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【追加エピソード③】美味しい桃の食し方(side静華)
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「私の思い出話は本当にここでおしまい」
再び目を開けパチンと手のひらを叩く音をなつこちゃんに聞かせたところで、「ただいま」と言う家主の低音声が玄関の方から聞こえてきた。
「おかえり湊人!」
真っ先に出迎えるなつこちゃんの後をついて行き、私も「おかえり」の言葉をみなとっちにかけようと口を開くと
「これ、美味そうだから買ってみた。夏実と一緒に飲みたいと思って」
みなとっちは明るい表情でなつこちゃんに瓶入りのジュースを渡しているところだった。
「わぁ♪ 桃のジュースだ! しかもすっごく良さげなヤツ!」
「冬だけどなんとなく俺もいいなって思ってさ。夏実が喜んでくれて良かった」
なつこちゃんは瓶を抱えて少女のごとく喜び、みなとっちは12年前の冬に見かけた時と同じ顔で笑っている。
そんな様子に私は一歩二歩と後退し、そっとリビングに戻ろうとしたんだけど……
「静華にもちゃんと買ってるよ。桃のリキュールだけど」
と、みなとっちは靴を脱いで私が頼んでいた日本酒の銘柄が何本か入ったエコバッグを渡してきた。
「えっ? 私にも桃? しかもお酒?」
「正月は酒以外飲みたくないんだろ? 俺が買い出しに出かける直前静華が自分でそう言った癖に」
エコバッグの口を広げる私の頭をみなとっちがそっと撫でてきたのでハッとしてすぐに見上げると、彼は口角を上げ私にも笑いかけてくれた。
「そうだけど……」
その笑い顔が、さっきまで思い出話を語っていた私には少し眩しく見えて、恥ずかしくなる。
ガラにもなく頰を桃みたいな色にしてしまっているんだなと、自分でも気付いた。
「私、食器棚から良いグラス取ってくるね! 3人一緒にオシャレなグラスで乾杯しちゃおう♪」
照れる私と違って、明るくテンションを上げるなつこちゃんがそう言ってキッチンの方へと向かう。
「ごめんねなつこちゃん。私も手伝おうか?」
「グラスの場所は私だけが知ってるから大丈夫だよ♪ 静華さんは湊人とこたつで待っててね」
私は振り向いてキッチンの方へと声を掛けたんだけど、すぐにそういう返事が返ってきて、「やっぱり優しい子だなぁ」と彼の未来のお嫁さんに感服してしまう。
「外、寒かった?」
「すげー寒かった。だけどショッピングモールは客が大勢いてさぁ、リカーショップも酒を求める人で会計もかなり並んだなぁ」
「それはお疲れ様だね、ありがとうみなとっち」
「どういたしまして」
なつこちゃんがオシャレグラスとやらを探している間、私はみなとっちとこたつの中に入り、彼に今の外の様子を聞いていた。
「そっかぁ……気が付いたらもうこんな時間だもんね。桃のリキュール飲んだら帰ろっかなぁ」
リビングの壁時計で時刻を確認し、私が溜め息と共にそんなぼやきを言っていると
「別に家は今夜も泊まってっても構わないけど?」
と、みなとっちから信じられない言葉を耳にして私は目を見開いた。
「冗談でしょ? 私昨日も泊まったんだよ? 連泊は有り得ないでしょ」
「有り得ない事もないだろ」
「いやいや有り得ないし!! 可愛いフィアンセとちゃっちゃと姫始めでもなんでもやっておかなきゃ! 正月なんだし!」
「静華発言がおっさんみたいだぞ。なんだよ姫始めって」
「姫始めくらい知っときなさいよ!」
「言葉の意味くらい知ってるって! 見た目に反して下品な事言うなっつってんだよ」
食器棚を物色してるなつこちゃんに聞かれない程度に声のトーンを抑えた状態で、元彼と姫始め姫始め言い合ってる私は相当変な女なんだろう。
みなとっちは可笑しそうに私の頭を指で突いてくるし、私もそれにつられて笑い、突くのをやり返す。
文化祭の日も思ったけど、12年前の私は彼とこういう笑いながらのバカみたいなやり取りがずっとやりたかった。
ただ、みなとっちが私の望む顔を出来なかっただけ……しかもそれは、高1の口うるさい彼の言う通りにしておけば簡単に手に入れられたものだった。
