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【追加エピソード①】俺が「なっちゃん」と呼ばない理由
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今年の夏は本当に暑い。
赤ん坊の夏実と初めて顔を合わせたのも、やはりこんな夏の昼間だった。
「ほら湊人、夏実ちゃん……『なっちゃん』よ。可愛いわねぇ」
小学校最後の夏休み初日。
俺と同じ誕生日に生まれ、数日前に退院したばかりという赤ん坊と対面する為、俺はお袋と一緒に隣家の薗田家を訪れた。
「なっちゃん……初めまして」
薄手なのにふんわりとした質感の肌着に身を包んだ夏実に俺はなるべく優しい声を掛け、恐る恐る一本指をその小さな手にちょんと触れてみた。
(わぁ……白くてやわらかい)
触れる前にきちんと手を洗浄消毒して差し出した自分の指がどす黒く禍々しいものに感じる程新生児の肌は繊細で美しく、ほんの少し触れただけで心臓がバクバクと大きく波打っていた。
「ねぇ、湊人くん。なっちゃんのおむつを替えてみない?」
これ以上触れて良いのか判断がつかなくなっているというのに、晴美さんは産後で疲れた身体をゆっくりと動かしながら俺に擦り寄ってきて謎の提案をしてきた。
「えっ?」
「今から覚えておいたら、大人になった時に役に立つから」
晴美さんは俺の表情を一切確認する事なくそう言うと、新生児の腰回りを保護している紙おむつの尻側に指を引っ掛ける。
「へっ……」
「うん、大きい方はしてないみたい。教える絶好のチャンスかも♪」
それから晴美さんは嬉しそうな口調になりながら、俺の目の前で新生児……しかも女児のおむつテープを剥がし始めた。
「えっ? ……ちょっと! お母さん!!」
男の俺がそんな部分を見てもいいものか不安になって、ペリペリ音に耳を傾けつつも顔を後方のお袋に向けると、お袋はなんとも能天気な声で
「大丈夫大丈夫。経験だから、経験♪」
と離れた場所から俺に手をひらひらと振ってくる。
「ええ~……」
「ほら、こうしてテープを剥がしたらね……ほら湊人くん! ちゃんと聞いて」
晴美さんにピシャリと呼び止められてしまった俺は、信じられないような気持ちで再び赤ん坊の方に向き直ると、晴美さんから「おしりふき」と言われたウェットティッシュのようなものを渡されて……そこからは晴美さんの言われた通りの言葉や行動をそのまま実行した。
それ以後は現在60歳となるお袋の記憶通りだ。
俺のおむつ替えスキルはすぐに上達し、俺が薗田家へお邪魔した時や夏実を広瀬家へ招きいれた時は俺が夏実のおむつ替え担当者となり、大きい方だろうがなんなく処理出来るようになった。しかもそれが中3の梅雨時まで続いたというのだから、当時の俺は今で言う「育メン」の走り的存在になっていたのだろう。
勿論、育児手伝いはおむつ替えのみに留まらず入浴や哺乳瓶での授乳、手遊びや抱っこによるあやしなど内容はそれなりに幅広い。
そんな事情があったので、俺が異性の陰部を初めて目の当たりにしたのもお尻拭き越しに触れたのも12歳という事になる。血縁者でもないのに12歳で女陰の主な部位の位置関係を把握した男というのはかなりのレアケースに違いない。
あの時の晴美さんは、どんな気持ちで俺に夏実の女陰を見せたのだろう?
「あの時は久しぶりの赤ちゃんの世話に疲れていたからおむつ替えしてくれそうな湊人くんに押し付けて楽したかっただけ」と、後日晴美さんが当時の事を話してくれたが、どうもこっちは納得いかない。12歳なんてまだガキだから、と半ばバカにして軽い気持ちでいたんだろうか?
