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Chapter:6初体験

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 俺の「好き」が成就した。

 俺にとって「特別な人」が出来たし、彼女にとって「特別な人」になり得たいと強く思う。

 ただ優しいだけの男にはなりたくない。
 けれど彼女の柔肌に爪を立てるような事もしたくない。


 ああ……俺は一体この次、どのようにハードルを越えれば良いのだろうか?





「あーお! どうした? 浮かないカオしてんじゃん」

 はなと彼氏彼女の関係になれた数日後、俺は久しぶりにまさやんと顔を合わせたんだけど……

「うん……」

 どうやら俺は、親友から見て落ち込んでいるように感じられていたらしい。

「なんちゅうカオしてんだよあおー! 内定決まったし、愛しのはなちゃんともカレカノになれたんだろ? ハッピーしかない状況なのに辛気臭いぞ?」
「カレカノ……」
「そーそー♪ 彼氏彼女の略」
「略されてるのは分かるけどさ」

 まさやんも俺とほぼ同時にメーカー業の営業職が決まった。
 だから今日はプチお祝いしようと居酒屋へ集まったわけだ。

「正直な話、あおは内定よりも嬉しいんじゃない? はなちゃんとカレカノになれた事が」
「まぁ……そうかなぁ」

 まさやんの言う通りだ。
 グビッとビールを喉に流し込んだ今もそう感じる。

(のどごしの爽快感に負けてない……俺の中にあるはなへの感情は)

「じゃあなんでそんな風になっちゃってんの?」
「そんな風って……そりゃあ」
「そりゃあ?」
「…………」

 鸚鵡返おうむがえしなまさやんの声に俺は黙り込む。

「…………もしかしてさぁ、あおって」
「…………」

 まさやんには今までの片想いや恋愛事情について相談を色々としていたから、俺が言葉を発しなくても大体予想がついていたのだろう。

「今年初めに付き合ったみっちゃんの件が原因で、はなちゃんと次に進めたくても進めないみたいな感じ?」

 まさやんはいきなり俺の心めがけてズバッと切り込んできた。

「!!!!」

 思わずビールを噴き出しそうになる。

「やっぱりそうかー! そんな事じゃないかなーって思ってたんだよねぇ♪」

 まさやんは「当たって嬉しい」とばかりに笑いながら俺の肩をバシバシ叩いている。

「ぐっ……」
「んもぉ~♪ 相変わらず純情ハートなあおくんなんだからぁ♪」

 酔いが回ってるのもあるんだろうけどふざけた口調で揶揄からかおうとしてきていて

「純情ハートなのは仕方ないだろうっ! まさやんと違って俺はなんだよっ!!」

 自分がまだチェリーボーイだという弱みをポジティブワードで自ら慰め

「やぁだぁ♪ 怒んないでよあおー」

 まさやんからそっぽむいてまさやんの好物を強奪してやる。

「俺の気持ちなんかわかんねー癖に」
「分かるよ分かるよ~俺はドーテーじゃないけど気持ち分かるよマジで」
「ストレートに俺を馬鹿にしてんだろ、それ」
「馬鹿にはしてないってば♪ 楽しんではいるけどっ♪」
「最低だろ、それ」
「まーまー、あおの好きなヤツ頼んでやるから機嫌直せって」

 イラつく俺に対し、まさやんは焼き鳥の追加注文を挟んで背中をなでなでして俺の気を惹こうとしている。

「うっ……」
「馬鹿にしてないし揶揄ったつもりもないんだって。これでも心配してんだよ? あおの親友だもん」

(親友……)

 まさやんとは大学入学からの仲で、お互いの身の上話も明かした関係でもある。友達になって3年半だけど、この先もずっとこうやって飲んで語らっていくようになれば良いと思っていた。
 だからまさやんから改めて「親友」という表現をされると、なんだか心地良い。

「みっちゃんと付き合っている時のあおとさ、今のあお。違っているようでいて共通してると思うんだ」

 まさやんは背中なでなでを止めず、真面目トーンで俺にそう言う。

「違っているようでいて、共通してるって……何が?」

 鸚鵡返しな俺の問い掛けにまさやんは

「はなちゃんとラブラブなあおは、すっごくかっこよく見える。就活を乗り越えたっていうのもあるけど、はなちゃんとあんまり会えてなくても焦りがないし気持ちの余裕があるというか。そういう面ではオトナになれてるんじゃないかって思うよ」
「……」
「そこが『違っている』部分ね」

 まさやんは明るく陽気だけど、嫌味がない言い方を選ぶ。

「お、おぅ」

 だから「かっこよく見える」の意見が嬉しく感じてしまったし……

「『共通している』のはズバリ、あおが無理矢理にでも女の子に優しくしてあげようって思い過ぎている部分だよ。
 カレカノになったらキス、キスをしたらボディタッチ、ボディタッチまで行けたら次はエッチ……って、俺含め大半の男はそう思うじゃん? ミッション設定してクリア、ミッション設定してクリア……そうやって女の子とシミュレーションゲームして攻略していくみたいな。
 男は誰しもそういう性質を持っているかどうかなんて地球上の男みんなに聞いて回った事がないからどうとも言えないけど、もしかしてあおもそういう気持ちが多少なりともあるんじゃないかって感じるワケ」
「ミッション設定してクリア……」
「そう。まぁ、俺の恋愛スタイルがまさにそれってヤツなんだけどねー♪ だぁから経験人数は増えても真実の愛が見つけられてなーい」
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