【完結】雨上がりは、珈琲の香り①

22時の待ち合わせ

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「今日も1日お疲れ様。朝香ちゃんはもう帰って良いよ」
「はい、お疲れ様でした」

　今日も閉店時間に夕紀さんに見送られ、アパートまで走り始めた。

「今日はお魚じゃなくてお肉なんだよねー♪ カット野菜を初恵さんからもらってるし、炒めて焼き肉のタレで味付けした肉野菜炒めにしようっと！」

　私はあっさりメニューでも良いけど、これから仕事するりょーくんにとってはそうはいかないから、スタミナ出そうな簡単料理を頭に思い浮かべながらアパートへと向かう。
　すると突然、携帯のバイブが震えた。

「こんな時間に電話？ りょーくんかな？」

　手にとって画面をみると「上原俊哉うえはらとしや」の文字が表示されている。

「えっ……りょーくんの従兄さん？！」

　意外な人物からの着信に目を見開き、スマホを耳に当ててみると、一度だけ会った事のある男性の声が聞こえた。

『村川朝香むらかわあさかさん、お久しぶりです。上原です』
「お久しぶりです！ 先日はコンビニで休憩させて頂きまして有難うございました。あと、車も……」

　久しぶり過ぎる相手との通話にドギマギしながら「御礼を言うべき内容に漏れはないだろうか？」と記憶を辿りながら喋る。

『車？……ああ、結構前に亮輔が借りに来た時の話かな？ あれは全然いいよ。君にとって良いドライブデートになったのならこちらも嬉しいし。
　……それよりも家賃値引きの話なんだけど、今電話大丈夫かな？』

　「家賃値引き」と言われて、そういえば上原さんはコンビニ店長だけでなくアパートのオーナーでもあったことを思い出す。
　あの話は私がりょーくんのコンビニへ行った時のまま２ヶ月以上経っていたので、やはり冗談だったんだと自己完結していた。

「家賃値引きの件、検討してくださっていたんですね。有難うございます」
『そりゃ前向きに検討してたよ。でも申し訳なかったけど俺も忙しくてねー。君に電話すると言っておきながら今日まで引き延ばしてしまって本当にごめんね』
「いえいえ！！ とんでもないですっ！」

（私なんて冗談だと思って聞き流してましたから……）

『そのことで話したいんだ。早速で申し訳ないんだけど今日会えないかな？』
「今日でしたら22時以降しか空いてないんですけど」
『知ってるよ。亮輔がシフト変更で君が1人になれるのは22時以降しかないんだろう？
　だからこそ今日の日をお願いしてるんだ……いいかな？』

　普通なら断りたいところだけど、上原さん忙しそうだから本当にこのタイミングしかないんだろう。

「彼が帰って来る時間まででしたら私は大丈夫です」
『有難う。こちらこそ突然のお願いを聞いてくれて助かります』

　取り敢えずOKを出すと上原さんは嬉しそうな声を出していた。

　待ち合わせはアパートから近い距離にあるファミレスになった。あのファミレスなら夜間でもお客さんが多くて賑わっているから安心だ。

「ただの家賃値引きの手続きだし、何かが起こるとか浮気とかじゃないんだけどね……」

　上原さんとの通話を切ったところで私はぼやき、アパートの階段を上る。
　それからはりょーくんに何かを悟られないよう平常心をキープしようと心に決め、夕食準備に取り掛かった。