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Chapter4:海の家

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 …………と、いうわけで!

 8月2日、晴天の朝7時過ぎ。



「朝早くてまだ眠いよね?」
「ううん、さっきまで寝れたので大丈夫!」

 私とあおくんは、海辺の駅に到着しました。

「あおくんは眠くない?」
「大丈夫」

 テスト期間最終日に届いたあおくんからのメッセージはなんと「海の家での1日バイト」のお誘い。
 水着でセクシーアピールは回避したものの、あおくんと一緒に海で1日を過ごすビッグチャンスが舞い込んできた……んだけど

(うっかりして電車の中で居眠りしちゃったあああああああああああ)

 口ではしおらしい事言って清楚女子を気取っているけど、バイト開始前からあおくんに失礼な事をしてしまって脳内パニックを起こしていた。

(昨夜は深夜2時までコンビニで働いたとはいえ、失礼すぎるっ!!)

 集合時間が6時で4時間も寝られなかったというのもあるけど、座席が空いていたのと列車の揺れ加減が心地良過ぎて、私は約1時間頭をあおくんの肩に預けたままにしてしまいめちゃくちゃ後悔をしている。

「っていうかごめんね! あおくんの肩を借りちゃって」
「全然大丈夫。はなちゃんの頭、全然重たくなかったし」

(うわああああああん! あおくんニコニコしてるけど、絶対にイヤな思いしてるはずだよぉ)

 一応私にはニコニコ顔を向けてはいるけれど、なんとなく表情がぎこちないあおくん。

「本当にごめんなさい」
「いいよいいよはなちゃんは昨夜遅くまで忙しくしてたんだから、仕方ないよ」

 尚も私に優しい言葉をかけてくれているんだけど、なんとなく頬あたりが赤くなっているような気もする。

(あわわ……痴態をさらしてしまった……恥ずかしいよぅ)

 到着直後にヨダレが垂れていた事にも気付いたし、絶対に変な顔をして寝ていたに違いない。あおくんにブサイク寝顔を見せてしまった恥ずかしさはあるんだけど

「今日は精一杯働くからよろしくね! あおくん♪」

(ええいヤケだ! 挽回出来るのはここからっ! 私の頑張りをあおくんに見てもらって印象を良くしてもらうしかないっ!!)

 私はこの恥ずかしさをバイト業務のパワーに変えようと、気合いを込めつつそう言った。

「うん、分からない事あったら何でも聞いてね」

 あおくんは爽やかな笑顔をして優しく返事をしてくれ、海の方を案内する。

「あおくんは海の家で何度かバイトした事あるの?」

 海辺へ向かいながら私が質問すると

「あるよ、去年はね、1週間くらいホールを担当したんだよ。ちなみに今日俺達がやる仕事は主にホールだよ」

 という、何とも大学生らしい返事が返って惚れ惚れしてしまった。

(1週間も泊まりで夏の短期バイト! かっこいい……)

「ホール! 接客かぁ」

 思わずテキパキ動いて接客するあおくんを想像し、頬の筋肉がフニャッとゆるむ。

「今からは店の掃除や周囲のゴミ拾いからだね。夕方過ぎるまでずっと体動かす感じになるかも」

 一応、事前にあおくんからは「忙しいバイトだよ」とは言われていたからそういう心の準備はしていた。

「そうなんだね」

(がむしゃらに働いていたら恥ずかしさは吹き飛ばせるかも)

 コンビニ業務しか経験はしていないけど、お客さんで店内がいっぱいになった時の捌き方くらいは心得ている。

「今日やるバイト先は人気店だからお客さん多いかも」

 だからあおくんの言葉には

「お客さんに人気のお店を手伝うのかぁ~なんか燃えるなぁ」

 闘志みたいなものがメラメラ燃えてくる。

「やる気出してもらうと店長も喜ぶと思うよ。真面目な子大好きな人だから」
「真面目かどうかは自分じゃ判断出来ないけど、頑張りたいって思うよ!」

 俄然やる気が出てきた私にあおくんはニコニコ顔で見守ってくれている雰囲気。

「ありがとう」

(メラメラの私とは違って、あおくんはニコニコしてて余裕があるなぁ。さすが去年1週間も泊まりで乗り切った人は違うなぁ)

 私の2歳上ともあって、あおくんはすっごく大人っぽい。

(昨日も就活で忙しかったって言っていたけど疲れた様子もないし、あおくんって凄いんだなぁ……かっこいいなぁ)

 余計に、あおくんに負けじと頑張ろうって思えたんだ。


竜司りゅうじさん、おはようございます」

 竜司さんというのは、海の家を経営している男性で……

「ああ、今年もよろしくな! 阪井くん!!」

 すっごく背が高くて貫禄があってカリスマ性もあるような……とにかく「竜」の名に相応しい男性だった。

「初めまして! 長岡華子と申します! 今日は一日よろしくお願いします!!」

 一見恐そうな雰囲気がある店長さんだったけど

「はい、長岡さんね。よろしくね! 早速だけどコレ。店のロゴ入りTシャツ。
 サイズ違いもあるから体に合わなかったら遠慮なく言ってね」

 笑った顔は素敵でとても優しくあったかい感じがした。

「ありがとうございます。あの……一応確認なんですけど、このSサイズってゆったりしてますか?」

 竜司さんが渡してくれたのはSサイズのTシャツだったんだけど、レディースのSかメンズのSかでサイズ感が違うから質問してみたんだけど

「メンズのSだから長岡さんがが着たら丈長いかもしれないかなぁ……でもゆったりは着れると思うよ。うちで働く女の子みんなして働いてもらいたいからね」

 あおくんに聞こえない声で体周りの心配をしてくれた。

(良かった……察してくれたぁ)

「ありがとうございます。早速着てみますね!」
「さっきも言ったけど大きいの欲しかったら遠慮なく言ってね。もっと大きいサイズのもセルフカットして裾を結んじゃってもいいんだから」
「ご配慮本当にありがとうございます」

 私はペコッとお辞儀してTシャツに着替え、胸が目立ち過ぎていないのを確認してあおくんの前に立った。

「どうかな? あおくん」

 あおくんの前でくるりと一回転すると

「いいんじゃない?」

 と、ニコニコしてくれたし向こう側に立つ竜司さんも満足げにウンウン頷いてる。

「あおくんは袖を肩までめくっているんだね」
「暑いの分かってるからね。俺はこうしてる方が仕事しやすいんだ」

 あおくんは慣れてるのか、自分用にTシャツを着こなしていて既にイケメンさを醸し出していた。

(よーし! めいいっぱい働くぞー!)



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