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彼女らしいこと

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 次の日の20時過ぎ。

「ねぇりょーくん、明日はどんな料理食べたい?」
「えっ?」

 せめて、今出来ている料理をりょーくんの為にもっと頑張ろう!と思い、献立のリクエストをしてみた。

「お弁当とか、このご飯とか、いつも私の都合でおかず決めちゃってるところがあるでしょ?」

 勿論、私が今喋っているのは昨夜シミュレーションした内容だ。

「それは……まぁ」

 りょーくんが頷いたので私の口元は自然とニヤける。

(うんっ! シミュレーション通りっ!)
 
「お弁当のおかず、卵焼きと副菜以外は冷凍食品ので済ませちゃってるし。あとはこの夕食だってお魚料理ばかりでしょ? 時々唐揚げやハンバーグやオムライス作るけど」

 私は昨夜練習した通りの内容をそのままスラスラと喋っていく。

 自分の夕食レパートリーを振り返ってみると、ほぼ毎日魚料理と煮物を出してばかりな事に気付いた。
 りょーくんから一度も文句が出た事ないけど、やっぱりもっとお肉を食べたいんじゃないかと反省したんだ。

「んー……でも魚のおかずが多いのは魚屋が持ってきてくれるからだよね?あーちゃんがバイト帰りに隣の八百屋? から受け取ってるっていう」
「うっ……」
「だから魚と野菜中心の和食になるのは必然的なんじゃない? 『貰わなきゃいい』っていう選択肢もあるんだろうけど魚屋も八百屋も好意であーちゃんに渡してくれてるんだし」
「ぐっ……」

 でも、シミュレーションになかったりょーくんの冷静なツッコミがすぐにやってきて、私は言葉を詰まらせる。

(そうだった……いつも煮魚焼き魚や野菜の煮物ばっかりになるのは、初恵はつえさん達からご好意で食料もらっているおかげだった……)

「しかも今日はマグロの刺身で豪華じゃん!充分俺は満足してるんだけど♪」
「確かにめちゃくちゃ美味しかったもんね、マグロの赤身。売れ残りとは思えないくらい……」
「魚屋からもらえる魚を断ったら勿体ないよ。時々こうやって刺身もらえなくなっちゃう」
 
 しかも今日はその中でもスペシャル良いおかずだったという事を思い出した。

「そっ、そうだね! しかもこのお刺身、『毎晩彼氏と夕食を食べてるなら』って事で貰ったんだよ。『美味しかったらまたあげるから』って伝言付きで」
「それなら余計に貰わなきゃ!」
「確かに……」

(多分明日、初恵さんに「お刺身凄く美味しかったと魚屋のげんさんに伝えて下さい」って言えばまた美味しくて新鮮なお魚にありつけるんだろうなぁ)

「っていうか、俺魚嫌いじゃないし。あーちゃんの煮物も美味しいし」
「そう?」
「うん、肉は本当にごくたまにでいい。そういうのはコンビニ弁当で賄えてるから」
「そっかぁ」

(ヤバい。この話題をする日を間違えちゃった。お刺身食べちゃって満足してる中、お肉メニューのリクエストなんてもらえるわけがないもん)

「和食ってヘルシーだよね♪ あーちゃんいつも手間のかかるメシ作りありがとう♪」

 しかも、キラキラした笑顔で御礼言われちゃったらそれ以上私は何も言えなくなってしまった。

「じゃあ、御礼にいつものハグやスリスリしてあげる♡」
「やん♡」
「また今日もキスしていい?」
「うん♡」

 そこからはいつものイチャイチャスキンシップ。

「あーちゃん可愛い♡」
「ふあぁん♡」

 ハグやスリスリだけでなく甘いキスもこの日はたっぷりで、りょーくんの出掛ける時間になる頃には体がクタクタのふにゃふにゃになっていた。

「トロトロだね♡ このまま眠ってしまいそうなくらい気持ち良い表情してるよ、今のあーちゃん♡」
「ぁぅぅ♡」

(気持ちよ過ぎてベッドから起き上がれない……)

 時刻は21時15分を過ぎたっていうのに私はりょーくんを玄関で「おやすみ」もバイバイの手の振りも出来ず

「あーちゃんおやすみ♡ 行ってきます」

 りょーくんは優しく私に微笑んでそう言うと、玄関で靴を履いて私の部屋の扉を開けて出て行ってしまった。

「ふあぁぁぁぁん……中学生カップルにもなれないよぉぉぉぉ」





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