【完結】彼女が18になった

チャフ

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俺と彼女の可愛い悋気(りんき)

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「あっ! ようやくだね、なつこちゃん!!」

 静華は夏実の登場に俺よりも喜んでいて、屋上の女子高生にも見えるように片腕を高くあげてゆっくりと左右に振っている。

「そうだな……」

 周囲を見回すと、立ち見客がさっきよりもグッと増えた事にも気付いた。
 グラウンドにも文化祭の終了時刻を案内する校内放送が流れて、俺と静華が昔を懐かしんだこの時間もそろそろ終わりを告げようとしているのだと知った。

 集まってきた周囲の顔をザッと確認すると、なんとなく夏実の関係者ばかりなのだろうと予測する。
 夏実と同じ制服を着た高校生男女や、数人の保護者らしき女性達、昨夜顔を合わせた担任が立って屋上を見つめ……夏実が登場しスピーチするのを今か今かと待っていた。

 夏実が拡声器を手に持ち、屋上のフェンスギリギリの位置に立つのが見えると一斉に高校生男女達が

「薗田ー!」
「薗田さーん!!」
「夏実ちゃーん!」

 と口々に呼び掛ける。


「わたしーー!! この高校が、だいすきーーー!!!!」

 夏実のスピーチは、嬉しそうな声や台詞から始まった。

「受験した理由はぁ、大好きな湊人みなとが卒業した高校でぇ、私も湊人と同じところに行きたいっていう、単純な理由だったんだけどぉーー!!
 入学したらー、みんなみんな優しくてー、毎日毎日楽しくてー、もっともっと大好きになったよーーーーー!!!!」

 静華は夏実の声をもっとよく拾おうと観覧席の区切り線ギリギリまで南棟に近付いて、掌を耳の後ろへ持っていく。

「みなとっちもこっちまで近付きなよ。なつこちゃんの顔もよく見えるよ」

 それから俺の方へ振り向いて、誘う。

「ん……」

 ここからでもちゃんとよく聞こえるのだが、せっかく夏実の口から俺の名前がいきなり出てきたし、これから何を話そうとしているのか気になってきたし……。
 静華の言葉に誘われ、同様に近付いて……隣に立つ。

「ほんとだ、良く見える」

 屋上へと顔を見上げて、静華の言う通りだと頷くと

「可愛いおパンツは見えないけどねー!」
おどけんじゃねぇよ」

 拡声器から聞こえる夏実の声を、2人でクスクス笑い合いながら耳を傾けて楽しんだ。

「滉くん、大好きー! 茉莉ちゃん、大好きー! お父さんお母さん、おじちゃんおばちゃん大好きー! なおちゃんとなおくんも、大好きー!」

 夏実は何の説明もなく、人物名を叫んでは「大好き」の言葉に続けさせる。

「みなとっち、おじちゃんおばちゃんって誰?それと『なお』って、名前を2回繰り返さなかった?」

 人差し指を屋上に向けてそう質問してくる静華の姿が、視界の端に見えて

「夏実の癖だから、アレ。自分の周りにいる人物名、説明なしにいきなり口に出すから」

 俺は顔を屋上に向けたまま動かず、そう答える。

 夏実の悪い癖は、その人物が誰かなんて説明を一切せずにそのまま名前をポンと出すところだ。
 だから夏実の口から発せられる人物名が、俺も把握出来ない程たくさんポンポン出てきて「夏実は高校3年間で関わってきた全ての生徒や教師の名前をこの場で全部言い出すんじゃないか?」と聞いてるこっちが心配する。

「べっつにさぁ、1人1人の名前言わなくたって『1年6組のみんな』とか『2年2組のみんな』とか、まとめて言えば良かったんじゃないか?」

 分からない人物名の羅列に流石の俺も飽きてきて、思わず静華にそう愚痴ったんだが

「なつこちゃんはどうしても1人1人の名前をちゃんと言いたいんだよ。なつこちゃんと関わった全ての人に感謝したいんじゃないのかな?」

 静華は笑ってそのような仮説を立てる。

「そうなのか?」
「そうだよ、絶対! ……そのくらい、なつこちゃんにとって高校生活は楽しくてたまらないんだと思う」
「……そっか」
「そう考えると、うちの高校を受験するキッカケを作ったみなとっちも凄いよね。私知ってるよ、みなとっちがなつこちゃんの高校受験の手伝いしたって事も」
「合格して入学したのは、夏実の実力だから」
「またまた自己評価低い発言するんだから。みなとっちは本当につまらない男だねぇ」

 静華とそんな会話をポツポツとしている内に、夏実の「人物名プラス大好き」発言が終わって……夏実が手に持っていた拡声器を下に置くのが見えた。

 人物名の羅列に飽きていた俺は「ようやく終わったのか」と安堵した反面、後方で固まって立つ集団達のテンションは最高潮に達している。

「名前呼びありがとー!」
「私も薗田さん大好きー!」

 恐らく、茉莉以外にも仲良くしている女生徒達が上に向かって叫んでいたり

「っていうかそろそろ、『卒業したら結婚します』って宣言しろー!」
「そうだそうだー! 彼氏の名前紹介しろー!」
「俺も『おっさん』しか知らねーぞー!!」
「あはは……ほんとだ」

 数人の男子生徒が囃し立てる声も聞こえる。


 だがしかし、拡声器を置いた夏実の姿が見えなくなって「終了」のアナウンスも何もないまま、俺達はしばらくの間待たされた。
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