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猫になる

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 彼から指定された箇所を、私は優しく撫で始め彼のバイト先から強制的に帰らされた後の話に話題を戻した。

「……それで、この時間に帰ってきてたっていうのはそういう理由だったんだね」
「情けない俺で恥ずかしいよ、本当に」
「そんな事ないよ。りょーくんは毎日休みなくバイトしてるから、店長さんはきっとりょーくんの心や体を心配したんじゃないかな」

 りょーくんの頭を撫でながら、甘えた声を出して弱気になる彼の気持ちを少しでも楽にさせてあげたいって今私は思っている。けれどその思いとは別に、私にはそれとは別の感情が徐々に高まっていた。

 実は…………ふわふわとした感触で艶のある綺麗な金髪が指と指の間に入り込んで、私が慰めてる筈なのに彼の髪の感触で私までもが心地良さを感じちゃってドキドキしているんだ。
 真剣に喋っているりょーくんを目の前にしてるっていうのに、くすぐったくて心地良くて、ちょっとエッチな気持ちに傾いてる。
 そんな自分が恥ずかしくて情けないって内心思っていた。

「俺ね、本当はあーちゃんと釣り合う男になりたいって思ってる。
 野獣の部分を押し殺して、大学でも外デートでも2人きりの時でも微笑みあって、あーちゃんみたいな清純な関係を続けたいって本当は思ってるんだ。でも」

 ずっと真剣に私に話してくれていたりょーくんが急に、目線を真下に落とす。

「でも……って、何?」

 彼が目線を向けているのは私の太腿ふともも

「あーちゃんが露出度高い格好してるから、俺はどう頑張っても清純にはなれなくって……だけどあーちゃんが悲しんだり泣いたりするのはもっと嫌だから……今も凄く、我慢してて」
「えっ……あっ、ひゃあんっ!」

 太腿に注がれてる熱い視線に私は耐えられなくなって、パッと彼の頭撫でを強制終了すると彼に背中を向けてしまう。

「本当にごめんねあーちゃん。ちゃんと我慢してるし、勝手には触らないよ」
「うっ……うんっ! 私の方こそりょーくんに断り入れずにショートパンツで太腿まる出しにしたりパーカーの前を全開にしたりしてごめんね」

(うわあああぁぁぁぁぁ恥ずかしいっ!
 りょーくんが叱る意味が分かるよ……りょーくんに太腿触らせる勇気もないのにこんなルームウェア着てきた私は馬鹿だぁ)

「ごめんねりょーくん!! 私もちゃんと着替えてくるっ!」

 恥ずかしさと大きな後悔が全身を駆け巡り、私はソファから立ち上がって隣の自分の部屋に戻ろうとした。

「待って! 行かないで!!」

 でもりょーくんに腕を強く掴まれ制止させられる。

「えっ」
「確かに着替えてくれた方が俺的に助かるけど、あーちゃんのそのルームウェア……黒猫の耳と尻尾がついてて……『やっぱり可愛いな』とか『脱いでほしくないな』って思ってて」
「りょーくん」
「なんか矛盾しまくってるよな! 気にしないで!! 俺が馬鹿なだけだから!!」
「……」
「可愛い黒猫のあーちゃん眺めたいけど、俺が後ろ向くよ。
 あーちゃんはこのままここに居て……離れて行かないで」

 私の腕を強く掴んで真っ直ぐに真剣な眼差しを向けるりょーくんの言動は確かに矛盾していた。
 だけど、私が好きで可愛いと思っているからこその心の揺れである事は理解出来るし、彼の言う事に納得も出来る。

「りょーくんの言う通りにする。このままの姿で、りょーくんのソファに座る」
 
 私は頷きながらそう返事すると

「良かったぁ」

 りょーくんはやわらかな微笑みを私に向けて掴んでいる手をスルッと外し

「じゃあ、約束通り俺が後ろ向いてあーちゃんを見ないように」

 りょーくんがソファから立ち上がり、背を向けてソファの手摺りに軽く腰掛けようとしていて

「それはしなくていいよ。だってこの黒猫のルームウェア、黒い猫さんが大好きなりょーくんに1番見てもらいたくて選んだんだから!」

 私はりょーくんの目の前にしっかりと立ち、彼の目の前でパーカーのフードを被ってみせる。

「あーちゃん……」
「私、りょーくんの望むエッチな雌猫にはなれないかもしれない。
 だけど、猫好きで……特に真っ黒の猫が大好きなりょーくんにちょっとでも近寄れる格好をして、甘いスイーツを一緒に食べて……これからも楽しく幸せな時間を過ごしたいって思ってるよ」
「……黒猫好きなの、覚えててくれたんだ」
「そうだよ!それに野獣くんの部分を押し殺してほしいとも思ってない。我慢出来なくなったら……私に、ちゃんと相談して?私もちゃんと、前向きに検討するから」
「え……」
「私、野獣くんのりょーくんの噂、元々怖いとか嫌だとかは感じてないし今もどっちかっていうと『優しくて心の熱い野獣くん』って感じてるの」
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