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事実と誤解
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しおりを挟む「えっ? あーちゃんも今日はバイトしたんじゃなかったんだ……」
ケーキとカフェ・オ・レを完食した私達は、キッチンに横並びして食器洗いや片付けをしている。
私が濯ぎまで終えたお皿をりょーくんに渡して拭いてもらっているタイミングで、「実は私もりょーくんと同じく仕事にならない状態でマスターとずっとおしゃべりしていた」という内容を正直に話した。
「目が腫れるくらい泣いちゃった直後だし、マスターが心配してくれて」
「だったらあーちゃんが珈琲の勉強や仕事が出来なかったのは俺の所為だね。本当にごめんなさい」
「いいのいいのっ! 大雨の所為でお客さんがずーっと0人だったからマスターや私にとっては都合良かったんだ。珈琲の勉強は、マスターのカフェ・オ・レを飲んでしっかり学んだつもり!」
「それでさっき作ってくれたんだね」
「そうそう、復習も含んでいたんだよ♪」
私がそういう言い方をすると、りょーくんはホッとした顔つきに戻す。
「あのね、俺実は……夕方頃にあーちゃんが働く珈琲店で焙煎豆を買おうとしたんだ」
ホッとした顔のままりょーくんが私にとってビックリな話をしてきて、私は目をカッと開かせた。
「ええっ? りょーくん今日、店に行ったの? なんで?」
「あーちゃんの部屋から出て行ってすぐ、バイクで少しドライブしたんだ。ちょっと景色の良いところへ行って気持ちを落ち着かせたかったから」
「それであの時バイトの時間よりまだまだ早かったのにバイク出したんだね」
それであの時バイト時間でもないのにバイクで外出していったりょーくんの行動に納得出来た。
「情けないよなぁ……大好きなあーちゃんにあんな酷い事した上に、その場から逃げたくなったんだ。
それで、外の景色を眺めていたら『あーちゃんに謝りたいけど、あんな事言っちゃったからもう嫌われたかもしれない』って不安な気持ちでいっぱいになってさ。あーちゃんと一緒にニカラグアコーヒーを飲もうと思って珈琲豆を買いに行ったんだ」
「あ……ニカラグア、かぁ」
りょーくんがわざわざニカラグアコーヒーを選んだ気持ちがすぐに読み取れた。
彼と一番最初に飲んだコーヒーで最近は私もその豆を焙煎しておらず、しばらくそれを飲んでいなかったからだ。
「りょーくん、あのニカラグアの豆はね」
「『店では扱ってない』んだよね?あの豆はちょっと特別な貴重品種で、沢山の量を取り寄せ出来ないから……全部、マスターから聞いたよ」
私が最近焙煎してなくてりょーくんに飲ませてあげられなかった理由を、彼はマスターの口から聞かされたみたいだった。
「そうなの。あの豆は大粒の品種豆で珍しい豆だったんだ。普段は入荷しないんだけど、私が色んな国や地域の珈琲豆に触れたい事をマスターは知っているから、特別に少しだけ私の為に取り寄せてくれてたの。
……っていう事は、マスターに『りょーくんが私の彼氏だ』ってすぐにバレちゃったんじゃ?」
私の言葉にりょーくんは苦笑し、話を続ける。
「マスターから『ニカラグアコーヒーは店の取り扱いがない』っていう事を聞かされた途端に恥ずかしくなって、すぐにお店を出ちゃったからは正確には分からないんだけど、状況的にはバレバレだよなぁ。
一般的にあまり聞かないような種類の珈琲豆を俺はわざわざその店へ行って買おうとしたんだから」
「それはまぁ……マスターは結構察しのいい人だから確実にバレちゃったね、りょーくんと私の仲を」
「珈琲豆で失敗したから今度は俺の得意なスイーツ系って思って思い当たるショップ行って買ったらすぐにバイトの時間が迫ってきたからコンビニ行って。
前の時間の人とシフト交代してたら段々イライラムカムカしてきて、その人を怒鳴ってしまったんだ。そしたらすぐにその場バックヤードから店長が出てきて凄い剣幕で怒られて『頭冷やせ』って、しばらくバックヤードに閉じ込められてたんだ」
「えっ? 閉じっ……??!」
(さっきは「すぐに帰らされた」って説明だったけど、本当はしばらく閉じ込められていたなんて!!!!)
りょーくんの「閉じ込められた」の言葉から、私の頭の中にはコンビニ店長さんに縄みたいなので体を縛られたりょーくんがロッカールームに閉じ込められ鍵を閉められる様子をイメージしてしまい血の気が引いた。
「あー、変な想像してるよね?今」
「へ?」
「閉じ込められたっていう表現したけど、実際は店長の事務作業手伝いだよ。無償でPOP作りやらされるんだ」
「ポップ?」
「商品をより多くのお客さんから目を向けてもらう為の、イラストや文字で目立たせてるアレ」
「ああ……アレかぁ。りょーくんPOP作り上手なの?」
POP作りなら私もよく知っている。雑貨屋さんでもよく見かけるし、珈琲店でも夕紀さんがシンプルなものを作っているから。
「上手といえるのか分かんないけど店長はめちゃくちゃ評価してくれるし、従兄弟同士のよしみってヤツでタダ働きされてるんだ。POPのバイト代は貰えないんだよ」
「でもなんかすごい! りょーくんって授業中のメモ書きを綺麗な字で書いてるのを知っているから、POPが上手なの想像つくよ!」
「ありがとう褒めてくれて……それで、雨降ってきたから、POP作りを1時間やったところで店長に車でここまで送ってもらったんだ。『この土日休みにしてやるからコンビニ来んな』って釘刺された」
「それでバイクが駐輪場になかったんだね。じゃあ実質月曜日の夜までバイクはコンビニに置かれたままの状態?」
「いや、多分今頃は店長の住むマンションの駐輪場じゃないかな? コンビニだと屋根もバイク用のカバーもないから。明日も雨の予報みたいだしバイクが無防備に雨ざらしになるの嫌うんだあの人。だから明日店長が帰宅してる時間にマンション行って取りに戻るつもりなんだよ。月曜日の通学は心配しないであーちゃん」
「いや……それはまぁ別に……」
バイクが月曜日に使えないなら電車通学するしかない。
(勇気はいるけど……でも今日はりょーくんにしっかり守ってくれたし、そこまで怖くならない筈……)
私が頭の中をモヤモヤさせていると、食器の拭き取りが済んだりょーくんが私の手をギュッと握って
「しばらくはあーちゃんに電車通学させないようにするよ。そこはちゃんと責任を持つから」
「りょーくん……」
「あーちゃんの純潔は俺がしっかりと守るよ。安心して」
「へ?」
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