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Chapter:6初体験

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「あー……どうしよう」

 はなと彼氏彼女の関係になって初めてのデートという事もあって……

 待ち合わせ場所に辿り着いたというのに俺は落ち着きなくウロウロとしていた。

(マジで落ち着かない……)

 待ち合わせ場所はまさやんが激推しするカフェ最寄りの駅……の中にある映えスポット。

 陽キャでもなんでもない俺がこんな場違いなスポットに居るのも落ち着かない理由の一つになっているし、何より……

(っていうかまさやんのヤツ! なんでカフェの事も周辺エリアの事もネット検索しちゃいけないんだよ!! 事前知識が得られないのがソワソワするっ!!)

 カフェの行き先を教える条件に「当日行くまでネット検索しない事」なんていう無茶ブリを課してきたものだから余計にソワソワモヤモヤが止まらない。


 待ち合わせ時刻まであともう少し。チラリと横を見ると高校生くらいの若いカップルが映え画像をスマホで撮影している様子が視界に入った。

(楽しそうだな……はなが到着したら撮ってみようかな)

 流石人気スポット。カメラの絵の部分でスマホを構えたりツーショットを次に待つ人に撮ってもらったりなどして賑わっている。

(俺、邪魔だな……もっと端っこに寄らないと)

 はなと一緒に楽しくツーショットを撮ってみたい気持ちもあるけれど、俺1人だと萎縮してしまう。
 その場から一歩二歩と後退して陽気な空気の外へ出ようとしていたその時

「あおくーん!」

 可愛らしい声が俺の鼓膜を振動させ

「はな……」

 気まずい空間から解放されたとばかりに俺はその声の主へと駆け寄った。

「待った?」

 フランクな話し方で息を切らすはなに、俺は笑顔を向けながら

「ううん、今来たとこ」

 返事する。

「いつも早く来てもらってないかな? なんかごめんね」
「そんな事ないって。たまたまだよ、たまたま」

 たまたま……なんて誤魔化しているけど、俺がいつも待ち合わせ場所に早く来ているのは待ち合わせ時間よりも明らかに早く辿り着くよう早いダイヤで来るからだ。

「そう? 今度は一本早い電車に乗る事にするね!」
「そんな気を遣わなくていいからっ! こうして会えた事が嬉しいんだもん。はなは自分のペースで事故なく来て元気な顔を見せてくれれば良いんだよ」

 はなが「俺に合わせて次や早く来る」なんて言い出したものだから、必死に止めてあげた。

(今日だって2本早いヤツで来ちゃったからなぁ……はなが悪いわけじゃなくて、悪いのは俺なんだよなぁ)

 はなを待たせてはいけないという思いがこんな行動に出てしまうんだ。改めるのははなではなく、俺である事は間違いない。

「あ、そうだ。ここで記念に写真撮らない? 映えスポットらしいし」

 俺はさっきまで立って待っていた場所を指差してはなを誘う。

「あー、そうだよね♪ せっかくだから撮ってみたいなぁ」

 はなも結構乗り気だし、行列も少なめになってきていて待ち時間も短く済みそうだ。

「じゃあ並ぼうっか」
「うん!」

 今月末がハロウィンという事もあって、人気の撮影スポットにはオレンジのカボチャや黒いコウモリといった飾り付けがしてある。

「1人ずつ個別に撮る?」

 お付き合いが始まったばかりだから、いきなりツーショット写真を撮るのはハードルが高いかもしれないと思った俺がはなにそう訊いてみると

「ううん! せっかくだもんっ! あおくんと2人で撮ってみたいなっ!!」

 珍しくはなは力を込めた声でツーショット撮影を選択する。

(恥ずかしそうに首を赤くしているんだけどなぁ……)

 メイクで頬を赤らめているかの判断がつきにくかったけれど、オフショルダーの可愛らしいカットソーから見える首や鎖骨はピンク色に染まっている。恥ずかしがっているのは確かではある。

(ツーショット、俺は嬉しいけど大丈夫かなぁ?)

 恥ずかしがっているのにツーショットを求める彼女の気持ちは嬉しい反面、「無理にそっちを選んでいるんじゃないか?」という不安に駆られる。

(あまり密着しないようにしないとなぁ)

 ここはカップルらしくはなの腰に手を回してギュッとくっつき合って撮りたいところだけれど、ギリギリの隙間を開けるようにしながら並んで撮影した。

「良かったね!」

 撮ってもらった人にお礼を言ってスマホを受け取ったはなは、またこぶしをギュッと2個作って首の高さまで持っていきながら語気を強める。

「……そうだね、良かったね」

 はなの仕草が不思議でたまらなかったけれど、喜んでいそうだったので笑顔で返すに留めた。

「じゃあ、カフェへ行こうか」

 俺が手を差し出すと

「案内よろしくね♪ あおくん♡」

 はなは躊躇ためらいもなく俺の指の間に自分の指を絡めてきたから

(恋人繋ぎだ♪ やった!)

 嬉しさがより込み上げてきて、ギュッと強く握り返す。

「えへへ♡」

 はなは俺を見上げながら可愛らしい声で笑う。

「えへへ」

 俺も同じように笑って、まさやんから教わった通りの道順でカフェへと向かった。
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