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俺と彼女と可愛い甘え
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しおりを挟む人数が17名という大人数の所為か、奥の個室2つ分を予約したようだ。
通路を挟んで8人と9人に分かれてしまったが、席に座る事務員さん方も「途中で各々席を入れ替わったりしてもいいよね」みたいな事を言って納得する。
(確かに、大人数の店の予約ってなかなか難しいんだよなぁ。
全員が入れる大部屋を予約しても、厨房から遠いとオーダーが通りにくくて食べ物が届くまで時間かかるし。
それであらかじめ大皿料理を頼んで準備してもらおうとしたら「揚げ物系が多くて胃もたれする」という声が出て、男の俺が無理矢理残り物を詰め込む羽目になるから)
6年前と4年前は俺が当時の先輩と店選びをしたのだが、それでもやはり難しく「大部屋の予約は難しい」という結論に至る。
2年前の工場見学の際は工場長おススメの店があるというので楽出来るかと思ったのに、結果的に揚げ物と串焼き祭り状態で辟易したから、今回の店選びを経験の浅い森田さんと野崎さんに担当させる代わりにそのエピソードを盛り込んだ雑談をしておいて良かった気がする。
また研修前に好きなお酒や食べ物などの事前アンケートを毎回取っているのだが、今回皆が好みの酒を日本酒や焼酎を大多数が選んだ点や和食や魚料理が食べたいという要望が多かった点から見ても、今までの失敗を先輩事務員方も同様に感じていたのだろうと思えてならなかった。
(それで、「日本酒や焼酎が飲める海鮮居酒屋系の店」と的を絞って森田さんに店をお願いした答えがこの店だという事なんだよな……)
「ねーねー野崎さん。さっきの男の店員さん、村川くんや森田さんとも親しかったっぽいけど、特に野崎さんと熱い握手してたのってなんで?」
本社フロアのすぐ下、第一営業所所属のベテラン事務員原田さんが、俺も気になっていた質問を身を乗り出してまで野崎さんに問う。
「えっ……それは……」
原田さんの問いに野崎さんの顔が赤くなるのを、メニュー越しに見ながら「女性のデリケートな話題は原田さんみたいな人に質問してもらうのが一番スムーズだよな」と感じた。俺なんかが質問したら途端にセクハラ扱いされるから。
……まぁ俺も本気で野崎さんのプライベートが気になる訳ではなく、その理由は滉の「半年前から彼氏居る発言」によるものなのだが。
あの男性店員、村川くんや森田さんよりも野崎さんが一番「会えて嬉しい」みたいな雰囲気醸し出していたし、現にこれだけ野崎さんが赤面しているし。
野崎さんが赤面し、おろおろした態度を見せているところに……
「ご予約いただきました刺し盛りでーっす!! あとお通しもどうぞー!」
と、さっきの「ともき」の名札を付けた男性店員が大きな刺し盛りを持って俺らの個室に入ってきた。
「!!」
ベストなタイミングと、野崎さんとは正反対である軽快なノリの良さに、赤面している後輩以外の人間全員が男性店員の顔の方へ視線が向く。
「あっ! もしかして俺の話でもしてましたー?」
そして男性店員はその場の空気を察してヘラヘラって笑うと
「俺、向こうの席にいる笠原……じゃなかった、村川とはー、大学からの友達で森田悠月とは地元が一緒で親戚なんすよー」
と、サラリと自ら関係性を紹介し始めた。
「あぁ~! そういう仲なんやねぇ~。知らんかったわぁ」
敢えて野崎さんとの関係を濁した男性店員の説明に皆が「へぇ~」みたいな薄い反応と、その反応をフォローする狭山さんの一言が彼にどう作用したのか分からないが
「先に飲み物お伺いしますねー! お酒いっぱい注文してくれたらもっと楽しい関係性暴露しちゃうかもしれませんよ~♪」
と、その場の女性陣の気を引くような台詞を吐くところを見るに、なかなかコミュニケーション能力高い男だなぁと感じる。
「四合瓶の注文それぞれありがとうございまーっす! 焼酎のボトルは水割りですかー?グラスとお猪口は4つずつですねー。で、烏龍茶一つっと。かしこまりましたー♪」
男性店員は軽快に注文を読み上げてサッと居なくなり、女性陣は野崎さんににこやかな微笑みを向けている。
そんな視線に耐えられなくなったのか
「やめてください……」
野崎さんは消え入りそうな声で顔を両手で隠した。
「野崎さんかわいいー♪」
「あの男の子も可愛い系だよね。飲食店の店員らしくノリは良いけど彼女をさり気に気遣う感じも好感持てるかなぁ」
彼から答えを聞かなくとも「今ので察した」みたいな空気感がその場に流れた。
今まで見た事のない野崎さんの冷静沈着でない面をこの短時間でまざまざと見せつけられ、俺もやはり彼女らと同じ考えを抱いている。
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