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Chapter:6初体験

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 あおくんが店員さんに禁煙席の希望を伝えて着席した15分後……。

「わぁ~ナポリタンスパゲッティだなんて久しぶりぃ~♪」

 私は運ばれてきたナポリタンスパゲッティにテンションを上げていた。

(しかも鉄板に乗ってる♪ 焼いたケチャップの香りがたまらないよ~♪)

 確か『jolie manteジョリー・マント』にもナポリタンがメニューに記載されているんだけど、他のパスタ料理同様白いお皿に盛り付けられる。確かにそれも美味しいんだけど、実家では家族でキャンプする時のスキレット料理としてナポリタンを作るのが一時的ブームとなってその印象が強かったから「やっぱりナポリタンは鉄板でジュージューが良いなぁ」という意識が一人暮らしになって以降もあった。

「確かに、なかなか食べる機会ないよねナポリタンって」

 あおくんもナポリタンは久しぶりだったらしい。

「美味しそ♡」
「うん」

 ニコニコ顔になりながらあおくんと同時に手を合わせて

「いただきまーす」
「いただきます」

 フォークをケチャップ麺に絡ませる。

(ふあああぁぁぁ~やっぱり美味しい♡)

 熱々鉄板の余熱で焦がされたケチャップソースはやっぱり香りが格別だし、甘めの味付けがたまらなく美味しい。

(前に雑貨屋さんで1人用のスキレットを見つけたんだよねぇ……2000円もしたから買うのを諦めたけど。今度近くに寄る事があったら買っちゃおうかなぁ)

 ナポリタンは1人でも作ろうと思えば作れるんだけど、ちょうどコンビニでも定番で売られている。

(チャコ叔母さんは「このナポリタン美味しいよ」っていつも言うんだけど「レンジであっためて食べるのはなぁ」って今まで買うの躊躇っていたんだよねぇ……スキレットで温めて食べてみようなぁ。先にバター入れて目玉焼きを作って、白身をカリカリに出来たら小皿に移してあのナポリタンをスキレットに投入! んで、追いバター&追いケチャップしながらジュージューやって最後に目玉焼きを一番上に乗っけたら出来上がりっ!!)

 私はナポリタンをモグモグしながらコンビニナポリタンの美味しい食べ方をシミュレーションして脳内を美味しさいっぱい幸せいっぱいにさせる。

(うん♡ 絶対に良いかも♡)

 頭の中をフワフワさせながらモグモグモグモグしていると

「ごめんね、はな。メニューを独断で決めちゃって」

 突然あおくんが謝ってきた。

「へ?」

 今でも充分幸せいっぱいなのに、謝られた意味が分からない。

「ほら、はなにメニューを見せずに俺が独断で決めちゃったから」
「ああ~そういう事かぁ」

 確かに、このナポリタンがメイン料理となるランチセットを決めたのはあおくんだった。
 ぎこちない態度でメニュー表を開き、あせくせしつつも「わぁ~! 今日のランチナポリタンだって♪ はな、一緒に食べない? 美味しそうだよ」と、ナポリタン・オニオンスープ・グリーンサラダ・コーヒーのセットをパパッと2人分決めて店員さんに注文してしまったんだ。

(なるほど、私にメニューを決めさせなかったのをあおくんは気にしているんだね。優しいなぁ)

 あおくんはテンションが上がってつい私の分も一緒に注文してしまった。
 「緊張してる」って言ってたし、テンションが上がる事で気持ちをアゲアゲに出来たのならそれで良しって思うし……何より私はこのナポリタンを選んでくれて助かったくらいなんだ。

「ううん! バシッとメニューを決めてサクッと注文しちゃうあおくんはかっこよかったよ♡」

 実際、メニューをスマートに注文したあおくんはかっこよく見えた。だから正直にそれを伝えると

「かっこよかったかなぁ俺……」

 あおくんは照れ笑いをしてスープカップに可愛らしく両手で添えながらゴクゴク飲んでいる。

「うん!」

 私は素直な気持ちを伝えたつもりで嘘は全然言ってないし

「え~そんな事ないって全然」
「全然あるよ~♡」

 かっこいい中に可愛らしさも感じて、あおくんに対してますます好感度が上がっていた。

「ナポリタン美味しいね!」
「美味しいね、はな」

 このカフェへ昭和から続いている老舗の純喫茶らしく、テーブル席もカウンター席もカップルの2人組で満杯になっている。

(私達みたいな学生カップルも大人なカップルもいて、本当に人気のカフェなんだなぁ……)
 
 お友達のまさやんさんからオススメされたらしいけど、その意味がすごくよく分かる。

(食事終わって会計したら向かいのビジネスホテルに入って……で、また1分としない内にまた別のカップルが入店して。すごいお店だなぁ)

 このお店の向かい側は大きな建物が立っている。

(HOTEL……ビジネスホテルかな?)

 また別のカップルが向かい側へ行くのを目で追いながら壁の字体を見つめ……

(ん? みんなあの建物に行くのって、ちょっと変じゃない?)

 私が目にしただけでも、カフェを出た3組のカップル全てがあのHOTELへ吸い込まれるように入っていってるんだ。なかなかに不思議な感じがする。

「ねぇねぇあおくん。ここのお客さんって……」

 私ははあおくんに近寄って口元に片手を添え、内緒話くらいに声のトーンを落としながら

「みーんな、向かいのビジネスホテルへ入ってる? 私達くらいのカップルも居るけど実は会社員なのかなぁ?」

 そんな推理を打ち出してみた。

「えっ? 会社員?」
「うん。今日は日曜日だからみーんなここでチェックインして、明日に本社で合同会議する……みたいな」

 見かけたカップルは私達くらいの20代から40代まで世代はまちまち。男性も女性も入っていくから、学生じゃなくて全員が社会人なんだと気付いたんだ。

「合同……会議……」
「そういうのってないのかな? コンビニ業界ではね、接客の的確さを競う大会が開かれて全国から代表者がおっきな会場に集まって技能を披露するみたいなのがあるの。私は行った事ないんだけどチャコ叔母さんも昔何回か出た経験あるらしくて」
「……」
「だからね、そういうのがあるから前日に同じホテルに泊まるのかなぁって」
「…………」

 コンビニの技能大会はチャコ叔母さんから話を聞いた事があるし、推理としては完璧だと鼻息を鳴らす。

「あのね、はな……」

 けれどあおくんはなんとも言えない微妙な表情でいて……

「なぁに? あおくん」
「…………」
「?」

 そこからまた黙り込んでしまった。

(うーん……あおくん、何か私に言いたげな感じ?)

 あおくんの反応を不思議に感じながら肩を落とし、着席し直した私はまた後ろを振り向き窓の外を眺めながら

「そうだとしたらどこのコンビニなんだろう? チャコ叔母さんなら噂で知っていたりするのかなぁ」

 と、呟いてみたらあおくんは焦った表情にバッと変えて内緒話ポーズをとり……

「あのねはな……向かいの建物はビジネスホテルじゃなくてラブホテルなんだ」

 と言ってきたんだ。

「へ? ラブホテル?」
「そう。カップルがイチャイチャする為のエッチなホテルなんだよ。だからお客さんみんなあそこへ行くのは合同会議の前乗りとかそういうのじゃなくて…………」

 
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