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俺と彼女の可愛い悋気(りんき)
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しおりを挟む「もし……もし、だよ?」
この高校は昔から建物と通路の位置が変わっていて、俺らの居た場所からグラウンドへ向かうには西側へと遠回りしなければならない。
夏実のクラスが出し物をしている観覧席とは真反対の方向だ。
「なんだよ」
遠回りして余計に歩かなければならないのでその時間分、静華と「もしも」みたいな例え話も余計にしてしまう。
「もし……私とみなとっちが付き合ってた時期にまた私が『地学部に入部したい』って言っても、みなとっちは全力で止めた?」
「付き合ってる時期?」
「その頃なら私、みなとっちとイチャイチャしたい理由で屋上の鍵を使いたいって思ったんだろうなーって」
「はぁ?」
「きっと気持ち良かったんじゃないかなぁって思うんだよねぇ~……。
晴れた日の屋上で、上見たら青空しかなくて、そんな中でみなとっちと爽やかで心地良いセックスをするの」
「……」
「どう? 入部阻止した? それともしなかった?」
高校2年の2学期から高校3年の卒業式まで、俺と静華は付き合っていて……当然それなりの行為をして、互いに初体験を乗り越えた関係でもある。
今日改めて自覚したが当時の俺は静華の事を女として好きだった。ちゃんとした彼女であるという意識を持っていた。
そして同様に静華も、俺がちゃんとした彼氏であると……そういう意識を持っていたのだろうと思われる。
お互いを、特別な異性として意識して……好意を持って……。
生理的欲求の解消だけが理由ではなく、互いが互いを求めて抱き合い……何度も愛し合ったのだと思う。
ただ俺らはきっとその愛が上手く噛み合わなかったのだ……俺が静華に笑顔を作れず、静華も静華で喫煙を辞められなかったから。
「…………」
静華の問いに、俺は立ち止まり……それから深呼吸をした。
数歩先を歩いていた静華は立ち止まった俺に気付いて同様に足を止め……振り返る。
「さっきの質問、答えるのが難しい?」
質問に即答せずに立ち止まった理由を、静華はそう考えたのだろう。
けれども俺は首を横に振りながら
「いや、きちんと答えられるよ」
と言い、改めて静華の質問に
「じゃあ……」
「それでも俺は全力で入部阻止したと思う……やっぱり邪な理由だし、真面目に部活動やってる部員に失礼だから」
ハッキリとそのように返答した。
「ふふっ♪」
俺の言葉に静華は笑い
「やっぱりつまんない男だなぁみなとっちは!」
と馬鹿にした。
「どうせ俺はクソ真面目な上につまんない男だよ!」
俺も静華の隣に駆け寄るなり、静華のまとめ髪を人差し指でブスブス刺してやる。
「やめてよみなとっちぃ~! 痛いんだけど!」
静華にいつも頭ブスブスをされてはいたが、俺からしたのは初めてだったかもしれない。
「今まで俺も痛かったんだよ! 痛みを思い知れこの馬鹿が!」
「ひっどぉい! みなとっち、笑いながら『馬鹿』って言った! 高校の時は一度も笑ってくれなかったのに!」
「知るかよ。煙草吸わなかったら笑えるんだろうよ、俺はっ!!」
「それ、高校の時に知りたかった!」
「あー、それは俺も同意見だな! 煙草が原因なの知ったの7年前だから!」
「何よデカ男!!」
「何だよデカ女!!」
一度立ち止まった位置から観覧席に近付くまでの間、俺らは笑い顔を見せ合いながら歩き、そして左手人差し指で互いの頭をブスブスとつつき合った。
晴れた空の下、人差し指を立てる左手にはそれぞれ別の愛する人を想うプラチナが陽の光で反射して……
今の俺らは、高校1年の頃とも付き合ってた頃とも違う関係性なのだと再確認する。
「ふふふ♪」
「フッ……」
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