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Chapter2:御礼ランチ

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 その後もニヤニヤ健人さんの視線を配達や接客でかわし……午前中のバイトを終え、今は12時50分。

(服装おかしくないかな……一応昨日、慌てて買いに行ったんだけど)

 俺は『jolie manteジョリー・マント』から徒歩10分くらいに位置する駅の前に立った。
 この駅は特徴的な待ち合わせポイントはないけれど、ファミリー向け分譲マンションがあったり休憩スペース付きのスーパーがあったりして友達との待ち合わせ場所に適していた。

華子はなこさんはそろそろかな?)

 待ち合わせ時間は13時だから、10分前の行動。
 友達を10分待つとなったら大概遅刻してくるのもあって、間違いなくスーパーに直行して自販機でコーヒーを買って休憩スペースの椅子に座りスマホをいじるんだけど今日ばかりは約束した駅前広場から離れる事が出来なかった。

(華子さんのお家はあのコンビニの近くなのかな? だとすると電車じゃなくて俺と同じように歩いて来てくれるのかな?)

 ドキドキというか、ソワソワする。
 だからなのかどうか分からないけれど、無意識に俺との共通点を見い出そうと頭を働かせていた。

(いい匂いがしたなぁ……あれは桜並木からの香りが風に乗ってきてただけなのかな)

 健人さんは「桜にはパワーがある」と言っていた。実際桜の花や葉には人を朗らかにさせる効果があるらしい。
 
(華子さんにとっては怖い思いをした瞬間ではあったけど、俺にとっては……)

 こんな事を思ったら華子さんに嫌われてしまうだろうか?
 俺はあの時華子さんを救えて良かったと思ったし何より出会えたのは運命なんじゃないかとさえ思っていた。

(華子さんの、におい…………)

 それもあって余計に、可愛らしい声で名を名乗った時に俺の鼻腔を刺激したのは桜の香りなんじゃなくて……

(いい匂いだったな…………)

 華子さんの可愛らしい匂いなんだって、そう思い込みたかったのかもしれない。
 

「あ」

 ぼんやりしていたら、向こう側からふんわりとした長い赤髪を揺らし春らしい軽やかなワンピースを身に纏った女の子が近付いてきた。

「華子さんだ」

 三つ編みではなかったし服装もガラッと変わっていたけれど、華子さんである事は明確だった。

「あ、あおさんっ!」

 だって俺を見つけるなり小走りで駆け寄ってきたし……

「こんにちは、華子さん」
「すみませんっ! 遅刻しちゃいましたか?」
「いえ、時間ピッタリです」
「お待たせしてしまいましたか?」
「俺もさっき来たところだから大丈夫」

 息を切らしながら目の前に立ってくれた時、とってもいい匂いがしたから。

「良かったぁ~遅刻だけは絶対にしちゃいけないって思ってましたから」
「ふふふっ、俺もです」

 顔を合わせて、自然と微笑み合う。

「ふふふ♪」
「えへ♪」

 やっぱりお食事の誘いに乗って良かったと、改めて思った。

「じゃあ、行きましょうか! 私はチャコ……じゃなくて、と何回か行った事がありますから案内しますっ」

 丸眼鏡の奥の目が、可愛らしい三日月型になったのに

「あ、実はですね……まだ食べに行った事がないだけで良く知ってるんですよ。お店」
「えっ? 蒼さんご存知の店だったんですか?」

 驚き声と共にクリッと大きく丸く見開いたので、思わず頬が弛んだ。

「はい、オープン前の時間に花の配達をしてきたところなんです。俺、花屋でバイトしてるんで」
「そうだったんですね~!!」
「ですから、並んで一緒に行きましょうか」
「はい、並んで、歩きましょうね」

(エビグラタンも楽しみだったけどやっぱり華子さんとこうして会う事を本当に楽しみにしていたんだな……俺は)

 ソワソワは消えて、心地よいドキドキが全身へと優しく広がっていく。

(華子さんとの時間を、思いきり楽しもう)

 始まって早々、絶対に幸せいっぱいのランチタイムになると俺は予感していた。
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