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【番外編】金色の青年とカサブランカ(夕紀side)
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(不思議な青年だったなぁ……)
背が高くて、大人っぽい雰囲気を醸したチャラい見た目なのに純朴そうな瞳をしている男性だった。
(でも……なんか、昔にどこかであの表情を見た事があるのよね。あんなに目立つ格好なら一度見たら忘れなさそうなんだけど)
見た目と言動のギャップが激しく、どことなく懐かしさも感じる少年的な瞳。
(うーん……謎だ。謎過ぎる)
店内で1人腕組みをして彼が走っていった方向をまだしばらくボーっと見つめていたら
「遠野~! 予約してくれたお花、持ってきたよ!」
商店街入口で花屋を営む中学の同級生の声が勝手口の方から聞こえてきた。
「田上くん、いつも配達してくれてありがとう」
彼は私の唯一といっていいくらい交流している中学からの腐れ縁。
私の事情もよく知っていて、毎月23日になるとこうして月命日参り用の菊の花束を配達してくれている。
けれども今月の23日は月曜日で田上くんが経営するフラワーショップ田上の定休日に当たる為、イレギュラー的に21日の今日の配達の約束を彼としていた。
「いやいやいいんだよ。店はいつも嫁さんと美優が店番してくれてて、ここに来るのは遠野の様子見も兼ねてるんだから」
「何よ様子見って。ほぼ毎日美優ちゃんとここの通りを散歩しては私の様子を伺ってる癖に」
小柄で32歳に見えない童顔の彼には、3歳上の奥さんと2歳の娘さんがいる。娘の美優ちゃんは田上くんとこの通りをよく散歩していて、店で育てているプランター植物達の中から果実が実るものを物欲しげにジーっと見つめた後、店内で慌ただしく働く私の姿をこれまたジーっと見つめる可愛い女の子なのだ。
「はい、600円」
「はい、ちょうど♪」
彼は基本的にお花の仕入れと配達係を担っていて、私はその配達を頼む客の中では1番安い客として彼の店では認知されている。
同じ商店街のよしみとはいえ、たった小菊5~6本のみを毎月23日頃にわざわざ持ってくるなんて手間な筈なのに、優しい彼は嫌がる素振りせずに毎回持ってきてはこの小銭のやり取りをしていた。
「今日さぁ、嫁さんの機嫌めちゃくちゃ良いんだよ」
私から受け取った600円をエプロンのポケットに突っ込みながら田上くんはいきなりそんな事を言い出す。
「なんで?」
「金色の涙を見たから」
「は?」
かつての同級生は突然「金色の涙」などという不思議なワードを私に浴びせてきて、直後私の頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされた。
「遠野と一緒でさ、毎月決まった日付に花を買いに来る男の子が居るんだよ。その子いつもは無愛想にしててさぁ、今日はその日付ではあったんだけど買いに来るのがいつもより遅かったんだ。
その所為か慌てて男の子が店の中に入ってきて、嫁さんに『夕方に墓参りをしても大丈夫なのか』を確認して、花を買ったらすぐに出て行っちゃってさ」
「それが、金色の涙……ねぇ」
謎ワードが何なのかと前のめりになっていたのに蓋を開けたらそんな世間話でちょっと拍子抜けする。
「いつも誰の為に花を買っているのか分からないで接客してて、今日初めて『急いで先生にお参りしなきゃ』って涙流しながら呟いてたんだって。嫁さん、ずっとその男の子が無愛想で花買うのを不思議がっててさぁ……『先生のお墓参りの為に買っていたのが知れてスッキリした良い子で良かった』って、ご機嫌なわけなんだよ~♪」
「先生のお墓参りかぁ~昔お世話になってた先生が結構前にお亡くなりになったのかしら?」
「そうだろうね」
