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Chapter3:ビデオ通話

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 ヘアスタイルを変えたら惚れ直す、とか言うけれど……。
 
 キミの三つ編みも巻き髪も、同じくらい可愛いって思ってしまった。
 こんな気持ちになったのは生まれて初めてかもしれない。




 桜の花が完全に散り、新緑の季節になってきた。

 俺は就活とバイトで多忙極まりない状況で、ランチ以来彼女とは会っていない。
 けれども、大きく変わった事が二つある。

[はなちゃん、おはよ]

[あおくん、おはよ]

 まず一つはお互いの呼び名が変わったこと。
 せっかく「仲良しさん」になるんだからと、俺は「はなちゃん」と呼び彼女は「あおくん」と呼ぶようにしたんだ。

[今日も一日頑張ろうね、はなちゃん]

[うん!一緒に頑張ろうね]

 二つ目はこの、朝からのメッセージやり取り。
 朝起きたら「おはよう」を言い合うけど日中からおやすみまでは各々都合付く時間がバラバラだから返事は「返せる時に無理なく返す」がルールとなる。

(朝から癒される……)

 普段のメッセージやり取りも楽しいけど、俺はこの「おはよう」のやり取りが一番大好きだ。
 リアルタイムで送信し合えるし、何よりはなちゃんの「一緒に一日を頑張ろう」と書いてくれるこの文字が気に入っている。

(一緒にって、いいなぁ)

 お互いに寝起きだし、「おはよう」の内容は大した変化がない……けれどそれが良い。

(日を追うごとに好きになってないか? 俺……)

 メッセージだけだと顔が見えない。
 顔が見えない代わりに、文字を通して彼女の人間性に触れられるから嬉しい。
 ……こんな思考に陥るのはやはり「はなちゃんが好き」以外に成し得ないんじゃないかって思っていた。

(朝の支度時間だし、今頃はなちゃんは髪を三つ編みに結っているんだろうな)

 インスタントコーヒーをサッとカップの中で作りトーストした食パンにピーナッツバターをぬりながら、俺ははなちゃんの長い髪を思い起こし花柄の可愛らしいパジャマ姿のまま慣れた手付きでクリクリと三つ編みに可愛らしく結っていく様子を妄想する。

(妄想のはなちゃんもかわいい……)

 ここ1ヶ月のやり取りで、はなちゃんの事を色々と知る事が出来た。

 はなちゃんはあのコンビニが入っているワンルームマンションに一人暮らしをしていて、あのコンビニ店長さんははなちゃんのお父さん方の妹……つまりは叔母と姪の関係だということ。
 ランチの時は、酔っ払い2人から「田舎っぽい三つ編み」と言われたのを気にして、人生でほぼ初めてゆるやかな巻き髪ロングヘアにチャレンジしつきてくれたこと。
 4月から大学2年になり、年齢は19歳。日本文学を学んでいるということ。
 自動車の免許は持っていないけど原付は取っていて普段の移動はもっぱら原付運転しているということ。

(っていうか、全部がかわいい……エピソード一つ一つがかわいすぎて妄想に繋げてしまう)

 就活と授業とバイトで息つく暇もない俺にとって、かわいいはなちゃんからのメッセージは確実に癒しになっていた。

「よしっ! 今日も頑張ろうっ! はなちゃんと一緒ならいけそうな気がする!!」
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