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俺と彼女と可愛い甘え
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「逢坂部長に指示されてなかったら作成どころか思いつきもしませんでしたから。
本当にすごいですね、鏑木さん……大阪でも普段からあんな感じなんですか?」
パソコンを閉じて自分のデスクに戻そうと会議室から一旦離れる前、狭山さんに鏑木さんの普段の様子を尋ねてみる。
「せやねぇ……大学から大阪に居はる子やから、関西っぽさがない所為で春の頃は『取っつきにくい』て言うてはる取引先やお客さんもおってんけど、今はみんな鏑木さんの仕事ぶりを理解して仲ようやってはいるよ。お客さんとのトラブルも全くないし。
普段から色んな事考えながら行動してはるから、やっぱり以前から今日みたいな質問をモヤモヤしとったんやろうねぇ」
狭山さんはそう、鏑木さんの事を褒めた上で
「……けど、そういうモヤモヤした事を抱えてはったんなら私にはよう相談して欲しかったなぁ~とも思うんよ。相方なんやから」
そう付け加えて、困ったように眉を下げた。
(確かに……)
今日出た鏑木さんの質問は、事務研修という場には必要とも言える内容ではあったが少し妙にも感じた。
工場の生産工程やそれぞれにかかる日数なんて、同じ営業事務の先輩に質問を投げかけても返答が返ってこないと鏑木さん自身本気でそう思ったのだろうか?
もしそうだとしても鏑木さんにとって狭山さんは相方であると共に大先輩なのだし、まして狭山さんは前回の研修で工場見学に参加しているのだから、細かい日数は覚えていなくとも前回の研修で見学した事や大まかな流れくらいの説明は可能だったんじゃないかと思われる。
「鏑木さんは能力高い子やから、私の助けなんか必要ないんよね正直。『独り立ち出来る』っていう点ではうちも両手挙げて喜ぶべきなんやろうけど、なんか『シカトされとるんかなぁ』って変な見方してしまうんよね。
今朝だって新幹線降りてすぐに別行動とってしまうし……」
狭山さんは、会議室の出入り口を向き ぞろぞろと戻ってくる人達の話し声がオフィスのデスク内で留まっているのを感じながら意味深な微笑みを浮かべた。
その悲しそうにも見える微笑みから、野崎さんから聞かされた「新人教育が難しいと狭山さんが漏らしていた」という話の意図を感じ取りなんとも言えない気分になる。
それは俺だけでなく後輩3人も同じであったのだろう、途端に会議室の中が静まり返って……
「あー、変な話してごめんなぁ。もう休憩終わるし、広瀬くんもパソコン片付けな。うちも何か手伝おうか?」
パッと明るい表情に変えて俺の片付けを気にかけ、先程まで話してくれた事を狭山さんは謝る。
「あぁいいですよ。これを自分のデスクに戻すだけですから」
俺も俺で、そんな狭山さんや後輩達にこれ以上余計な気を遣わせてはならないと 急いで自分の片付けを済ませオフィスをすぐに出る為の支度を始めた。
パソコンを自分のデスクの上に置き、してはいけないと自覚しているのにまた溜め息が出てしまう。
(独り立ちかぁ…………まだ1年目なりの余裕が鏑木さんにはあるのかもしれないが、社会人になって7年半俺は一度も感じた事がないなぁ……)
いや、「7年半も経つならば少しは独り立ちしろ」って自分で自身にツッコミ入れたいところではあるのだが。
俺自身同期の社員と比較しても上昇志向のない人間だし、部長の居ない中でなるべく工夫して「それなりに」を装って研修会の進行をしたもののその内容も結局は部長の力なしではなし得なかった。
定時帰りする部長の慌てた背中を見送り、「研修の準備は任せてください」なんて格好のつけた言葉を吐く俺の実像は、まだ部長が居ないと1年目の営業事務の突っ込んだ質問にすぐ返答してやる能力のない情けない2番手なのだと、そう思い知らされる。
「あ」
パソコンを置きコンセントを繋げただけでその場を去ろうとした俺だったが、部長の事に関連して2年前の「ある事」を思い出して再び目の前のそれを開いて起動させ……インターネットに繋げる。
(一応、村川くんが昨日社内メールで宿泊予定の事務員に宿泊予約が出来ているかの確認をとっておいてくれたけど……)
俺はオフィス街や最寄り駅周辺のビジネスホテルの本日空き状況をホームページやサイトから確認する。
「今日は意外と空いてるな……」
日によっては夜に差し掛かる前のこの時間でも満室になっているから、「若干数」という表示を目にするだけでもホッとする。
もしかしたら飲み会後の時間になれば、これらのホテルも埋まってしまうのかもしれないが全く確認なしでいるよりはマシだろう。
「主任! 皆さんともうお店に向かっちゃいますが、帰り支度もう少しかかっちゃいますか?」
少し離れたところから森田さんの声が響く。
「もう平気だから。すまないけど先に行っててくれる?」
オフィスを出ようとする彼らに目線を向ける事なくそれだけ返答する俺は、またシャットダウンの時間までしばしその場に立ち……その時間を利用して先程閲覧したビジネスホテル名をスマホのメモに打ち込んでおく。
「では、お先に失礼します」
定時を過ぎても雑務に追われている数人の社員に軽い挨拶を済ませた俺は、急いでエレベーターに乗り込み一階まで降りた。
本当にすごいですね、鏑木さん……大阪でも普段からあんな感じなんですか?」
パソコンを閉じて自分のデスクに戻そうと会議室から一旦離れる前、狭山さんに鏑木さんの普段の様子を尋ねてみる。
「せやねぇ……大学から大阪に居はる子やから、関西っぽさがない所為で春の頃は『取っつきにくい』て言うてはる取引先やお客さんもおってんけど、今はみんな鏑木さんの仕事ぶりを理解して仲ようやってはいるよ。お客さんとのトラブルも全くないし。
普段から色んな事考えながら行動してはるから、やっぱり以前から今日みたいな質問をモヤモヤしとったんやろうねぇ」
狭山さんはそう、鏑木さんの事を褒めた上で
「……けど、そういうモヤモヤした事を抱えてはったんなら私にはよう相談して欲しかったなぁ~とも思うんよ。相方なんやから」
そう付け加えて、困ったように眉を下げた。
(確かに……)
今日出た鏑木さんの質問は、事務研修という場には必要とも言える内容ではあったが少し妙にも感じた。
工場の生産工程やそれぞれにかかる日数なんて、同じ営業事務の先輩に質問を投げかけても返答が返ってこないと鏑木さん自身本気でそう思ったのだろうか?
