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私の知らない彼と雨上がりの女神

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 カフェテリアは真澄の言う通り静かだ。
 試験期間に入るから、それでも少しは学生居るんじゃないか?って予想してたんだけどビックリするくらいガラガラ。

 真澄はここでいつも100円のブラックコーヒーを飲むらしく、私も同じものを頼んで一緒に飲んでいる。

「あのね、恋愛経験に乏しい私だって『笠原くんは今まで元カノさんとどんなお付き合いをしていたのか考えたって仕方ない』って思ってるんだよ?
 だけど……どうしても気になることがあって」
「まぁ、付き合い3ヶ月なんだからそんなもんだよねぇ」
「ほんと? そんなもん?」
「前にも言ったじゃん?『付き合い3ヶ月のマンネリ化』の話。そういう時期はね、元彼元カノと比較しちゃったりするのよ。だから亮輔くんの元カノを気にする朝香の気持ちは分かるよ」

 カフェテリアのコーヒーを飲むのは今日が初めてだった。

(100円とはいえ美味しいな……)

 コンビニの100円コーヒーとは違い、ここのコーヒーはちゃんとハンドドリップしていて驚いた。
 「粉は業務用のものらしいよ」と真澄が言っていたけど、お嬢様タイプで高級住宅街にご実家がある真澄がわざわざ毎日ここでこのコーヒーを飲んでリラックスする気持ちが良く分かる。

(大学のカフェテリアの調理担当って改めて考えると能力が高くないと難しい職業だよね……しかもハンドドリップが上手な方が居て、いつもその方が淹れてくれるんだろうなぁ)

「それで? 朝香が気になってる事ってなんなのよ?」

 ブラックコーヒーに軽い感動を覚え、思いをせていた私の脳内を真澄の声がクールダウンさせて、直後私は冷静になる。

「うん、私は経験なさ過ぎて分からないんだけどさぁ……
 彼氏が『幸せに出来なくてごめん』って思うって、具体的にどういう意味なんだろう?って思って」

 冷静な頭でちゃんと真澄に伝えようとしたんだけど、今回の恋愛相談は一体どこから説明すべきか悩まされる内容でもあった。

「何それ?『幸せに出来なくてごめん』なんて、本当に亮輔くんが朝香に向かって言ったの? だとしたらちょっと考えられないんだけど?」

 真澄は私の話が信じられないといった表情をしている。

「直接私に言ってきたじゃなくて寝言だったんだけど……」
「寝言?」
「実はね……」

 私はつたない言葉でその時の状況を結局一から丁寧に説明した。 


「しかも泣いてたのかぁ亮輔くん」

 私の説明に真澄はやっぱり「意外」と言いたそうな声をあげていた。

「しかもその言葉の前に『ごめん』も言ってて。『ごめん、幸せに出来なくてごめん』だからさ……」
「っていうか、あの亮輔くんが泣くなんてね。寝言だから本音でも出たのかな?」
「やっぱり本音だと思うよね?」
「逆に本音だと思ってるから私に相談したかったんでしょ? 確かに朝香に対してじゃなさそうだよね。付き合いは順調そうだし」
「という事はやっぱり元カノさんの事で未練ある人がいるって解釈していいのかな?」
「うーん……」

 あの寝言はりょーくんの本音じゃないかって、真澄は私の考えに同意してくれていたのに、元カノの絵梨さんに未練がある解釈に関しては首を捻っている。

「笠原くんからは『元カノの絵梨さんと別れるのが大変だった』っていう内容は聞いたよ? でもやっぱり好きな気持ちや楽しい時間を過ごせた瞬間もあっただろうし……だからこそ未練もあったりだとか」
「それはないんじゃない? そもそも亮輔くんには未練ないでしょ! 向こうはどう感じてるのか分からないけど」

 私のその言葉に対して、真澄は真逆の考えのようだ。

「それはどうして?」
「私の知ってる感じだと、亮輔くんってそもそもそういうタイプじゃないんだよねー」
「元カノに対して絶対未練を持ってないって意味?」

 りょーくんはとっても優しい人だから、きっと良いお付き合いをソフレのお相手さん達とも絵梨さんともしてきたんじゃないか?って予想してる。かといって未練ありなのはちょっと嫌だけど、「絶対」がつくほど冷徹な人ではないと私は感じている。

(真澄は私のまだ知らないりょーくんの過去みたいなのを知ってるって事なのかな?)

「私、今度はアイスカフェオレにしようかな~」

 私の想像した通り、真澄は何か知っているらしく、コーヒーカップを空にした後、私とゆっくり話したい雰囲気を出してきた。

「じゃあ私はキャラメルマキアートにする」
「あら珍しい。朝香ってコーヒーはブラック派じゃないんだ?」
「たまにはね。でもアイスコーヒーは梅雨明けのめちゃくちゃ暑い日に飲みたいなって」
「朝香は本当にホット好きよね~」
「『本当に』って強調されちゃうと流石に困るんだけどね」

 真澄に苦笑い顔を見せながら食券を買い、カウンターに出すと、さっきのブラックコーヒーの時と同じ方が対応してくれた。
 ……あの人がさっきのコーヒーを淹れてくれたのかな?と思うと気持ちがほんわかとしてくる。

 自動販売機やコーヒーマシンでのコーヒーも勿論好きだし、人間の手を超えた精密さで淹れられるコーヒーの良さも理解しているんだけど、実家が喫茶店でずっとそれに触れていた所為か「マシンよりも人の手が良いなぁ」とついつい感じてしまう。
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