21 / 140
野獣くんと子猫ちゃん
1
しおりを挟む次の日の朝。
「7時5分、かぁ」
初夏の光を浴びながら私は目覚め、スマホで現在時刻を確認する。
初デートの前夜なんだから興奮して寝られないかも?って思いながら昨夜はベッドに潜った癖にその後の記憶が全くなく、7時間以上ぐっすりだったみたいだ。
「りょーくんはまだ寝てるよね……?」
彼からは寝る直前の時間に「朝早くても気にしないでいいから、起きたらすぐおはようって入れてね」ってメッセージが届いていた。
「本当にこんな朝っぱらからメッセージ入れちゃって大丈夫なのかな?少し不安なんだけど」
りょーくんも同じく目を覚ましてるなら良いけど、眠っているならそっとしておきたいし、メッセージ受信で彼を強制的に目覚めさせてしまうのは避けたい。
「取り敢えず『おはよう』のスタンプだけ、サクッと送っちゃお」
迷惑にならないよう、スタンプをサッと送信してみたら
「あれ?もしかしてりょーくんもう起きてた?」
既読がすぐに着いて
[おはよう]
[眠れた?俺はぐっすり眠れたよ]
と、2つ続いて返信が届く。
「『私もぐっすり眠れたよ』……っと」
私も2つ返事を返そうと思い、メッセージを1つとそれに合うスタンプはないかと探していたら……
「わっ!! 電話かかってきた!!」
急に通話画面に切り替わってめちゃくちゃビビる。
「もしもし」
通話をタップしてそっと耳元にスマホ画面を当てると
『あーちゃんおはよう。よく眠れたみたいで良かったぁ』
という、りょーくんの優しい声が私の耳を温めた。
(わあぁ……スマホを通したりょーくんの声もイケボ過ぎて朝からテンション上がるよぅ!!)
「う、うんっ!りょーくんもよく眠れたみたいで嬉しいな」
『俺も』
初夏の爽やかな光も相まって、それだけで凄く爽やかで和やかな気持ちに包まれた。
「……あっ、今日は何時に出発したらいいかな?」
だけど、貴重なデート時間を通話で消費してる場合じゃない。
頭の中をすぐに切り替えて出発時刻の確認をりょーくんにした。
『その事なんだけど……もしあーちゃんが嫌でなかったら、バイクじゃなくて電車移動はどうかなと思って』
「電車移動?」
『そう。土日は通勤ラッシュないから、あーちゃんも乗りやすいかなって』
「電車かぁ……」
りょーくんに電車移動を提案され、改めて私は「1ヶ月電車利用してない」という事実に直面する。この1ヶ月ずっと、移動は徒歩かりょーくんのバイクに乗せてもらうかの2択だったから。
『あーちゃんが乗り気じゃなければバイクでもいいんだよ……もし勇気を出して電車もOKって事なら、着てもらいたい服が実はあるんだけど』
「えっ? 服??」
りょーくんの「電車かバイクか」の選択に迫られ頭の中をそれでいっぱいにしていたのに、突然彼から服の事も追加されてビックリする。
『勝手な行動をして申し訳ないと思うんだけど、少し前にあーちゃんに似合いそうなカットソーとスカートを見つけて……その服、俺の部屋に今あるんだ』
「ええ??!」
そして、りょーくんが私の服を用意済みという事にもまたビックリした。
『本当に余計な事してごめん! 別にあーちゃんの今のファッションにケチつけるつもりは全然なくって、ただ単にプレゼントしたかっただけなんだ。
あーちゃんと付き合って、1ヶ月経つから」
「それってもしかして『付き合って1ヶ月の記念』……みたいな?」
『そう言われたらなんか仰々しいんだけど、こんな俺とお付き合いしてくれてありがとうって気持ちを伝えたくて』
「ありがとうって気持ち……」
『相談しないで勝手に服用意するとか……もしかして、俺にドン引きしてる?』
「ドン引きだなんてとんでもない!! 嬉しい!! 着てみたい!!」
思いがけないりょーくんからの言葉になんて返したらいいか分からず黙っちゃったけど、すぐにハッとして、通話中だというのに自分の首を左右にブンブン振りながら返答した。
『良かったぁドン引きじゃなくて』
私の反応にりょーくんは安堵の息をついている。
「じゃあ15分後に私の部屋に来てくれる?それまでに歯を磨いたり髪を整えたりしておくから。あと、ちょっと部屋の掃除もっ!」
『あーちゃんの部屋が綺麗なのはいつもの事でしょ? 綺麗にするのは歯と髪くらいで充分♪』
りょーくんは笑ってまた優しい言葉を返してくれた。
「りょーくん……」
それだけでもう、私の胸はキュンキュンしちゃってる。
『じゃあ、15分後に。俺もそれまでに支度済ませとくから』
「うん!」
『じゃあ、通話切るね』
「うん、じゃあまたね」
そしてキュンキュンしながらの通話はそこで終わりを迎え……
「よしっ!! 15分後っ!!」
私はトンッと小気味良くベッドから降りて洗面台へと直行した。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
Catch hold of your Love
天野斜己
恋愛
入社してからずっと片思いしていた男性(ひと)には、彼にお似合いの婚約者がいらっしゃる。あたしもそろそろ不毛な片思いから卒業して、親戚のオバサマの勧めるお見合いなんぞしてみようかな、うん、そうしよう。
決心して、お見合いに臨もうとしていた矢先。
当の上司から、よりにもよって職場で押し倒された。
なぜだ!?
あの美しいオジョーサマは、どーするの!?
※2016年01月08日 完結済。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
夜の声
神崎
恋愛
r15にしてありますが、濡れ場のシーンはわずかにあります。
読まなくても物語はわかるので、あるところはタイトルの数字を#で囲んでます。
小さな喫茶店でアルバイトをしている高校生の「桜」は、ある日、喫茶店の店主「葵」より、彼の友人である「柊」を紹介される。
柊の声は彼女が聴いている夜の声によく似ていた。
そこから彼女は柊に急速に惹かれていく。しかし彼は彼女に決して語らない事があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる