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【番外編】静華さんと私(side夏実)
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「『なつこちゃんが20歳になったら』のくだりは耳にすんなり入っていったんだけど、『ペアで』ってどういう事?みなとっちはお酒飲まないんでしょ?」
この前静華さんと焼き肉食べた時、湊人はお酒を一滴も飲まなかったし湊人もお酒を飲まない理由を軽く説明していたから、静華さんがその点に引っかかるのも無理はないと思う。
「確かに湊人は『飲まない』んですが、実は『飲めない』わけじゃないんですよ」
「えっ?! 下戸じゃないの?」
「下戸じゃないんです。10年前に一度だけベロベロに酔っ払うまでたくさん飲んだ事あるんですよ、湊人って」
湊人は「アルコール耐性が弱いから酒は飲まない」と、私によく言っている。
誕生日デートのホテルディナーだって、ウェルカムドリンクをノンアルコールの発泡ジュースに替えてもらったくらいだし、飲酒して酔っ払った湊人の姿を私は一度も見た事がなかった。
……でも10年前に一度だけ、湊人が酔っ払うまでお酒を飲んだ日の話を私は知っていた。
「そうなんだぁ……意外」
「意外でしたか?」
「すっごく意外だった! でも10年前に飲んだっきりでそれ以来飲酒してないって事は、よっぽどの事があったわけね」
静華さんは驚いた表情をしていたけど、すぐに納得した顔付きとなり全てを察してくれたように感じる。
「そう……ですね」
静華さんの聡明さに感謝したい気持ちになった。
当時8歳だった私は、湊人の飲酒騒動を伝聞でしか知らないし、きっと湊人自身も黒歴史にしたい筈だから。
「じゃあ、みなとっちが次にお酒を飲むのは、なつこちゃんの20歳のお誕生日になるのね」
静華さんは私の注いだ日本酒のグラスに唇を当て、ゆっくりと静かに瞼を閉じた。
(わあぁ……やっぱり素敵……)
熱燗を飲む磁器製のお猪口も似合うけれど、冷酒用のガラス製お猪口も、静華さんのピンク色の唇に良く合って、彼女の周辺に可憐な桜の花びらが次々と開いていくようなイメージを持った。
「どうしたのなつこちゃん。ボーッとしちゃって」
「あっ……静華さんに見惚れちゃっただけですっ」
私は慌ててグラスのジュースに口を押し当てる。
「なつこちゃんは本当に可愛いわね♡」
「いやいやそんなそんな……」
「そんな可愛いなつこちゃんと、2年後に20歳のお祝いをしてやれるみなとっちに妬いちゃうな」
グラスを空にした静華さんは、甘さのある吐息をふうっと吐きながら、そんな不思議な言葉を私に言った。
「へ?」
「妬くのはね、なつこちゃんにじゃなくてみなとっち。もう私はね、その域に達しちゃってるのよ……私にはもう一生分の愛を交わした人が既に居るから」
「…………」
「今の私の言葉、なんか嫌味に聞こえちゃったかな?」
しんみりとする静華さんに向かって、私は首を左右に振る。
静華さんはかっこいい大人だ。
だから尚更、彼女の言葉が真っ直ぐ私の中に深く沁み入る。
そして「お米のお酒を飲んでいる静華さんの姿が美しくかっこいいのは、静華さんの姓である『生稲』と旦那さんの名である『穂積』によるものに違いない」と私は思った。
稲が生育して稲穂となり、刈り取り積まれ精米され……最終的に清らかな酒となる。
……だから、こんなにも日本酒を嗜む静華さんの姿は美しく魅力的なのだと。私はそう気付いたんだ。
「私が20歳になるまで、時々ここでお酒を飲んで下さいね♪ 静華さんっ!」
私も静華さんみたいな大人になれるのか……全然自信は無いんだけど。
「えっ? いいの?」
「はいっ! 静華さんの飲む姿を、いっぱい見て社会勉強したいから♡」
無色透明な飲み物に桜色が差す瞬間を、これからも沢山見届けたいと改めて思った。