隣家の人妻の考えは浅はかだ。
12歳だって、男の部分は目覚めるんだ。
「なっちゃん、ここもちゃんと綺麗にしようね」
「ほら、なっちゃん。綺麗になったよ。なっちゃん気持ち良くなったねー。良かったねなっちゃん」
12歳当時、俺は晴美さんの言葉を真似ておむつ替えの最中そう呼び掛けていたのだが……。
「なっちゃん、綺麗にしようね」
「なっちゃん綺麗になったね」
「なっちゃん気持ちよくなったね。良かったね」
皆が口々に呼ぶ「なっちゃん」が赤ん坊そのものを指すのに対して、俺の方はというとその呼び名が女陰部……特に隠れた秘芯に視線を注ぎながらその言葉を述べるようになってしまった。
中学に上がってすぐの頃、「なっちゃんの『なっちゃん』という認識をするのは流石に犯罪性を孕んでいるのでは」と気付き危惧した俺は、その日を境に「なっちゃん呼び」を辞め、彼女を「夏実」と呼ぶ事にしたのだった。
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今年の夏は本当に暑い。
赤ん坊の夏実と初めて顔を合わせたのも、やはりこんな夏の昼間だった。
「ほら湊人、夏実ちゃん……『なっちゃん』よ。可愛いわねぇ」
小学校最後の夏休み初日。
俺と同じ誕生日に生まれ、数日前に退院したばかりという赤ん坊と対面する為、俺はお袋と一緒に隣家の薗田家を訪れた。
「なっちゃん……初めまして」
薄手なのにふんわりとした質感の肌着に身を包んだ夏実に俺はなるべく優しい声を掛け、恐る恐る一本指をその小さな手にちょんと触れてみた。
(わぁ……白くてやわらかい)
触れる前にきちんと手を洗浄消毒して差し出した自分の指がどす黒く禍々しいものに感じる程新生児の肌は繊細で美しく、ほんの少し触れただけで心臓がバクバクと大きく波打っていた。
「ねぇ、湊人くん。なっちゃんのおむつを替えてみない?」
これ以上触れて良いのか判断がつかなくなっているというのに、晴美さんは産後で疲れた身体をゆっくりと動かしながら俺に擦り寄ってきて謎の提案をしてきた。
「えっ?」
「今から覚えておいたら、大人になった時に役に立つから」
晴美さんは俺の表情を一切確認する事なくそう言うと、新生児の腰回りを保護している紙おむつの尻側に指を引っ掛ける。
「へっ……」
「うん、大きい方はしてないみたい。教える絶好のチャンスかも♪」
それから晴美さんは嬉しそうな口調になりながら、俺の目の前で新生児……しかも女児のおむつテープを剥がし始めた。
「えっ? ……ちょっと! お母さん!!」
男の俺がそんな部分を見てもいいものか不安になって、ペリペリ音に耳を傾けつつも顔を後方のお袋に向けると、お袋はなんとも能天気な声で
「大丈夫大丈夫。経験だから、経験♪」
と離れた場所から俺に手をひらひらと振ってくる。
「ええ~……」
「ほら、こうしてテープを剥がしたらね……ほら湊人くん! ちゃんと聞いて」
晴美さんにピシャリと呼び止められてしまった俺は、信じられないような気持ちで再び赤ん坊の方に向き直ると、晴美さんから「おしりふき」と言われたウェットティッシュのようなものを渡されて……そこからは晴美さんの言われた通りの言葉や行動をそのまま実行した。
それ以後は現在60歳となるお袋の記憶通りだ。
俺のおむつ替えスキルはすぐに上達し、俺が薗田家へお邪魔した時や夏実を広瀬家へ招きいれた時は俺が夏実のおむつ替え担当者となり、大きい方だろうがなんなく処理出来るようになった。しかもそれが中3の梅雨時まで続いたというのだから、当時の俺は今で言う「育メン」の走り的存在になっていたのだろう。
勿論、育児手伝いはおむつ替えのみに留まらず入浴や哺乳瓶での授乳、手遊びや抱っこによるあやしなど内容はそれなりに幅広い。
そんな事情があったので、俺が異性の陰部を初めて目の当たりにしたのもお尻拭き越しに触れたのも12歳という事になる。血縁者でもないのに12歳で女陰の主な部位の位置関係を把握した男というのはかなりのレアケースに違いない。
あの時の晴美さんは、どんな気持ちで俺に夏実の女陰を見せたのだろう?
「あの時は久しぶりの赤ちゃんの世話に疲れていたからおむつ替えしてくれそうな湊人くんに押し付けて楽したかっただけ」と、後日晴美さんが当時の事を話してくれたが、どうもこっちは納得いかない。12歳なんてまだガキだから、と半ばバカにして軽い気持ちでいたんだろうか?
隣家の人妻の考えは浅はかだ。
12歳だって、男の部分は目覚めるんだ。
「なっちゃん、ここもちゃんと綺麗にしようね」
「ほら、なっちゃん。綺麗になったよ。なっちゃん気持ち良くなったねー。良かったねなっちゃん」
12歳当時、俺は晴美さんの言葉を真似ておむつ替えの最中そう呼び掛けていたのだが……。
「なっちゃん、綺麗にしようね」
「なっちゃん綺麗になったね」
「なっちゃん気持ちよくなったね。良かったね」
皆が口々に呼ぶ「なっちゃん」が赤ん坊そのものを指すのに対して、俺の方はというとその呼び名が女陰部……特に隠れた秘芯に視線を注ぎながらその言葉を述べるようになってしまった。
中学に上がってすぐの頃、「なっちゃんの『なっちゃん』という認識をするのは流石に犯罪性を孕んでいるのでは」と気付き危惧した俺は、その日を境に「なっちゃん呼び」を辞め、彼女を「夏実」と呼ぶ事にしたのだった。
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