【完結】彼女が18になった

チャフ

文字の大きさ
上 下
286 / 317
2人で眺める永遠への光

7

しおりを挟む
 晴美さんは多少嫌がりながらも「後もう少しだけね」と許可して、和明さんは子どものように「やった♪」と喜びテレビを観ている親父の方へ行ってしまう。
 嬉々として親父に酒を注いでもらう和明さんを、俺も晴美さんも同様に見ては……

「なんかうちの人が不甲斐なくて悪いね、湊人くん」
「いえ、実際和明さんと喋るのが物凄く久しぶりなんで楽しくはありますよ」

 こっちはこっちで苦笑いの会話を交わす。


「夏実、今回の期末試験相当張り切ってるみたいです。今は風呂入ってると思うんですけどそのまま部屋で今日やった分の復習するんだと思います」

 俺が椅子に座りながら今の夏実の様子を母親の晴美さんに報告すると、当然の事ながら「夏実が期末試験を頑張る理由」も把握済みなようで

「クラスの男の子に愚痴られたから相当気にしてるんだろうね」

 溜め息混じりのセリフを吐いて、また缶ビールを口にした。

「夏実は『受験モードでピリピリしてる中で出てしまった言葉だから気にしない』なんて強がり言ってましたけどね」
「なっちゃんが気にしない筈がないでしょ。『お前は受験しなくて楽でいいな』なんて言われたんだもん」
「っていうか、俺その話聞いて『今時中学生みたいな低レベルの愚痴を言う18歳なんて居るんだ』って引きましたよ」
「寧ろ18歳なんてそんなもんなのかもよ? なっちゃんが単にその辺大人びてんのかも。多分愚痴を言ったその男の子だけじゃなくて周りもみんなそう思ってる場合もあるんじゃないかな」
「確かに……『大学進学するのはうちの高校が進学校だし、なんとなく』なんていう、進学後の未来を描けてない高校生も居そうですよね」
「だろうね。逆になっちゃんは、湊人くんの側に居る未来を中学生の頃から描いていて、現在進行形でその未来を明確に想像しているからこういう生活してるんだもん……湊人くんはどう思う?」

 和明さんと違って晴美さんは鋭い。
 晴美さんの一見漠然とした質問に感じる「どう思う?」には、なんとなく俺が今から晴美さんに伺い立てる内容の事を先回りして問うているような気がした。

「それは勿論思います……はっきりと」

 先回りされた発言に対する返答をどうしようかと頭の中で迷い……それでもなんとか言葉を選んで、自分の中で思い描いている事を、大好きな彼女の母親に伝えようとする。

「……はっきりって? 具体的には?」
「俺は夏実の気持ちに寄り添いたいですし、願いを叶えてあげたいって思うんです」
「うん……それは私にもちゃんと伝わってるよ。
 私が監視しなくても湊人くんはなっちゃんを大事に扱ってくれているんだろうし、この週末だってなっちゃんの勉強を朝から晩までずっと付き合ってくれていたんだろうなって想像出来る。なっちゃんの勉強に邪魔になるような事は、今までしてこなかったでしょ湊人くんは」
「はい……そうですね」
「なっちゃんからまだ今週どうするのか聞いてないけど、先月の中間の時みたいに湊人くんは『家に寄らずに真っ直ぐ帰れ』って言っただろうし、なっちゃんもそれは納得済みだって事だろうし」
「その通りです」
「そして湊人くんはなっちゃんに『試験が終わったら何がご褒美あげよう』と密かに計画している」
「っ!!」

 続けていた晴美さんとの会話を、突然自ら止める。
 やはり晴美さんは察しが良く、俺が今から何を言おうとしているのか予想済みなようだ。

「図星なんだ。湊人くんは相変わらず表情が素直だよね」

 風呂上がりのビールで上機嫌になっているほろ酔いの晴美さんが、俺の顔にピッと人差し指を突き立てる。
 突き立ててきたその場所は夏実のする動作と全く一緒で、こちらの緊張が少しほぐれた。

「晴美さん」
「何?」
「クリスマス前の土日……また泊まりのデートを許可して頂けますか?
 誕生日の時とは違って、今回は一泊なんですけど少し遠くの方へ旅行させてあげたいな……なんて思いまして」
「……」

 俺の伺いに、今度は晴美さんの方が俺との会話を止める。

「遠くの方って言っても、新幹線で何時間もかかるような場所でもないですし、飛行機を使うわけでもないです」
「それは……分かってるけどさ」
「夏実にはまだ何も言ってませんしこの段階で晴美さんに行き先を伝えるつもりはないです。夏実にバレてもいけないので」

 恐らく、晴美さんは「自分の予想が当たった」と気付いたのだろう。それ以降はうんうんと頷いて

「どうぞ、行ってらっしゃい。特別なクリスマスデートをなっちゃんに経験させてあげてね」

 と優しい口調で俺に言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...