【完結】彼女が18になった

チャフ

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【番外編】静華さんと私(side夏実)

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静華しずかさんごちそうさまでした。こんな素敵な寿司割烹……しかも旦那さんの月命日に予約してた席にお呼ばれしちゃって」

 湊人みなとが社内行事で夕食もお弁当もらないと言われた9月12日の夜。
 静華さんからお寿司ディナーに誘われてご馳走になってしまった。

「いいのいいの。陰膳かげぜんするのもそろそろ卒業しようかなぁなんて思いながら今月も2席予約しててね……。
 いつもは2人分のお寿司を平らげなきゃいけなかったんだけど、なつこちゃんに食べてもらえて今日は嬉しいの」

 毎月12日は静華さんの旦那様……長屋穂積ながやほづみさんの月命日で、来月一周忌を迎えるらしい。
 月命日には、ふとん店の営業を少し早めに閉めて18時半から商店街内に店を構えるお寿司屋さんで食事をする。……それが静華さんの「過ごし方」なのだと、以前あきらくんから聞いた事があった。

「……本当に私なんかが同席して良かったんですか?」

 いつもは穂積さんの席も設けて、大将に穂積さんが特に好きだったお寿司を少し握ってもらってそれを陰膳とし、穂積さんが好きだった日本酒を静華さんは飲んでその時間を過ごす。……そんな、静華さんと旦那様の大事な時間に私みたいな常識知らずの小娘が土足で上がるような真似をして良かったんだろうか?と、私はお寿司屋さんに向かう前からドキドキしていた。
 実際お魚料理も握り寿司もすっごく美味しく食べれて楽しめたんだけど、店を出て商店街のメイン通りを静華さんと歩いている今現在も「私よりも同席に適した人が他に居たんじゃないか」と申し訳なく思っていた。

「同年代の友達居ないし、滉くん呼んだら自動的に茉莉まつりちゃんがついてきちゃうし、りんちゃんは社内行事で会食中でしょ? なつこちゃんしか適任者が居ないのよ」

 そんな私の申し訳なさを静華さんは大人のお姉さんのステキな微笑みで吹き飛ばして「私しか適任者が居ない」なんて嬉しい言葉をかけてくれる。

「そう……ですかね?」

 それでも私はなんだか照れ臭くなって、ほっぺたを人差し指でポリポリと掻くと

「それとも、みなとっちと食べに行った方が良かった? あいつも今頃会食中なんだろうけど」

 ……なんて、静華さんの表情が途端に意地悪な感じにパッと変わって私の心を惑わす。

「それは嫌です! 静華さんも湊人もなんとも思ってなくても……なんか嫌です」

 私にとっての静華さんは、「アルバイトしてる店の向かいから微笑む優しいお姉さん」だけど同時に「湊人の元カノ」だという大事な点を思い出した。

(4~5日前までその事で嫉妬剥き出しにしてたのに、私ってば回らないお寿司さんに誘われてホイホイついていくなんてゲンキンな行動をとっているんだろう? なんか恥ずかしくなってきちゃったよ……)

「うちの旦那もみなとっちよりなつこちゃんが自分の席に座ってもらって良かったって言ってるよ、きっと」

 静華さんはまた優しいお姉さん顔に表情を戻して、青みがかった暗がりの空を見上げながら私にそう言ってきた。

「そう……なんですか?」

 静華さんに合わせて、私も空を見上げると

「そうだよ。うちの旦那ってメタボのくたびれたおじさんのクセして面食いで、若くて可愛い女の子が好きだから」

 優しいような寂しいような…………なんとも表現するのが難しい口調で静華さんが言ったから、胸をキュウッ締め付けられるような感覚に私は陥る。

 
「それにしてもみなとっちってばケチだよねー、なつこちゃんと寿司屋くらい行けばいいのに」
「お寿司といえばいつも回る方のお寿司しか行かないので……」

 私がまだ高校生という理由もあるんだけど生まれてからずっとお寿司は「回る方」しか行った事がなく、湊人とお寿司を食べようものなら「滉と茉莉を呼んでワイワイ食うか」という提案を彼の方からしてくるのがお決まりパターンになりつつあった。

「どうせみなとっちの事だから、焼肉の時みたいに『大勢で行かなきゃ回転寿司も楽しくない』とかいう謎理論持ち出すんでしょ?」

 そして、そんな湊人の行動心理を静華さんは簡単に見抜く。

「確かに、私と2人きりじゃ行かないです。私と湊人の両親引き連れて6人で行ったり……最近だと滉くん茉莉ちゃんと4人で行ったりですかね」
「ほらぁ~、風情もムードも無いのよあいつ!! 三十路になったんだし彼女だって大人の年齢になってきてるんだから2人きりで食事出来るお洒落な店とかおさえとかなきゃ!
 なつこちゃんもそういうところ、文句言った方がいいよ絶対!」

 静華さんはそう言って湊人の行動心理に憤慨し、「もっとお洒落なお店に行って美味しいもの食べたいと文句言いなさい」と現彼女に忠告する……私が恋愛物語を見聞きして勝手に思い描いていた「元カノ像」と現実にギャップがあり過ぎて肩の力が余計に抜けた。
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