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俺の口吸い彼女の甘噛み
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しおりを挟む秋深まる10月下旬。
社内業務的は新商品が入荷されて注文もそれなりに増える時期ではあるのだが、内勤の仕事量としては一年の中で一番少なくて楽な時期だ。
要するにこの時期は有給休暇を消化するのに最適なタイミングなので、少しでも休息しようと本社の各部でも誰かしら休みを取る動きが見られる。
隣の席に座っている後輩もその1人だ。
「村川くん、これ……夏実と俺から。もうすぐ奥さんの誕生日って聞いたから」
昼休憩に入り、いつものようにオフィス内が俺と村川くんの2人きりになったのを見計らってプレゼントの包みを手渡す。
「わぁ! ありがとうございます!」
「今週末から村川くん新婚旅行だからさ、それまでに食べ切れそうなものがいいかなと思って」
俺ら以外の社員が1人でも居たら面倒臭くなりそうだったので、無事に渡せた安心感から俺は目線を彼から愛カノ弁当へと移し、その蓋を開ける。
「えっ?! 食べ物なんですか?」
隣で嬉しそうな声をあげる村川くんに、俺は顔を弁当からそらす事なく口だけで
「って言ってもチョコレートだけどね」
と補足説明を入れたら、余計に喜びの声を彼はあげていた。
「わぁ~! やった! 妻、絶対喜ぶと思います!! ちなみにどこのお店のですか?」
「夏に村川くんに話した実家近所のショコラティエんとこの」
「めちゃくちゃいいじゃないですかぁ♪ 早速今夜、妻と一緒にいただきますね♪」
村川くんは俺に礼を言った後も「わー」とか「今から楽しみー」とか軽くはしゃいでいる。
(奥さん、チョコレート好きって言ってたような気がしたけどそういえばこの男の方が甘党なんだったな……)
どうやら奥さんよりも村川くんを喜ばせる代物をチョイスしてしまったらしい。
「あ、そうだ。昨日開催したハロウィンイベントの画像、広瀬さん見ますか?」
村川くんは急に思い立ったような声を出して俺の方に自分のスマホをグイッと近付けて画面を見せようとしてきた。
「ハロウィンイベント? ……って、何処の話?」
村川くんはさも、以前俺にその話題を出してきたような口ぶりでスマホ画面を近付けてきたのだが、彼からそんな話題を聞いた覚えがなくってピンときていない。
けれどもこちらに向けられたスマホ画面に映っている人物の様子でようやく理解が出来た。
「ジュンさんのお父さん、今年から商店街の中心リーダーになってるんで2年越しでようやく実現したんですよ商店街のハロウィンイベント!
それまでは何も動きがないまんま、週一に各店舗の代表者が集まる会議みたいなものにお姉さんも無理矢理参加しててこの10月は特にモヤモヤしてたって言ってたんでようやく形になって俺もホッとしてます」
「ああ……そう言えば先月俺が村川くんと珈琲店に行った時、そんな話題出てたよな。衣装の注文がどうのとかって」
「そうですそれです。ジュンさんはお姉さんや俺達にガチ仮装させたくて衣装のネット注文を先月の段階で入れたんですよ。他の店は魔法使いの帽子にフェイスペイント程度なのに」
「そういうところもなんか先輩っぽいなぁ……社内行事や業界イベントには本気で力入れちゃうタイプの人だから」
俺の知っている穂高所長は、毎年開かれる業界内イベントも研修旅行も営業部員の中で一番フットワークが軽く率先して準備を手伝おうとするし開催当日も誰より一番楽しんでいる様子が伺える。
穂高所長としての真面目な顔ですらそんな感じなのだから、プライベート顔のジュン先輩なんてそれに輪をかけてめちゃくちゃ力入れて準備して思いっきり楽しんでいそうだ。
スマホ画面に映る、海賊の手下みたいな格好をして笑顔でポーズをとっているジュン先輩とその隣に立っている女海賊船長姿の珈琲店店主のツーショット画像を眺めながら俺はフフッと笑みをこぼす。
「ジュン先輩がノリノリでポーズ取ってるのはまだ理解出来るけど、君のお姉さんも同じくらいノリノリなのが凄いなぁ……これ、かつての『遠野夕紀さん』を知る部長とか見たらビックリするんじゃないか?」
30代半ばとは思えない美貌でセクシーに微笑み仮装を思いきり楽しんでそうな現在の「穂高夕紀さん」のこの画像を10年以上会社に在籍している社員が見たらかなり驚くんじゃないかと予想する俺に対し、村川くんは複雑そうな表情を向けてきた。
「確かに、うちの会社に居た頃の『遠野さん』とはイメージがかけ離れてるんでしょうね。俺的には今の方がイメージ定着しちゃいましたけど。
広瀬さんは『遠野さん』の事を間接的に知るからこそ余計にお姉さんに対して真面目な印象持たれるんでしょうが、素のお姉さんはイベントなら一通り楽しみたいって考えの人ですね。ジュンさんみたいにテンション爆上げで参加するって程でもないんですが、仮装もメイクもまんざらじゃない感じでしたよ」
俺が意外だと感じる面は、店主の弟的存在である村川くんにとってごく普通の様子なのだろうという事を彼の口ぶりから理解した。
「そうなんだ。新品の歯ブラシに付箋付けたり料亭みたいな朝食を作ってしまうあの人がなぁ……。
ねぇ村川くん、他の画像も見ていいか?」
「どうぞ♪ 他のはご近所の店の人とか、俺と妻の仮装とかですけど」
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