普段無愛想な男の子が恩師のお墓参りを大事にしているなんて、意外に感じるけれど「今時の若い子は素直でスレてなかったりするからなぁ」とも思う。
「……で、今回ばかりは泣いていたと」
「いつもより遅い時間だったから墓参りうっかり忘れて慌てたんじゃないか?」
「買った日は同じなんでしょ? 遅い時間になったからって泣くのも凄くない?」
「根は良い子なんだよ、絶対。実際綺麗な顔した可愛らしい男の子だし」
「そんな子が居るんだ、『フラワーショップ田上』の常連さんに」
田上くんの話を聞いて、やっぱり不思議な感じがする。
お参りの日を忘れて1日過ぎたとかならともかく、数時間過ぎるだけで泣いてしまうなんて、逆にその男の子と亡くなられた恩師との関係性が気になってしまった。
(学校ではヤンチャしてだけど卒業後に先生と交流して連絡取り合うパターンかなぁ……っていうか、そもそも男の子のビジュアルイメージが想像つかないや)
「言っておくけど遠野よりはめちゃくちゃいい花買ってくれるからなっ! その男の子」
「うるさいなぁ……いいのよ、花の量や豪華さがなくてもっ! 私はっ!」
男の子よりも安い客であるとバカにされ、つい悪態をつく私。
その男の子が何歳くらいか分からないけれど「今時そんな律儀で心優しい子が居るもんだなぁ」と心の中では感心していた。
「ヤバっ!! 雨、本降りになってきたっ!! じゃあな遠野。」
「ありがとね、田上くん」
急に雨足が強まった空を見上げて田上くんは私に挨拶し、バタバタと駆け出していく。
「2連続で男の走る姿を見ちゃった……慌ただしいなぁ」
ぼやきながら田上くんの走る方向から目線を外し、勝手口の扉を閉める。
(あれっ? 心の中が軽くなってる……)
私の頭の中にあったどんよりと暗いものは、いつの間にか消え去ってしまっていて……
「宅配便です」
「あっ♪ 例の荷物だ! もう届いたんだ♪♪」
と、制服を濡らしながら店内に入ってきた配達員さんに、笑顔でサインをしタオルを手渡す事が出来た。
背が高くて、大人っぽい雰囲気を醸したチャラい見た目なのに純朴そうな瞳をしている男性だった。
(でも……なんか、昔にどこかであの表情を見た事があるのよね。あんなに目立つ格好なら一度見たら忘れなさそうなんだけど)
見た目と言動のギャップが激しく、どことなく懐かしさも感じる少年的な瞳。
(うーん……謎だ。謎過ぎる)
店内で1人腕組みをして彼が走っていった方向をまだしばらくボーっと見つめていたら
「遠野~! 予約してくれたお花、持ってきたよ!」
商店街入口で花屋を営む中学の同級生の声が勝手口の方から聞こえてきた。
「田上くん、いつも配達してくれてありがとう」
彼は私の唯一といっていいくらい交流している中学からの腐れ縁。
私の事情もよく知っていて、毎月23日になるとこうして月命日参り用の菊の花束を配達してくれている。
けれども今月の23日は月曜日で田上くんが経営するフラワーショップ田上の定休日に当たる為、イレギュラー的に21日の今日の配達の約束を彼としていた。
「いやいやいいんだよ。店はいつも嫁さんと美優が店番してくれてて、ここに来るのは遠野の様子見も兼ねてるんだから」
「何よ様子見って。ほぼ毎日美優ちゃんとここの通りを散歩しては私の様子を伺ってる癖に」
小柄で32歳に見えない童顔の彼には、3歳上の奥さんと2歳の娘さんがいる。娘の美優ちゃんは田上くんとこの通りをよく散歩していて、店で育てているプランター植物達の中から果実が実るものを物欲しげにジーっと見つめた後、店内で慌ただしく働く私の姿をこれまたジーっと見つめる可愛い女の子なのだ。
「はい、600円」
「はい、ちょうど♪」
彼は基本的にお花の仕入れと配達係を担っていて、私はその配達を頼む客の中では1番安い客として彼の店では認知されている。
