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俺の口吸い彼女の甘噛み
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村川くんに了解を得て画面をスワイプしていくと、八百屋の前でとんがり帽子を被りにこやかな笑顔で微笑んでいる夫婦の画像や、ジャックオランタンのフェイスペイントを施した老人の姿やパン屋の店員……そして赤ずきんの格好をした村川くんの奥さんの姿もあった。
「本当だ。ちゃんと衣装まで着込んでるのはジュン先輩夫婦と奥さんだけだな」
画像の数々を堪能しきった俺がそう言って村川くんにスマホを返却すると
「正確には俺もですね。俺の画像もありませんでした? ……これです」
そう言いながら嬉々と自分のオオカミ仮装姿の画像もしっかり俺に見せてくるんだから俺の後輩は面白い。
「ジュン先輩は実家がパン屋やってるし、奥さんの店の手伝いもしたんだろうからイベントに参加したのは分かるけど、村川くんも参加したんだな」
オオカミ姿の理由は恐らく、小柄な奥さんの体型に合わせた赤ずきんの相手役という意味なのだろう。
だがそれでも、長身の村川くんが頭から下は着ぐるみに近いような形態の姿で半日居たのかと思うとなかなか笑える。
「俺の参加理由はイベントの手伝いっていうか裏方ですね。俺のはオオカミ頭がフードだし、前足の肉球は手袋みたいに外せるようになってるんです。
俺は集会所に座って、参加者のフェイスペイントをやりまくってました。店の人の顔だとか、イベントに来てくれた子どもの顔だとかに。ですからフード被って肉球までつけたのはこの画像を撮る一瞬だけでした」
「……相変わらず凄いなぁ君は」
何十人ものフェイスペイントを施す重要な役割を、ごく簡単な作業かのような表情で俺に話してきたのだが、冷静に村川くんのその話聞いたら
(一番大変だったのは村川くんじゃないか)
という呆れたセリフを口に出してしまいそうになった。
「おかげで楽しくて充実したハロウィン過ごせましたよ♪ 厳密には10月31日のハロウィン当日は数日先ですけど」
「商店街のイベントなんて大抵土日にやるもんなぁ。
楽しめたのなら良かったが、村川くんご夫婦は週末から新婚旅行へ行くだろ?
今はその準備もやらなきゃいけないだろうにお疲れ様だな」
「新婚旅行の準備なんて荷物詰める程度のものですから。逆に新入社員なのに有休取得早々消化しちゃって申し訳ないっていうか」
「有休は権利なんだからどんどん消化しちゃえばいいんだよ。まして新婚旅行っていう名目があるんだし」
新婚旅行の話題に転換した瞬間、村川くんは何故か申し訳無さげな表情と声を漏らした。
何年も前の時代なら上司から文句の一つもあったのだろうが、今ではそんな考えは時代遅れなのだからもっと堂々と使えばいいと俺は思っている。
「広瀬さんは優しいですね……っていうか、うちの会社の皆さんって口々に『積極的に有休取ってリフレッシュしろ』って言いますよね」
「時代が時代だし、リアルな話しちゃえば明日は我が身だからね。他人の休暇に文句言ってたらいざ自分が休み取りたい時に使えないから」
(……とか言いながら、俺はほとんど消化出来ていないんだけど)
だが入籍一年未満の村川くんがこのタイミングで取っておかないと、穂高所長のように「なんだかんだ忙しくて新婚旅行に行く暇ないし式もあげないから写真撮影だけした」みたいな事態になりかねない。
新入社員であれ、身近な人物が有休取って結婚式あげるなり海外旅行行くなりしてくれないといざという時困るのはそれを控えている独身社員なのだ。それは決して俺に限った話ではない。
「それって、広瀬さんが式や旅行行きたい時に自由に使えないから……って意味ですか?」
いつのまにか弁当を食べ終えた村川くんが、まだ食事中の俺の肘を意地悪く触れてきたので
「だーから、俺に限った話じゃねぇよ」
と、ぶっきらぼうな言い方で彼の手をサッと払ってやった。
「あっ! 夏実ちゃんからメール来た」
俺の手の払いなんか気にする事なく、村川くんは自分のスマホを持ち上げて夏実から届いたらしいメール画面に目をやっている。
……もしかして俺のスマホにも何か届いてるんじゃないかと思って確認するも、通知の一件も来ていない。
「……」
(彼氏の俺には何もなくて村川くんには送るのか……ふぅん)
嫉妬なんて醜い感情を歳上の男がするもんじゃないという自覚はあるものの、なんか悔しいと感じてしまう。
スマホを持ち上げた手前、何もせずにそのままデスクに置くのも寂しいので取り敢えず夏実に今日の帰宅予定時間をメールする事にした。
「広瀬さん」
「何?」
「いきなり恐い声出さないで下さいよ。広瀬さんただでさえ低音声なんですから」
メールの送信をタップしたところで村川くんに呼び止められ、彼の方を見ずに声を出したら、声質に感情が漏れていたようで恐がられてしまった。
だが次の瞬間、村川くんの口から出た提案に俺は耳をピクッと反応させる。
「ハロウィン当日、夏実ちゃんに仮装させてもいいですか?」
(ん? ……仮装??)