もしそうだとしても鏑木さんにとって狭山さんは相方であると共に大先輩なのだし、まして狭山さんは前回の研修で工場見学に参加しているのだから、細かい日数は覚えていなくとも前回の研修で見学した事や大まかな流れくらいの説明は可能だったんじゃないかと思われる。
「鏑木さんは能力高い子やから、私の助けなんか必要ないんよね正直。『独り立ち出来る』っていう点ではうちも両手挙げて喜ぶべきなんやろうけど、なんか『シカトされとるんかなぁ』って変な見方してしまうんよね。
今朝だって新幹線降りてすぐに別行動とってしまうし……」
狭山さんは、会議室の出入り口を向き ぞろぞろと戻ってくる人達の話し声がオフィスのデスク内で留まっているのを感じながら意味深な微笑みを浮かべた。
その悲しそうにも見える微笑みから、野崎さんから聞かされた「新人教育が難しいと狭山さんが漏らしていた」という話の意図を感じ取りなんとも言えない気分になる。
それは俺だけでなく後輩3人も同じであったのだろう、途端に会議室の中が静まり返って……
「あー、変な話してごめんなぁ。もう休憩終わるし、広瀬くんもパソコン片付けな。うちも何か手伝おうか?」
パッと明るい表情に変えて俺の片付けを気にかけ、先程まで話してくれた事を狭山さんは謝る。
「あぁいいですよ。これを自分のデスクに戻すだけですから」
俺も俺で、そんな狭山さんや後輩達にこれ以上余計な気を遣わせてはならないと 急いで自分の片付けを済ませオフィスをすぐに出る為の支度を始めた。
パソコンを自分のデスクの上に置き、してはいけないと自覚しているのにまた溜め息が出てしまう。
(独り立ちかぁ…………まだ1年目なりの余裕が鏑木さんにはあるのかもしれないが、社会人になって7年半俺は一度も感じた事がないなぁ……)
いや、「7年半も経つならば少しは独り立ちしろ」って自分で自身にツッコミ入れたいところではあるのだが。
俺自身同期の社員と比較しても上昇志向のない人間だし、部長の居ない中でなるべく工夫して「それなりに」を装って研修会の進行をしたもののその内容も結局は部長の力なしではなし得なかった。
定時帰りする部長の慌てた背中を見送り、「研修の準備は任せてください」なんて格好のつけた言葉を吐く俺の実像は、まだ部長が居ないと1年目の営業事務の突っ込んだ質問にすぐ返答してやる能力のない情けない2番手なのだと、そう思い知らされる。
「あ」
パソコンを置きコンセントを繋げただけでその場を去ろうとした俺だったが、部長の事に関連して2年前の「ある事」を思い出して再び目の前のそれを開いて起動させ……インターネットに繋げる。
(一応、村川くんが昨日社内メールで宿泊予定の事務員に宿泊予約が出来ているかの確認をとっておいてくれたけど……)
俺はオフィス街や最寄り駅周辺のビジネスホテルの本日空き状況をホームページやサイトから確認する。
「今日は意外と空いてるな……」
日によっては夜に差し掛かる前のこの時間でも満室になっているから、「若干数」という表示を目にするだけでもホッとする。
もしかしたら飲み会後の時間になれば、これらのホテルも埋まってしまうのかもしれないが全く確認なしでいるよりはマシだろう。
「主任! 皆さんともうお店に向かっちゃいますが、帰り支度もう少しかかっちゃいますか?」
少し離れたところから森田さんの声が響く。
「もう平気だから。すまないけど先に行っててくれる?」
オフィスを出ようとする彼らに目線を向ける事なくそれだけ返答する俺は、またシャットダウンの時間までしばしその場に立ち……その時間を利用して先程閲覧したビジネスホテル名をスマホのメモに打ち込んでおく。
「では、お先に失礼します」
定時を過ぎても雑務に追われている数人の社員に軽い挨拶を済ませた俺は、急いでエレベーターに乗り込み一階まで降りた。
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