同じ商店街のよしみとはいえ、たった小菊5~6本のみを毎月23日頃にわざわざ持ってくるなんて手間な筈なのに、優しい彼は嫌がる素振りせずに毎回持ってきてはこの小銭のやり取りをしていた。
「今日さぁ、嫁さんの機嫌めちゃくちゃ良いんだよ」
私から受け取った600円をエプロンのポケットに突っ込みながら田上くんはいきなりそんな事を言い出す。
「なんで?」
「金色の涙を見たから」
「は?」
かつての同級生は突然「金色の涙」などという不思議なワードを私に浴びせてきて、直後私の頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされた。
「遠野と一緒でさ、毎月決まった日付に花を買いに来る男の子が居るんだよ。その子いつもは無愛想にしててさぁ、今日はその日付ではあったんだけど買いに来るのがいつもより遅かったんだ。
その所為か慌てて男の子が店の中に入ってきて、嫁さんに『夕方に墓参りをしても大丈夫なのか』を確認して、花を買ったらすぐに出て行っちゃってさ」
「それが、金色の涙……ねぇ」
謎ワードが何なのかと前のめりになっていたのに蓋を開けたらそんな世間話でちょっと拍子抜けする。
「いつも誰の為に花を買っているのか分からないで接客してて、今日初めて『急いで先生にお参りしなきゃ』って涙流しながら呟いてたんだって。嫁さん、ずっとその男の子が無愛想で花買うのを不思議がっててさぁ……『先生のお墓参りの為に買っていたのが知れてスッキリした良い子で良かった』って、ご機嫌なわけなんだよ~♪」
「先生のお墓参りかぁ~昔お世話になってた先生が結構前にお亡くなりになったのかしら?」
「そうだろうね」
普段無愛想な男の子が恩師のお墓参りを大事にしているなんて、意外に感じるけれど「今時の若い子は素直でスレてなかったりするからなぁ」とも思う。
「……で、今回ばかりは泣いていたと」
「いつもより遅い時間だったから墓参りうっかり忘れて慌てたんじゃないか?」
「買った日は同じなんでしょ? 遅い時間になったからって泣くのも凄くない?」
「根は良い子なんだよ、絶対。実際綺麗な顔した可愛らしい男の子だし」
「そんな子が居るんだ、『フラワーショップ田上』の常連さんに」
田上くんの話を聞いて、やっぱり不思議な感じがする。
お参りの日を忘れて1日過ぎたとかならともかく、数時間過ぎるだけで泣いてしまうなんて、逆にその男の子と亡くなられた恩師との関係性が気になってしまった。
(学校ではヤンチャしてだけど卒業後に先生と交流して連絡取り合うパターンかなぁ……っていうか、そもそも男の子のビジュアルイメージが想像つかないや)
「言っておくけど遠野よりはめちゃくちゃいい花買ってくれるからなっ! その男の子」
「うるさいなぁ……いいのよ、花の量や豪華さがなくてもっ! 私はっ!」
男の子よりも安い客であるとバカにされ、つい悪態をつく私。
その男の子が何歳くらいか分からないけれど「今時そんな律儀で心優しい子が居るもんだなぁ」と心の中では感心していた。
「ヤバっ!! 雨、本降りになってきたっ!! じゃあな遠野。」
「ありがとね、田上くん」
急に雨足が強まった空を見上げて田上くんは私に挨拶し、バタバタと駆け出していく。
「2連続で男の走る姿を見ちゃった……慌ただしいなぁ」
ぼやきながら田上くんの走る方向から目線を外し、勝手口の扉を閉める。
(あれっ? 心の中が軽くなってる……)
私の頭の中にあったどんよりと暗いものは、いつの間にか消え去ってしまっていて……
「宅配便です」
「あっ♪ 例の荷物だ! もう届いたんだ♪♪」
と、制服を濡らしながら店内に入ってきた配達員さんに、笑顔でサインをしタオルを手渡す事が出来た。
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