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俺と彼女と可愛い甘え
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しおりを挟む「部長はしばらく有給取るけど俺らが不安がっても仕方ないし、やるべき事をしっかりやって逆に部長を少しでも安心させてやらないとな」
駅に到着し、構内を出たところで後輩2人に『主任らしい台詞』を掛けてやると
「それもそうですね! 明日明後日頑張りましょう!」
「部長が辞めるって決まっている訳じゃないですもんね」
森田さんは明るい声でそう言い、野崎さんは頷いていた。
「2人共お疲れ様。明日の朝またここで」
「お疲れ様です」
「また明日もよろしくお願いしまーす!」
俺は手に持っていた紙袋を森田さんに返して2人の挨拶に軽く手を振り……1人だけマンションの方へと足を向ける。
マンションのエレベーターに乗り込んだところで夏実に電話を掛けると、すぐに出てくれた。
「夏実ただいま。今日も遅くなってごめん」
『湊人お疲れ様ぁ……もうお家の中?』
「いや? まだエレベーターの中だよ」
『じゃあ家の中入ったらビデオ通話にしようよ♡』
「え~? 俺すぐに風呂入るつもりなんだけど」
『えぇ~~??!』
夏実の提案に俺は難色を示すと、夏実は俺に負けないくらいの「えぇ~~」で応戦する。
「だって風呂にスマホ持ち込む訳にいかないだろ?」
『昨日は電話出来なかったから湊人をいっぱい感じたいんだもぉん♡』
「昨日は本当にごめん。急遽通夜に行かなきゃいけなくなって、その後も会社寄って残業したから」
女子高生に大人のそういう都合を押し付けるのもよくないと思うからそこは謝らないといけないし、可愛い彼女の希望もしっかり叶えてあげたいのだが……かといって入浴中に電話というのはいくらなんでも無理があり過ぎる。
『お亡くなりになったのって部長さんのお父さんだっけ……えっと、ご愁傷様って言うんだよね?』
「言う相手は俺じゃないけどな。
あと、『夕飯いらない』ってメールしたのに弁当用意してくれてありがとう。ちょっとビックリした」
昨日の朝に通夜と葬儀の社内メールを確認した段階で夏実に夕飯の支度は必要ないとの連絡を入れたのだが、深夜に帰宅したら律儀に翌日用の弁当が冷蔵庫の中に入っていて本当に驚いた。
今週から電器店のアルバイトを毎夕行う夏実にとって、一旦家に寄って夕飯を食べてから薗田家へ帰宅するのが最も都合良いらしく、1人分のご飯用意するのは寂しいからとの理由で月曜日の夜は夕飯と弁当の両方用意してくれていた。
だから昨日の午前中に「夕飯いらない」と伝えたのに弁当だけが用意され、
今日は「明日のランチは注文した弁当を社員で食べるから弁当いらない」と伝えたら今夜の夕飯だけが用意される……という、なんとも律儀な対応を夏実はしてくれている。
(実際助かってるんだけど同棲前からここまで律儀にしてくれなくても良いんだけどなぁ。
今のうちからこんな事まで気を回していたら、同棲スタートしたら疲れてしまうんじゃないか? ……嬉しいのは嬉しいんだけど)
『あのね、今回の卵焼きすっごく綺麗に焼けたと思うの。どうだった?』
家の鍵を取り出して扉を開けるタイミングで、夏実は弁当の感想を訊いてきた。
「あーそれ! すっごく綺麗で美味しかったよ。ありがとう」
スマホを肩と耳の間に挟んだ状態で靴を脱ぎ、卵焼きの感想を正直に伝えると
『卵焼き、亮輔さんに見られた? 隣同士でいつもお弁当食べるんでしょ?』
と、夏実にとっての卵焼き師匠から何かしたの反応があったのではないか?と問いかけてくるのが少し可愛い。よっぽど自信があったのだろう。
「村川くんは凝視するくらい夏実の卵焼き見てて『上達してる!』ってビックリしてたから一切れ分けてやったよ。美味かったって感想も貰った」
『えへー♡ 湊人に褒められるのより嬉しいかも~♪』
村川くんに卵焼きを食べてもらっただけでなく、味のお墨付きまでもらえたのが相当嬉しかったのか、電話の声がいつも以上に甘くとろけた感じになっていてなんだか悔しい。
「今から風呂入るからまた後でなー」
『あー、湊人嫉妬してるんでしょ? 私が湊人より亮輔さんに褒められるのが嬉しいって言ったから!』
「嫉妬じゃなくて本当に風呂入りたいんだよ……じゃまたな」
悔しさが滲み出た俺の声を夏実に「嫉妬」と判断されたのが恥ずかしくなり、脱衣所に入る前に通話を切ってやった。
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