しみにしてくれていた。
(去年のクオリティを求めているお客様が私達のやり方を知って幻滅しちゃうかなって心配したんだけど、意外にそういったクレームはないなぁ)
正直な話、「今年のフェイスペイントはハズレ」なんて言ってくる人が出てくるんじゃないかと心配していたんだけど、商店街が作成したポスターには「今年は新人赤ずきんちゃんと新人オオカミさんが頑張るよ」という文言とイラストを入れてくれた効果もあったのか、クレームの類は一切聞こえなかった。
(忙しさは夏の海の家くらいな感じかなぁ……)
座り作業だから海の家とは違った働き具合ではあるけど、あっという間に夕日の光が視界に入ってきたので終わりが近付いてる……というところ。なんとか乗り切れそうだ。
(イラスト大得意ってわけじゃないんだけど、やっぱり楽しいな♪)
大学生になってもこんなにたくさんお絵描きするなんて思ってもみなかった。
でもやっぱり絵を描くって楽しいし、大好きなあおくんと一緒に作業出来ているからその楽しさも倍増している。
(2人で一緒に作業いいなぁ♡ これからもこういう機会に恵まれてるといいなぁ♡)
「みなさーん! 17時半になりました!! これにて我が商店街ハロウィンイベントは終了となりまーす!!!!」
夕方になり、イベント終了のアナウンスが商店街リーダー清さんより発せられた。
「ふぅ~……はな、おつかれ」
「うんっ! あおくんおつかれ~」
私達はニコニコ顔でハイタッチをする。
「いや~本当にありがとう! 凄く助かったよ」
清さんのサポートとして運営側に回っていた清さんの次男さんで『After The Rain』で土曜日を担当しているジュンさんが、受付のテントに顔を出して労いの言葉をかけてくれる。
「いえいえ、お役に立てて何よりです」
あおくんがジュンさんに返事をすると、ジュンさんは茶封筒を2つ差し出してきた。
「蒼くんもよく頑張ったと思うけどさ、彼女さんも本当にありがとう。
これ、ボランティア扱いだから金額低いんだけど御礼だよ」
「「えっ??!」」
ジュンさんの「御礼」にビックリした私達は声も顔も合わせる。
「亮輔さんはいつもそういうのもらってませんよね? 商店街のみんなだって無償でイベント参加してるようなものなのに……」
あおくんはそう言って封筒を押し返そうとしたんだけど
「ほら、商店街は一応売り上げチャンスあるから。イベントも商売しながら気楽にやってるってわけで。
割を食うのはバイトの蒼くんと飛び入り参加してくれた彼女さんなんだよ」
ジュンさんは封筒をグイッと押し付け返す。
「俺は妻は珈琲屋さんで親父と兄貴がパン屋だから、亮輔くんは妻が珈琲屋さん勤務だし尚且つ会社規定で副収入もらえないの。蒼くん達とは事情が違うから! だから気にしないで受け取ってね♪」
「あ……」
ジュンさんの説得にあおくんは思うところがあったのか
「素直に受け取ろうか、はな」
私に笑顔を向けて「封筒を受け取ろう」と言ってきた。
「うん……そうだね」
私もニコッと笑ってジュンさんに向き直り
「こちらこそ良い経験をありがとうございました」
そう言ってジュンさんから封筒を両手で受け取った。
「いえいえ、本当にありがとう」
ジュンさんはニコニコと優しい微笑みを向けてくれる。
(商店街リーダーの清さんも優しい方だったけどジュンさんも優しいなぁ)
この前あおくんは「ジュンさんに恋愛相談をしていた」と、私への片想い時期の話をしてくれた。
ジュンさんは、あおくんよりも天然パーマが強めに入っていて明るい茶髪をした大人の男性といった風貌で会社員を勤めながらも商店街の人達に頼られている印象を受ける。
「俺も……ありがとうございました! イベントすっごく楽しめました♪ 今年も成功して良かったですね」
「そうだね♪ 朝香ちゃん亮輔くんにも今日の2人の頑張りを報告しておくからね」
(ジュンさん……すっごく良い人なんだなぁ)
あおくんが恋愛面で頼りにしていた理由がよく理解出来た。
「あっ! そうだもっと大事な内容伝えるの忘れてた!」
ジュンさんはニコニコ顔で私達から背を向けた……と思ったら、すぐきクルッと振り向いて私達の衣装を指差し
「亮輔くんからコスプレ衣装について2つ伝言があるんだよ」
と、そう言ってきた。
「伝言……ですか?」
あおくんが返事すると
「うん。クリーニングはね、倉田さんのお店を利用してね。蒼くんは知ってるよね、『倉田クリーニング』」
と、2人の中ではご存知……といった様子でクリーニング店の名前を挙げている。
「ああ……はい」
「亮輔くんがね、この衣装のクリーニングについて既に倉田さんと話つけてるんだよ。これをそのまま持っていけば蒼くん達のお財布が泣く事なくなるからね」
(ほぉぉ……という事は、クリーニング代は『倉田クリーニング』さんに代金を支払済みなんだね! 商店街の中のクリーニング屋さんなら赤ずきんとオオカミの衣装をよく知っているだろうし……亮輔さん凄い)
対応がしっかりとされていて、「流石社会人だ」と感心してしまう。
「あと一つの伝言はね…………」
それからジュンさんは、もう一つの伝言をあおくんに告げようとしていた。
「あと一つって、なんですか?」
クリーニング代の事がクリア出来たのなら、「あと一つ」あるなんて不思議だ。
「ふふふ♪ それはね~」
ジュンさんが笑みを浮かべながら言ったその内容は、あおくんも私もビックリする内容で…………!!
応援ありがとうございます!
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