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俺と彼女の可愛い悋気(りんき)
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しおりを挟む「な~んか、昨日の1日目でみなとっちは有名人になっちゃったみたいだねぇ~」
3年8組の教室内でいきなり20人近くの生徒に囲まれてから30分後……。
ようやくその中から抜け出せた俺と静華は風に当たろうと思って教室棟と南棟との間に位置する中庭の日陰に腰を据え、周囲に隠れるように並んで座っている。
「滉の言う『おっさん』と俺の顔が一部の生徒を除いて一致しないままでいるっていうのが唯一の救いだけどな」
因みにここは俺と静華が付き合っている時期、ごく普通の会話を交わしたい時に利用していた「お気に入りの場所」だった。
「滉くん、見た目ちっちゃくて可愛いのに大胆なスピーチするんだね! 元々『中身が超絶イケメン』だなーとは感じていたけど私が想像していた以上かも。
あの子達、『ルールだから内容言えないけど1組の野崎滉のスピーチは感動した!』って言ってたもんね。内容知らなくても大勢の高校生の心を動かすって凄くない?」
「……まぁ、確かに滉はそういう奴だよな。見た目はチビガキなのに」
もし、俺が煙草を吸える人間ならここで一服するんだろうなー……と、そんな事を思ってしまうくらい今日の暑さに反してこの場所は心地良い。逆にそのくらい、3年8組の教室内に居た高校生らの熱気は凄いものがあり、その当事者に含まれている俺の頭は混乱した。
風に当たりたいと思ったのも、この混乱した頭をどうにかして冷やそうと俺自身が欲してこの場所を2人で思い出したからに他ならない。
「先生達はどう感じたか分からないけどさ、滉くんの話に出たらしい『おっさん』も、あの子達にとって印象良かったみたいで良かったよ」
「夏実は昨日『滉は俺の悪口言ってた』って言ってたんだけどな」
「要はその悪口の印象が消え去っちゃうくらい、あの子達にかっこいいって思われてるんだから、良しとしようよ」
「一番かっこいいのは俺じゃなくて滉や夏実って事だろ? 」
「でも、なつこちゃんの18年間を形成した一因なんだから、やっぱりみなとっちもカッコいい部類に入るんだよ」
「ぜってー違ぇし」
「ぜってーそうだって! みなとっちってば相変わらず自己評価低いつまんない男だなぁ」
高校生らが散々俺含め野崎滉や薗田夏実をかっこいいと評した後で、「ジェラ=嫉妬」と言った女子生徒が俺と静華を交互に見て「私が薗田夏実の立場なら2人を見て嫉妬すると思う」と言い出した。
その意見に高校生らはギャアギャアと賛成意見や反対意見を……当人の俺を半ば無視した感じでプチ討論会に流れが一気に進んでしまったので俺も静華も面倒臭くなってその場から抜け出したという訳だ。
面倒臭くなったとはいいながらも、「本当に夏実はそう思ってるのか?」というのはやはり気にかかってしまう。
「静華ってさ、そういう面でもサッパリしてたよなぁ……ウジウジしたりネチネチした感情を俺にぶつけて来なかったし。嫉妬するどころか最終的には俺をフッて第一志望の大学行って新しい生活に頭を切り替えてさ」
静華はその点でも女らしくはなく、所謂付き合いやすい部類だったとも感じる。
「まぁ、みなとっちって実際モテてたからねー! 私と付き合う前から短期間かつ切れ間なく他校の女の子の誰かと付き合ってたから付き合う最中も『みなとっちはモテるから、もしかしたら誰かにみなとっち取られるかも』って意識はあったよ? ……それを嫉妬と呼ぶのかは分からないけど」
「付き合い最中にフるフラれるみたいな状況に陥らない限り、そんな事にはならなかっただろうが」
「だよねー、だからみなとっちは浮気する男じゃないって知ってるよ。あの女の子は『嫉妬すると思う』って言ってたけど、私がなつこちゃんなら嫉妬はしないな」
「今だって浮気心なんてねぇし」
「指輪の裏側は見せらんなくて隠しはしても、外さないって事はそういう意味だよねー♪ 分かる分かる♪」
1年半の付き合い期間を経た静華がそう思うのだから、18年間何気にほぼ毎日顔を合わせ、なおかつ静華以上の長い期間付き合ってる夏実も『嫉妬とは思わない』部類に入る筈だ……というか、俺はそう思いたい。
「最初にあの話題出してきた茉莉だってさ、夏実と滉が仲良くしてんの見ても『元からそういう関係だから嫉妬しない』って言ってるんだから。
外野がガチャガチャ言って『そうかもしれない』『ああかもしれない』って騒ぎ出すの、俺マジで嫌だった」
今もまさにその気持ちが自分の中を渦巻いていて、俺は大きな溜め息を吐いて建物の壁に寄りかかる。
「みなとっちはその意味でも真面目だからね。『本人の口から真実を聞くまで伝聞や噂は信じない』みたいな面、昔から持ってたし」
「だって伝聞や噂なんて大半が的外れだろ。本人の口から本当の事聞くのが一番手っ取り早い」
特に男女の恋愛沙汰なんて、伝聞や噂を当てにしたら痛い目を見るだろう。外野は好き勝手言ってるケースが多いのだから。
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