彼や彼女の地元駅で見かけた、6歳のなつこちゃんに笑顔を見せるみなとっちに対して、妬かずに済んだ問題だったんだ。
再び目を開けパチンと手のひらを叩く音をなつこちゃんに聞かせたところで、「ただいま」と言う家主の低音声が玄関の方から聞こえてきた。
「おかえり湊人!」
真っ先に出迎えるなつこちゃんの後をついて行き、私も「おかえり」の言葉をみなとっちにかけようと口を開くと
「これ、美味そうだから買ってみた。夏実と一緒に飲みたいと思って」
みなとっちは明るい表情でなつこちゃんに瓶入りのジュースを渡しているところだった。
「わぁ♪ 桃のジュースだ! しかもすっごく良さげなヤツ!」
「冬だけどなんとなく俺もいいなって思ってさ。夏実が喜んでくれて良かった」
なつこちゃんは瓶を抱えて少女のごとく喜び、みなとっちは12年前の冬に見かけた時と同じ顔で笑っている。
そんな様子に私は一歩二歩と後退し、そっとリビングに戻ろうとしたんだけど……
「静華にもちゃんと買ってるよ。桃のリキュールだけど」
と、みなとっちは靴を脱いで私が頼んでいた日本酒の銘柄が何本か入ったエコバッグを渡してきた。
「えっ? 私にも桃? しかもお酒?」
「正月は酒以外飲みたくないんだろ? 俺が買い出しに出かける直前静華が自分でそう言った癖に」
エコバッグの口を広げる私の頭をみなとっちがそっと撫でてきたのでハッとしてすぐに見上げると、彼は口角を上げ私にも笑いかけてくれた。
「そうだけど……」
その笑い顔が、さっきまで思い出話を語っていた私には少し眩しく見えて、恥ずかしくなる。
ガラにもなく頰を桃みたいな色にしてしまっているんだなと、自分でも気付いた。
「私、食器棚から良いグラス取ってくるね! 3人一緒にオシャレなグラスで乾杯しちゃおう♪」
照れる私と違って、明るくテンションを上げるなつこちゃんがそう言ってキッチンの方へと向かう。
「ごめんねなつこちゃん。私も手伝おうか?」
「グラスの場所は私だけが知ってるから大丈夫だよ♪ 静華さんは湊人とこたつで待っててね」
私は振り向いてキッチンの方へと声を掛けたんだけど、すぐにそういう返事が返ってきて、「やっぱり優しい子だなぁ」と彼の未来のお嫁さんに感服してしまう。
「外、寒かった?」
「すげー寒かった。だけどショッピングモールは客が大勢いてさぁ、リカーショップも酒を求める人で会計もかなり並んだなぁ」
「それはお疲れ様だね、ありがとうみなとっち」
「どういたしまして」
なつこちゃんがオシャレグラスとやらを探している間、私はみなとっちとこたつの中に入り、彼に今の外の様子を聞いていた。
「そっかぁ……気が付いたらもうこんな時間だもんね。桃のリキュール飲んだら帰ろっかなぁ」
リビングの壁時計で時刻を確認し、私が溜め息と共にそんなぼやきを言っていると
「別に家は今夜も泊まってっても構わないけど?」
と、みなとっちから信じられない言葉を耳にして私は目を見開いた。
「冗談でしょ? 私昨日も泊まったんだよ? 連泊は有り得ないでしょ」
「有り得ない事もないだろ」
「いやいや有り得ないし!! 可愛いフィアンセとちゃっちゃと姫始めでもなんでもやっておかなきゃ! 正月なんだし!」
「静華発言がおっさんみたいだぞ。なんだよ姫始めって」
「姫始めくらい知っときなさいよ!」
「言葉の意味くらい知ってるって! 見た目に反して下品な事言うなっつってんだよ」
食器棚を物色してるなつこちゃんに聞かれない程度に声のトーンを抑えた状態で、元彼と姫始め姫始め言い合ってる私は相当変な女なんだろう。
みなとっちは可笑しそうに私の頭を指で突いてくるし、私もそれにつられて笑い、突くのをやり返す。
文化祭の日も思ったけど、12年前の私は彼とこういう笑いながらのバカみたいなやり取りがずっとやりたかった。
ただ、みなとっちが私の望む顔を出来なかっただけ……しかもそれは、高1の口うるさい彼の言う通りにしておけば簡単に手に入れられたものだった。
彼や彼女の地元駅で見かけた、6歳のなつこちゃんに笑顔を見せるみなとっちに対して、妬かずに済んだ問題だったんだ。
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