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Chapter4:海の家

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(うわあ……忙しくなってきたぁ!)

 砂浜のゴミ拾いやテーブルと椅子の設置を終えたら続々と海水浴客がやってきた。

(海って感じがするー!!)

 実家に住んでいた頃は海水浴なんて滅多に行かなかったから、活気の良さにワクワクしてくる。

「長岡さーん、焼きそばとカレー出来上がったよ」
「はーい!」

 朝の9時から4時間近く、テーブル席に空きが出ないくらい忙しかった。

(暑いし忙しいけど、なんか楽しい!)

 意外にも私には余裕がある……というのも

「阪井くん! ノンアル4杯っ」
「すぐに持っていきまーす!」

 ノンアルビールの注文が多く、それをあおくんが全部運んでくれているからだった。

(あおくん凄い……)

 ノンアルだから19歳の私でも運ぶ事は出来るんだけど「アルコール入ってなくてもビールだから」「雰囲気で酔った気分になる人もいるから」って、敢えて私に扱わせないようにしてくれる。

(ノンアルなら酔っ払いに絡まれる事ないはずなんだけどなぁ……)

 もしかしたらあおくんは、桜の時期に遭ったを気にしてくれているのかもしれない。

(優しいな……私がまた悲しまないようにって配慮してくれているんだなぁ)

 そんな彼の優しい気持ちにキュンとしてしまうし

(あおくんに負けてらんない! ノンアルビール以外の注文は私が全部運ぶって気持ちで取り組もう!)

 あおくんの優しさに甘えるばかりじゃなくて、自分の仕事を全力で取り組んでいく。





「終わった…………」

 休憩を取ったのを忘れてしまうくらい1日が慌ただしく過ぎていき、あっという間に営業時間終了となった。

「あおくんお疲れ様」

 あおくんと一緒に店の片付けが出来たので労いの言葉を掛けると

「うん、はなちゃんもね」

 あおくんは爽やかなニコニコ顔でそう返事をしてくれた。

「忙しかったけど、すっごく楽しかった!」
「そう? 本当に楽しかった? コンビニバイトしてる時よりもヤバかったんじゃない?」
「確かにそうだけど、いつもとは違う業務だからすごく新鮮で楽しかったんだよ~」

 忙しかったけど、自分の言葉に偽りはない。コンビニとは違うバイト経験が出来て本当に嬉しかったし幸せだったんだ。

「そっかぁ」
「あおくんももしかしたらそうだったんじゃない?」
「まぁ、そうかも」
「あおくん、ニコニコしてたもん!」
「そうかなぁ?」
「うん!」

 そしてきっとあおくんも私と同じような気持ちでいるんじゃないかと想像した。

(激務がイヤなら去年に引き続き今年もやろうって気持ちにならないもんね。何たってあおくん、本当にキラキラニコニコしていたし)

「ふふふ♪」
「えへへ♪」

(海の家っていいなぁ♪)


 
「店長さん! Tシャツありがとうございました!」

 Tシャツは持ち帰って洗濯するのではなく、カゴの中に入れて後で店長さんが洗濯してくれるシステムとなっているらしい。
 着替え終えた私は手の空いた店長の竜司さんに声を掛けると

「こちらこそいっぱい働いてくれてありがとう」

 と、ニコニコしながらお礼を言ってもらえ

「あ、そうだ。今日さ、隣町で花火大会あるの知ってる? 今日のメンバーみんな、今から隣町まで移動するらしいよ。長岡さんは阪井くんと行ってみるのどう?」

 次いで花火大会の情報まで教えてくれた。

「えっ?! 阪井……さん、とですか?」
「うん、帰りの方向一緒だろ? 夜遅くなっても阪井くんと帰るなら安心じゃないかな?」
「そうですけど」

(花火大会か……)

 確かに、あおくんとなら一緒に行ってみたいし大輪の花火も観てみたいと思う……けど…………。

「店長さんはこの後どうするんですか?」

 私は、朝にゴミ拾いした時の事を思い出していた。

(砂浜のゴミ……手持ち花火のゴミがかなりあったんだよね)

「えっ? 俺? 花火大会には行かないよ。まだやる事があるから」
「ですよね……」

 私はゴミ拾いで使ったゴミばさみを指差して

「今日花火大会が近くであるなら、今夜わざわざここで手持ち花火で遊ぶ人っていませんよね?」

 そう質問したんだ。


 
「はなちゃーん?」

 しばらくしていると、あおくんが辺りを見回し私を探しているようだったので

「あっ! あおくーん!」

 手を振ってこちらへ呼び寄せた。

「はなちゃん……どうしたの?」

 薄暗い中私が手に持っていたのは大きなポリ袋とステンレス製のゴミばさみ。

「店長さんに了承得て、ゴミ拾いしてたの」
「ゴミ拾い?」
「うん! 陽が落ちちゃったから出来る量に限りはあるんだけど、少しでも拾っておけば明日バイトに来る人の負担が減るでしょ?」
「確かに……」
「ここ、夜もカップルや学生で手持ち花火したりと遊ぶ人が多いんだって。だから営業終了直後にゴミ拾いしても追いつかなくてあんまり意味ないらしいんだけど、今日は隣町で花火大会があるからこっちで手持ち花火やる人はほぼ居ないんじゃないかって店長さんが言ったから、それで私がゴミ拾いやっておこうって」
「はなちゃん……」

 疲れてクタクタではあるけれど、朝早い集合は誰だってイヤなはずだ。

(花火大会行くのもいいなって確かに思ったけど、本当に人混み苦手だし帰宅ラッシュに遭う方がイヤだからなぁ)

 私はまだまだ体力が残っている。
 人混み苦手な私が少しでもここで頑張れば明日のバイトの人達は楽が出来るんじゃないかって思ったからこその行動だった。

「俺も拾うよ」
「えっ?」
「完全に真っ暗になるまであと少し……1人よりは2人で手分けした方がたくさん拾えるからね」

 あおくんはそう言うと、しゃがんで手でゴミを拾い始めた。

「あっ、ゴミばさみ店長さんからもう一つもらってくる……」
「いいよいいよ。手でいけるから」
「うん……じゃあ、危ないものが落ちてたら教えてね! 私が代わりに拾うからね」
「うん」

 薄暗い中でも、あおくんはキラキラとかっこよく見える。

(わざわざ私に合わせてくれてるのも嬉しいけど、あおくん本当に素敵だなぁ)

 私と一緒にゴミ拾いしてくれるあおくんの姿に私はものすごく嬉しくなった。
 

 
 


 
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