ピクッと反応したものの、聞き取った台詞と脳が追いつかない。
「本当だ。ちゃんと衣装まで着込んでるのはジュン先輩夫婦と奥さんだけだな」
画像の数々を堪能しきった俺がそう言って村川くんにスマホを返却すると
「正確には俺もですね。俺の画像もありませんでした? ……これです」
そう言いながら嬉々と自分のオオカミ仮装姿の画像もしっかり俺に見せてくるんだから俺の後輩は面白い。
「ジュン先輩は実家がパン屋やってるし、奥さんの店の手伝いもしたんだろうからイベントに参加したのは分かるけど、村川くんも参加したんだな」
オオカミ姿の理由は恐らく、小柄な奥さんの体型に合わせた赤ずきんの相手役という意味なのだろう。
だがそれでも、長身の村川くんが頭から下は着ぐるみに近いような形態の姿で半日居たのかと思うとなかなか笑える。
「俺の参加理由はイベントの手伝いっていうか裏方ですね。俺のはオオカミ頭がフードだし、前足の肉球は手袋みたいに外せるようになってるんです。
俺は集会所に座って、参加者のフェイスペイントをやりまくってました。店の人の顔だとか、イベントに来てくれた子どもの顔だとかに。ですからフード被って肉球までつけたのはこの画像を撮る一瞬だけでした」
「……相変わらず凄いなぁ君は」
何十人ものフェイスペイントを施す重要な役割を、ごく簡単な作業かのような表情で俺に話してきたのだが、冷静に村川くんのその話聞いたら
(一番大変だったのは村川くんじゃないか)
という呆れたセリフを口に出してしまいそうになった。
「おかげで楽しくて充実したハロウィン過ごせましたよ♪ 厳密には10月31日のハロウィン当日は数日先ですけど」
「商店街のイベントなんて大抵土日にやるもんなぁ。
楽しめたのなら良かったが、村川くんご夫婦は週末から新婚旅行へ行くだろ?
今はその準備もやらなきゃいけないだろうにお疲れ様だな」
「新婚旅行の準備なんて荷物詰める程度のものですから。逆に新入社員なのに有休取得早々消化しちゃって申し訳ないっていうか」
「有休は権利なんだからどんどん消化しちゃえばいいんだよ。まして新婚旅行っていう名目があるんだし」
新婚旅行の話題に転換した瞬間、村川くんは何故か申し訳無さげな表情と声を漏らした。
何年も前の時代なら上司から文句の一つもあったのだろうが、今ではそんな考えは時代遅れなのだからもっと堂々と使えばいいと俺は思っている。
「広瀬さんは優しいですね……っていうか、うちの会社の皆さんって口々に『積極的に有休取ってリフレッシュしろ』って言いますよね」
「時代が時代だし、リアルな話しちゃえば明日は我が身だからね。他人の休暇に文句言ってたらいざ自分が休み取りたい時に使えないから」
(……とか言いながら、俺はほとんど消化出来ていないんだけど)
だが入籍一年未満の村川くんがこのタイミングで取っておかないと、穂高所長のように「なんだかんだ忙しくて新婚旅行に行く暇ないし式もあげないから写真撮影だけした」みたいな事態になりかねない。
新入社員であれ、身近な人物が有休取って結婚式あげるなり海外旅行行くなりしてくれないといざという時困るのはそれを控えている独身社員なのだ。それは決して俺に限った話ではない。
「それって、広瀬さんが式や旅行行きたい時に自由に使えないから……って意味ですか?」
いつのまにか弁当を食べ終えた村川くんが、まだ食事中の俺の肘を意地悪く触れてきたので
「だーから、俺に限った話じゃねぇよ」
と、ぶっきらぼうな言い方で彼の手をサッと払ってやった。
「あっ! 夏実ちゃんからメール来た」
俺の手の払いなんか気にする事なく、村川くんは自分のスマホを持ち上げて夏実から届いたらしいメール画面に目をやっている。
……もしかして俺のスマホにも何か届いてるんじゃないかと思って確認するも、通知の一件も来ていない。
「……」
(彼氏の俺には何もなくて村川くんには送るのか……ふぅん)
嫉妬なんて醜い感情を歳上の男がするもんじゃないという自覚はあるものの、なんか悔しいと感じてしまう。
スマホを持ち上げた手前、何もせずにそのままデスクに置くのも寂しいので取り敢えず夏実に今日の帰宅予定時間をメールする事にした。
「広瀬さん」
「何?」
「いきなり恐い声出さないで下さいよ。広瀬さんただでさえ低音声なんですから」
メールの送信をタップしたところで村川くんに呼び止められ、彼の方を見ずに声を出したら、声質に感情が漏れていたようで恐がられてしまった。
だが次の瞬間、村川くんの口から出た提案に俺は耳をピクッと反応させる。
「ハロウィン当日、夏実ちゃんに仮装させてもいいですか?」
(ん? ……仮装??)
ピクッと反応したものの、聞き取った台詞と脳が追いつかない。
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