だって静華さんは湊人の元カノだけど、私にとっては優しいお姉さん的存在であって友達であって……今でも夫婦愛を天に向かって持ち続けている人生の先輩なのだから。
この前静華さんと焼き肉食べた時、湊人はお酒を一滴も飲まなかったし湊人もお酒を飲まない理由を軽く説明していたから、静華さんがその点に引っかかるのも無理はないと思う。
「確かに湊人は『飲まない』んですが、実は『飲めない』わけじゃないんですよ」
「えっ?! 下戸じゃないの?」
「下戸じゃないんです。10年前に一度だけベロベロに酔っ払うまでたくさん飲んだ事あるんですよ、湊人って」
湊人は「アルコール耐性が弱いから酒は飲まない」と、私によく言っている。
誕生日デートのホテルディナーだって、ウェルカムドリンクをノンアルコールの発泡ジュースに替えてもらったくらいだし、飲酒して酔っ払った湊人の姿を私は一度も見た事がなかった。
……でも10年前に一度だけ、湊人が酔っ払うまでお酒を飲んだ日の話を私は知っていた。
「そうなんだぁ……意外」
「意外でしたか?」
「すっごく意外だった! でも10年前に飲んだっきりでそれ以来飲酒してないって事は、よっぽどの事があったわけね」
静華さんは驚いた表情をしていたけど、すぐに納得した顔付きとなり全てを察してくれたように感じる。
「そう……ですね」
静華さんの聡明さに感謝したい気持ちになった。
当時8歳だった私は、湊人の飲酒騒動を伝聞でしか知らないし、きっと湊人自身も黒歴史にしたい筈だから。
「じゃあ、みなとっちが次にお酒を飲むのは、なつこちゃんの20歳のお誕生日になるのね」
静華さんは私の注いだ日本酒のグラスに唇を当て、ゆっくりと静かに瞼を閉じた。
(わあぁ……やっぱり素敵……)
熱燗を飲む磁器製のお猪口も似合うけれど、冷酒用のガラス製お猪口も、静華さんのピンク色の唇に良く合って、彼女の周辺に可憐な桜の花びらが次々と開いていくようなイメージを持った。
「どうしたのなつこちゃん。ボーッとしちゃって」
「あっ……静華さんに見惚れちゃっただけですっ」
私は慌ててグラスのジュースに口を押し当てる。
「なつこちゃんは本当に可愛いわね♡」
「いやいやそんなそんな……」
「そんな可愛いなつこちゃんと、2年後に20歳のお祝いをしてやれるみなとっちに妬いちゃうな」
グラスを空にした静華さんは、甘さのある吐息をふうっと吐きながら、そんな不思議な言葉を私に言った。
「へ?」
「妬くのはね、なつこちゃんにじゃなくてみなとっち。もう私はね、その域に達しちゃってるのよ……私にはもう一生分の愛を交わした人が既に居るから」
「…………」
「今の私の言葉、なんか嫌味に聞こえちゃったかな?」
しんみりとする静華さんに向かって、私は首を左右に振る。
静華さんはかっこいい大人だ。
だから尚更、彼女の言葉が真っ直ぐ私の中に深く沁み入る。
そして「お米のお酒を飲んでいる静華さんの姿が美しくかっこいいのは、静華さんの姓である『生稲』と旦那さんの名である『穂積』によるものに違いない」と私は思った。
稲が生育して稲穂となり、刈り取り積まれ精米され……最終的に清らかな酒となる。
……だから、こんなにも日本酒を嗜む静華さんの姿は美しく魅力的なのだと。私はそう気付いたんだ。
「私が20歳になるまで、時々ここでお酒を飲んで下さいね♪ 静華さんっ!」
私も静華さんみたいな大人になれるのか……全然自信は無いんだけど。
「えっ? いいの?」
「はいっ! 静華さんの飲む姿を、いっぱい見て社会勉強したいから♡」
無色透明な飲み物に桜色が差す瞬間を、これからも沢山見届けたいと改めて思った。
だって静華さんは湊人の元カノだけど、私にとっては優しいお姉さん的存在であって友達であって……今でも夫婦愛を天に向かって持ち続けている人生の先輩なのだから。
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