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Chapter:8ハロウィンコスプレイベント
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しおりを挟む『ハロウィンイベントでオオカミのコスプレをするの? あおくんが?』
その日の夜、はなの可愛い笑顔に癒されたいと思った俺はビデオ通話で例の件について話した。
「そうなんだ。あの商店街でイベントをやるのは今年が4回目でさ、10月最後の日曜日に各店舗がお客様向けに特別サービスをするんだよ。
商店街でお買い物を1家族2000円分のレシートを受付で見せたらフェイスペイントサービスが受けられるんだ。また、特定の店舗では子ども向けにお菓子や商品の無料配布もやるの」
『へぇ~! すごい!』
「特に『フラワーショップ田上』は商店街アーケードのスタート地点にいるからさ、イベント開催のお知らせを兼ねて一輪ずつ包装されたお花を配っててね、過去3回とも俺が担当したんだよ」
ハロウィンイベントの開催は3年前、健人さん達30代の若い経営者や関係人物が一丸となって始めたものだった。
商店街のリーダーは『タカパン』の先代さんである清さんで70代なんだけど「若いパワーやアイデアを応援したい」って考える柔軟な人で、健人さん達のアイデアを周知させてイベント初回から大盛り上がり。一気に老若男女問わず愛される企画をバンバン増やしてきている。
『でも今回あおくんが担当するのはお花配りじゃなくて、フェイスペイントをするオオカミ役……?』
「そうなんだ。初回から去年までの3回とも、『After The Rain』の土曜日に居る村川亮輔さんがボランティアでフェイスペイントをしていたんだ。
イベント受付は目立っておかないといけないから、亮輔さんと朝香さんはオオカミと赤ずきんって本格的なコスプレをやってて2人ともめちゃくちゃ働いていたんだよ。
オオカミ役の亮輔さん、商店街の店の人全員とお客様のフェイスペイントをするから……200人以上毎回やっていたんじゃないかなぁ」
『200人?! それは大変だね……でも朝香さんってもうすぐ赤ちゃんが産まれて大変な時期で、亮輔さんも朝香さんの手助けをしてあげなきゃいけない。だから今回のイベントはオオカミ役が出来なくなっちゃったんだね』
「そうなんだよ……流石に今年は休まざるを得ない状況なんだ。ただでさえ亮輔さんは平日はお仕事、土曜日は『イクメンパパさんの日』をやってるから日曜日まで稼働させるのも良くないんだよね」
『なるほどぉ』
俺含め商店街の人達はうっかり亮輔さんがボランティアしてくれるのが普通だと思い込んでしまっている面があった……だからこうしてイベント開催1週間前でオオカミ役の押し付け合いが繰り広げたわけだ。
(そうなんだよな……店員さんの朝香さんはともかく、亮輔さんは元々サラリーマンであってフェイスペイントで半日以上イベントに拘束される謂れはないんだよなぁ)
「亮輔さんってさ、絵や工作がめちゃくちゃ上手なんだよ。はなも見たんじゃない? 俺がお泊まりする日にコーヒーをわざわざ『After The Rain』まで買いに行ったでしょ。今の時期店内に飾られているハロウィンモチーフのペーパークラフト、あれは亮輔さんの手作り品なんだよ」
『えっ?! あの可愛らしいハロウィンのお飾りって市販品じゃなくて手作り品なの?!!』
「うん……ちなみにハロウィンが終わったらクリスマスオーナメントも毎年飾られるよ」
『そんな人がフェイスペイント……そりゃあイベントも大盛り上がりになるよね』
「うん……そうだね」
はなが驚くのも無理はないし、当たり前と思ってはならない点は「亮輔さんが頑張りすぎる」という事だ。
亮輔さんは、朝香さんは勿論のこと『After The Rain』のマスター穂高夕紀さんを本当の姉であるように慕っているし、『タカパン』のご家族ならびに『フラワーショップ田上』の健人さん奥さんに恩義があるのだという。
商店街の経営者でもなんでもないのに、「商店街のの力になりたい」と常に考えていて頑張り過ぎる方なんだ。
「たまたま亮輔さんがオオカミのコスプレをしてフェイスペイントをやってただけなんだけど、SNSで去年も一昨年もちょっとした話題になっちゃってね。お客様も商店街のメンバーも『オオカミ=フェイスペイント役』って強いイメージがついちゃってて。いざ亮輔さんの代わりを……ってなった時に誰も手をあげる人居なくて。周り回ってバイトの俺に回ってきたという事なんだ」
『プレッシャー感じちゃうね、あおくん』
「うん、そうなんだ」
『とはいえあおくんも断れないんだよね? だってお花屋さんのバイトが出来るのもあと4ヶ月くらいなんだもん』
「そうなんだよ……俺だってそれなりに恩があるからねあの商店街には」
はなは理解力あって助かる。俺が単に「絵が上手い亮輔さんの代役はプレッシャー」と嘆いている訳ではないという事にすぐ気付いてくれた。
最近知った事なんだけど亮輔さんと俺は境遇が似ていて、高校生から一人暮らししている点だけでなく商店街にその頃からお世話になっている点までも同じなんだ。
周りまわってきたオオカミ役なんだけれど、特に俺は来年春には花屋のバイトを卒業して縁が少し遠くなってしまう……断りたくないのも事実だ。
『あおくんが頑張りたい気持ちも分かるよ』
「ありがとう、はな」
やはりはなの笑顔は俺の癒しになった。
こうしてインスタントコーヒーとミニサイズのクッキー片手にビデオ通話していると心がほぐれてくる。
『日曜日かぁ……』
ふと、はながあごに手を当てながら「うーん」と考え込んだ。
「うん、来週の日曜日だよ」
イベント日の確認かと思ってそう答えると
『それってさぁ……私もお手伝いしても良いのかなぁ?』
という意外な言葉が返ってきて、今度は俺の方がビックリした。
「えっ? はながフェイスペイント手伝ってくれるの??」
『うん。私、絵が上手ってわけじゃないんだけど可愛い系のイラストくらいなら描けるし、私もハロウィンの10月31日はチャコ叔母さんにオバケとコウモリのフェイスペイント描いてあげるから慣れてるんだよ、実は』
「えええっ?! はな、フェイスペイントした事があるの?!」
『もちろん200人なんて人数にはやらないよ? 家族に日の丸描いてあげたり叔母さんにちょこっと描くくらいだよ』
「それでもすごいよ、はな!!」
今まで画力についての話題になった事がなかったから初耳だ。
『さっきあおくん、オオカミと赤ずきんのコスプレって言ってたでしょ? 今年は私も赤ずきんコスプレをして2人体制でフェイスペイントやれば良いんじゃない?』
「今年は2人体制……かぁ」
ビックリの連続ではあるけれど、はなの提案はキラキラと輝いていて俺にとっても願ったりかなったりで……。
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