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2人で眺める永遠への光
★16
しおりを挟む目を開けたら部屋のカーテンから明るい光が少しだけ漏れていたので、朝が来たのだと知る。
オレンジ色の照明を落とし、陽の光を部屋の中に入れて夏実の寝顔を確かめると
「ふふっ」
自然と笑みが溢れるくらい可愛くて朝から癒された。
風呂に入ることも忘れて、思いのまま夏実をめちゃくちゃに抱いたのに、髪も寝癖やら何からでボサボサでだらしない髭面をしている俺とは反して、ほぼ同じ条件とは思えないくらい今の夏実は綺麗で可愛い。
ベッドに腰掛け、水蜜桃の薄皮を扱うかのように、未だ眠る夏実の頰に指で触れた。
桃の表面にある毛を感じるように、顎の方から親指で顔の産毛を逆立てていると、夏実の鼻から「んっ」という小さな吐息が漏れて、長い睫毛がゆっくりと持ち上がる。
「おはよう、夏実」
決して彼女を無理に起こす為にした行動ではなかったのだが、俺の指の感触や朝陽の白い光によって目覚めた美しい顔に、俺は朝の挨拶を呼びかけた。
「うぅん……」
夏実は可愛い声を鼻から出すなり俺の方を上目遣いでジッと見つめ
「湊人のエッチ」
と可愛らしく俺を叱った。
「ごめん」
「謝んないでよぅ。怒ってるんじゃないし」
「いや、ちょっとは怒ってるだろ?
かなり酔っ払ってたし……その、ヤリ過ぎた。ごめんなさい」
「確かに昨夜のは本能的な湊人全開って感じだったよねぇ。ここに来るまで湊人フツーにしてたからあんなに酔っ払ってたなんて思わなかったしぃ」
「ごめん……ごめんなさい」
眠りにつくまで夏実を貪欲に求めた愛の行為を思い出したのか、彼女はふいに睫毛を下げて俺から視線を遠ざけてきたので、俺は恥ずかしくなってまた謝った。
「大魔王っ!」
「ごめん」
「大魔王っていうか、『エッチ大魔王』? 『スケベ大魔王』かな?」
「ごめん……調子に乗って沢山ワイン飲んでごめん」
「9月の事務研修の夜になっちゃった大魔王って、あんな感じだったの?」
「まさか!あんな感じだったら俺は即解雇だしなんかしらの刑に処されてるって」
「でも、昨夜の湊人は私をいっぱい叱ったよ~『いけない子だ』って『お仕置きだ』って」
「それは……叱るとは、ちょっと違う……だろ」
夏実にあんな事やこんな事をしてしまったのだから、ある程度の辱めは受けるべきだと思うし覚悟はしていた。
けれども朝の爽やかな白色の陽光や冬のひんやりとした空気の中、互いにまだ裸で、うっすらと寝汗も掻いていて、俺は髪ボサボサの無精髭面で全身酒臭くて汚い中年なのに、夏実はといえば女神のように身も心も美しい。
一点穢れを挙げるならば、首から下の肌に噛み痕やキスマークが点在しているくらいだろうか。しかしそれはこの汚い中年が犯してしまった結果によるものなのだから、やはりここは女神の夏実にどれだけ辱められようが謝り倒すしかないと思っている。
「10年前にお酒飲んだ時も、9月の時も、湊人は『酔っ払って大魔王になった記憶がない』って言ってたでしょ?
昨夜のスケベ大魔王はちゃんと覚えてるの? さっきから湊人はエッチ大魔王の話を覚えてる前提で私に謝ってる感じがするもん」
「そうだな……記憶は鮮明だ。1秒足りとも忘れてないし記憶が抜けていない……と思う」
夏実の指摘通り、昨夜の記憶は鮮明で、今から夜の行為を証言するとしたら恐らく昼過ぎまで時間がかかってしまうだろう。
「二日酔いしてない? 頭痛いとか気持ち悪いとかない?」
「それはない。夏実を抱き締めながら熟睡出来て、今は頭も身体もスッキリしてるよ」
「まぁ……お酒臭さはあるけどね」
「それは本当にごめん。今から歯も身体も磨いてきます。和明さんみたいになりたくないと思いながらも夏実に迷惑かけて本当に申し訳ありませんでした」
「昨夜も今も『湊人がお父さんみたいで嫌だ』なんて思ってないよぅ。一緒にお風呂入ろう♡ 歯も磨いて、ホテルの朝ご飯食べに行こう♡」
俺があれだけの事をしたというのに、夏実は優しい。優しいを通り過ぎて真の女神なんじゃないかとさえ思っている。
「湊人の事、全然怒ってないんだからね。ただ『湊人のエッチ』『エッチ大魔王』『スケベ大魔王』の3つが言いたかっただけ! しかもその言葉に他意はないの。ただ言いたかっただけで、本能全開の大魔王湊人を咎める気は全然なくて寧ろ嬉しくて幸せな朝を今迎えられてるのっ!」
「……遊園地では夏実の王子になれた気がしたのに」
「理性的な湊人も本能的な湊人も両方望んだのは私なんだから♡ だからいいの♡
酔っ払った湊人もかっこよかったよ♡ あんな大魔王なら大歓迎だし、時々なってほしいなぁなんて思う♡」
「大歓迎なのに毎晩は会いたくないのか……俺の大魔王」
「毎晩お酒飲んだら身体に悪いからだよぅ。肝臓はちゃんと休めなくちゃ。
あと……出来れば私と2人きりの時だけ酔っ払って大魔王になってほしいなぁっていうささやかな希望?」
俺はまた女神の頬に触れた。柔らかな産毛は陽光で光り輝いており、桃農家を親戚に持つ俺ですら口にした事のない高貴な水蜜桃に触れているような気分だ。
「それは誓うよ。今後は夏実と2人きりの時だけ酒を飲む。絶対に」
だからこそ誓った。俺の酒酔いはこの女神に捧げると。
「ワガママ言ってごめんね♡」
「夏実のワガママなんかじゃないよ。夏実の事が大好きで愛しているからこその誓いだ」
俺は今出来る誠意を女神に向け、ダイアモンド付きの薬指に触れた。
「ふふ♡」
「あと、今日は夏実の行きたいところへ全部行く。雨降ろうが雪降ろうが、夏実を満足させたいから」
「嬉しい♪ 誕生日デートのリベンジだ♡」
「そう。どんな料理でも喜んで食おう! 胃の中カラフルにしてやろう」
「んふふ~♡」
ダイアモンドと朝の光に包まれた高貴な水蜜桃の女神は、俺に嬉しさ全開の笑顔を向けてくれていた。
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