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野獣くんと子猫ちゃん

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 次の日の朝。

「7時5分、かぁ」

 初夏の光を浴びながら私は目覚め、スマホで現在時刻を確認する。

 初デートの前夜なんだから興奮して寝られないかも?って思いながら昨夜はベッドに潜った癖にその後の記憶が全くなく、7時間以上ぐっすりだったみたいだ。

「りょーくんはまだ寝てるよね……?」

 彼からは寝る直前の時間に「朝早くても気にしないでいいから、起きたらすぐおはようって入れてね」ってメッセージが届いていた。

「本当にこんな朝っぱらからメッセージ入れちゃって大丈夫なのかな?少し不安なんだけど」

 りょーくんも同じく目を覚ましてるなら良いけど、眠っているならそっとしておきたいし、メッセージ受信で彼を強制的に目覚めさせてしまうのは避けたい。

「取り敢えず『おはよう』のスタンプだけ、サクッと送っちゃお」

 迷惑にならないよう、スタンプをサッと送信してみたら

「あれ?もしかしてりょーくんもう起きてた?」

 既読がすぐに着いて

[おはよう]
[眠れた?俺はぐっすり眠れたよ]

 と、2つ続いて返信が届く。

「『私もぐっすり眠れたよ』……っと」

 私も2つ返事を返そうと思い、メッセージを1つとそれに合うスタンプはないかと探していたら……

「わっ!! 電話かかってきた!!」

 急に通話画面に切り替わってめちゃくちゃビビる。

「もしもし」
 
 通話をタップしてそっと耳元にスマホ画面を当てると

『あーちゃんおはよう。よく眠れたみたいで良かったぁ』

 という、りょーくんの優しい声が私の耳を温めた。

(わあぁ……スマホを通したりょーくんの声もイケボ過ぎて朝からテンション上がるよぅ!!)

「う、うんっ!りょーくんもよく眠れたみたいで嬉しいな」
『俺も』
 
 初夏の爽やかな光も相まって、それだけで凄く爽やかで和やかな気持ちに包まれた。

「……あっ、今日は何時に出発したらいいかな?」

 だけど、貴重なデート時間を通話で消費してる場合じゃない。
 頭の中をすぐに切り替えて出発時刻の確認をりょーくんにした。

『その事なんだけど……もしあーちゃんが嫌でなかったら、バイクじゃなくて電車移動はどうかなと思って』
「電車移動?」
『そう。土日は通勤ラッシュないから、あーちゃんも乗りやすいかなって』
「電車かぁ……」

 りょーくんに電車移動を提案され、改めて私は「1ヶ月電車利用してない」という事実に直面する。この1ヶ月ずっと、移動は徒歩かりょーくんのバイクに乗せてもらうかの2択だったから。

『あーちゃんが乗り気じゃなければバイクでもいいんだよ……もし勇気を出して電車もOKって事なら、着てもらいたい服が実はあるんだけど』
「えっ? 服??」
 
 りょーくんの「電車かバイクか」の選択に迫られ頭の中をそれでいっぱいにしていたのに、突然彼から服の事も追加されてビックリする。

『勝手な行動をして申し訳ないと思うんだけど、少し前にあーちゃんに似合いそうなカットソーとスカートを見つけて……その服、俺の部屋に今あるんだ』
「ええ??!」

 そして、りょーくんが私の服を用意済みという事にもまたビックリした。

『本当に余計な事してごめん! 別にあーちゃんの今のファッションにケチつけるつもりは全然なくって、ただ単にプレゼントしたかっただけなんだ。
 あーちゃんと付き合って、1ヶ月経つから」
「それってもしかして『付き合って1ヶ月の記念』……みたいな?」
『そう言われたらなんか仰々ぎょうぎょうしいんだけど、こんな俺とお付き合いしてくれてありがとうって気持ちを伝えたくて』
「ありがとうって気持ち……」
『相談しないで勝手に服用意するとか……もしかして、俺にドン引きしてる?』
「ドン引きだなんてとんでもない!! 嬉しい!! 着てみたい!!」

 思いがけないりょーくんからの言葉になんて返したらいいか分からず黙っちゃったけど、すぐにハッとして、通話中だというのに自分の首を左右にブンブン振りながら返答した。

『良かったぁドン引きじゃなくて』

 私の反応にりょーくんは安堵の息をついている。

「じゃあ15分後に私の部屋に来てくれる?それまでに歯を磨いたり髪を整えたりしておくから。あと、ちょっと部屋の掃除もっ!」
『あーちゃんの部屋が綺麗なのはいつもの事でしょ? 綺麗にするのは歯と髪くらいで充分♪』

 りょーくんは笑ってまた優しい言葉を返してくれた。

「りょーくん……」

 それだけでもう、私の胸はキュンキュンしちゃってる。

『じゃあ、15分後に。俺もそれまでに支度済ませとくから』
「うん!」
『じゃあ、通話切るね』
「うん、じゃあまたね」

 そしてキュンキュンしながらの通話はそこで終わりを迎え……

「よしっ!! 15分後っ!!」

 私はトンッと小気味良くベッドから降りて洗面台へと直行した。
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