【完結】彼女が18になった

チャフ

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俺と彼女の可愛い悋気(りんき)

★17

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 再びベッドの上に上がって、さて始めようか……としたその時

「静華さんや他の女の人としてこなかったエッチを、今からして?」

 俺の身体に抱きつきながら夏実はしっとりとした声をかけてきた。

「しっ……???!!!」

 言葉の詰まりや目の見開きに、夏実は不貞腐れた表情をしている。

「やっぱり! 静華さんと付き合ってて、エッチしたんだ……」
「やっぱりって……夏実気付いてたのか??!!」

 正直今、ここ数年で一番驚いているかもしれない。
 だって夏実は恋愛面に疎いアホの子で「キスしてないから付き合ってないよね」なんて言い放った女だ。
 しかも「本当に付き合ってなかったのか?」や「Hもしなかったのか?」などという質問をすっ飛ばして、まるで夏実の頭の中で確定事項のようにポンと静華の名を出して来たのだから、相当ビックリしている。

「気付いてたっていうか……カン? 湊人に彼女が居た頃に小学生の私が感じていた心のモヤモヤみたいなヤツを、湊人と静華さんが2人で喋っている時にも感じていたから……だからきっとそうなんだろうって」

 つまり、夏実は先週の土曜日から俺と静華の関係性を疑っていた事になる。

「じゃあ、なんで先週その質問しなかったんだ?キスの事だけ訊いてきてさ……」
「そんな核心ついた質問出来る訳ないじゃん! 湊人のばかっ!」

 俺の単純な問いに夏実は拳を作って俺の胸をポカポカ叩いてきた。

「いって! 痛いって!」
「痛いのは私の心だよっ! 湊人のばか! ばかばかばか!!」
「夏実の心を痛くしてごめん……」

 茉莉のクラスメイトに囲まれた時も感じたが、俺は特に恋愛に関する事で「確証がない事をああでもないこうでもないと他者が言い合う様子」が苦手だし、自分で先回りして余計な行動を取る事も苦手だ……正直、それで良い目を見た経験がないからだ。
 だから夏実にも、俺と静華が一緒に居るところを見て「2人は付き合ってた」「経験済みだ」とほぼ決め付けて勝手に思い悩まないで欲しいと思ってしまう。
 だからこそ今の夏実の言動に、「別に直接訊いてくれたらちゃんと答えるよ」なんて半ば狡い台詞を言ったのだと思う……昨日までの俺なら。

 けれども今日、俺は拡声器無しで喋りだした夏実を目にして「夏実と過ごした18年のカン」とやらで夏実が「俺と静華が並んで立つ様子が嫌で嫌でたまらなく、今すぐ離れて欲しい」と言う様な嫉妬の念を訴えているのだと察知して、急いで屋上へと駆け上がりそんな夏実を抱き締めたいと欲するなどという……学び舎の場で有るまじき行動をとってしまった。
 夏実だって俺だって人間なのだから、核心的な質問を言い合う怖さや不確かなカンで行動する事も……あって良いのだと今では思う。

「苦しかったんだから! ずっとずっと心が痛かったんだから……」

 また目から涙を溢れさせる夏実に、俺はギュッと抱き締めて

「俺が悪いから。全部、全部悪いから……だからごめん、夏実」

 彼女に優しく呼び掛け謝った。

 
「なぁ……夏実」

 ひとしきり抱き締めた後で、彼女の顔を俺に向かせて名前を呼ぶ。

「何?」

 少しだけ口を尖らせている夏実に

「俺は夏実の前でちゃんと笑えてる?」

 と訊いた。

「……どういうこと?」

 何故俺がそんな質問を投げかけるのか、夏実は全く分からないでいるようだ。

「夏実の言う通り、高校の頃俺は静華と付き合ってたよ。キスだけしなかったけれどその他の事は大抵経験した」

 俺の正直な告白に、夏実は表情を曇らせる。

「でも、俺は静華にも他の女にも出来なかった事がある……」

 そんな彼女の目を見つめながら、俺は俺なりにフッと微笑んでみせた。

「俺……口で相手に『好き』とは言えても、今夏実にしてやってるような顔は恐らく出来てなかった。
 夏実よりも前に付き合ってきた元カノには、笑い顔を見せてやれなかったんだ」
「湊人はいつも笑ってくれてるよ? 私が小さい頃も、付き合ってからも」

 まだ信じられないような表情をする夏実の頭を優しく撫でて……話を続ける。

「笑えなかっただけじゃない。静華とは高校の卒業式に別れたんだけど、思いっきり振られたんだよ『愛されてる実感が欲しかった』って……最近も静華から『心ここに在らずなセックスしてた』って、当時を指摘された」
「それは湊人が頭痛かったから? 静華さんの煙草で気分が悪かったから?」
「それもあったんだろうけど、多分好きでいるつもりでいて俺の本心は違っていたからだと思う」

 高校2年の夏から高校を卒業するまで……俺は静華を好きでいたし女としてちゃんと見ていた。
 けれども、今の夏実にかけているのと同じ感情を当時の静華に成し得ていたかと問われれば、やはりそこまで達してなかったのだと思う。

 当時の静華も気付いていたんだ。
 俺の心には、幼い夏実が居るのだという事を。



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