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俺と彼女の可愛い主張
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しおりを挟む食べ放題の時間もあと少しとなり、肉の追加もそろそろオーダーストップになるかな……なんて事を喋っていると
「あー、楽しい♪ 高校生とご飯食べるのってこんなに楽しいんだね! なーんか自分まで青春してる気になるよ」
静華は満足そうな顔で、ワインボトルに残ったものを手酌する。
「静華さん、私達といて楽しい?」
夏実の確認にも、静華はニッコリと微笑んでいた。
「じゃあさ、今度は茉莉も誘ってメシ食おうよ!」
「そうそう! 茉莉ちゃんもすっごく良い子だから!」
滉と夏実がキラキラした眼差しで口々に言うと、静華は本当に嬉しそうに「ありがとう」と言い、俺にも笑い顔を向けた。
静華の笑い顔の意味が分からないままその顔をじっと見る俺に、静華は続けて
「でも来週末はみんな忙しいもんね、文化祭で」
と言う。
「文化祭?」
そういえば今年はその話題を聞いてなかったと思い夏実の方へと向き直ると、バツの悪そうな表情で夏実が俯いた。
そんな夏実の肩を滉は軽く抱き寄せて
「おっさんはどうせ来ないんだろ?」
と、俺を睨む。
「そうだけど」
「そうだけどって、みなとっちそれ本気で言ってるの? 行きなさいよ!」
「親も行かねぇのに俺行ってどうするんだよ?」
静華が信じられないような顔で俺を覗き込むので、俺は正論とも言える意見を述べた。
確かに去年も一昨年も高校の文化祭を見に行っていない。そもそも高校の文化祭なんて、保護者よりも他校の高校生や受験を考えている中学生で溢れかえる場なのだから、そこに成人した男がうろつくなんておかしいんじゃないだろうか。
しかし去年も一昨年も夏実から「文化祭ではこんな事をするの!」と俺が行かないと分かった上でクラスの出し物を教えてくれていたから、今年のように全く話題に出して来なかったのは不思議に感じた。
「そりゃ高校の文化祭なんて昔から保護者よりも学生がいっぱいやって来るもんだけどさぁ、みなとっちは保護者じゃないじゃない! 彼氏でしょうが!!」
静華はそう言い返してきて俺の頭をブスブス刺してきた。
「いって!! さっきのブスブスよりなんか痛ぇ! やめろ!!」
「やだ! なつこちゃんこんなにいい子なのに行かないって意味わかんないからやめない!」
手入れされたネイルの爪先が特にグッサグッサ刺さる上に、ブスブスの勢いがさっきよりも断然強い。
頭を振ったり静華の手を払ったりして防御を試みるも、静華の人差し指は二本に増えて容赦なく刺していく。
「夏実もなんで今年はそういう話してこなかったんだ? 行く行かないは別としても話題くらい出したっていいのに」
静華の迫り来る指に「やめろやめろ」と避けながらも、俺は顔を夏実に向けて訊いた。
「それは……」
俯いていた夏実の顔がゆっくりとこっちへ向き直り、俺をジッと見つめる。
「それは?」
押し黙る夏実に俺が聞き返すと、滉はイライラした口調でこう言い放った。
「発案者のなつこがリーダーになって進めてたからだよ! いくら頑張ったっておっさんが見にこないんじゃ教えるだけ無駄だろうが」
「夏実が……発案?」
滉の話に目を見開く俺に対し、夏実はキュッと結んでいた口をゆっくり開いて説明し始めた。
「3年生は大体飲食系やるけど、受験勉強で忙しいから準備で居残りする難しいし私しか自由に動けないし……それでもちゃんと思い出に残るものにしたいから、みんなで大声出して発散してもらおうと思ったの」
「大声?」
「大声で発散する事がクラスの出し物」だなんて、いまいちピンと来なかったのだが
「俺らの担任も言ってたけど、昔テレビ番組とかでやってたんだろ? 学校の屋上で生徒が自分の言いたいこと叫ぶようなやつ」
「ああ~あったなぁ、そんなテレビ番組」
滉の補足説明でなんとなくそれをイメージする事が出来た。その番組やってたのは確か小学生くらいの頃で、俺ほとんど観てなかったけどなお達が毎週楽しみにしていたのを思い出す。
「確かにそういうのなら準備はほとんどしなくていいよね。作るとしても看板くらい?」
静華の言葉に夏実はコクンと頷く。
「別に、喋る内容なかったり言い出しにくかったりした場合は『わーっ』って大声を出すだけでいいの。
声の大きさや話の内容で順位を決めるわけでもなくて……でもみんな心の内に秘めてる何かっていうのが絶対にあると思うから、だから屋上で拡声器1つ持って喋ってもらったりひたすら大声出してもらおうって。
飛び入り参加でもいいんだけど、参加資格は中学生と高校生だけ。観覧はグラウンドでするんだけどSNSに誰かが上げたりしたら自由に発言出来ないから観覧場所をちゃんと区切ってグラウンドに出てる人全員スマホを預けてもらうのがルール」
夏実が発案した企画は変わってはいたが、なかなか工夫されていると思った。
「確かに準備は少なくて済むんだけど、なつこだけは『スマホ預けるルールは絶対に守りたい』って、ルールの了承得る為に夏休み前とか夏期補講の日とかに全クラスにビラ配って頑張ってたんだよ」
「夏休み前からって、夏実お前……」
(時期的に俺と誕生日デートしたり、受験辞める宣言で俺と言い合いになったり……新しい部屋決めたり、その他にも色々……。
俺との事だけでも慌ただしかったのに、学校行事の面でも夏実はそんなに頑張ってたなんて……)
夏実から話題を持ちかけられなかったからとはいえ、知らなさ過ぎる自分が情けないと思った。
「じゃあ尚更今年は行かなきゃダメじゃん! 大人が観覧しちゃいけないなんて決まりはないんだし、なんたってみなとっちはなつこちゃんの彼氏なんだから」
俺の頭をコンコン叩いて、静華はゆっくりとそう言う。
「そうだな……夏実、ごめんな」
話題に出して来なかったのなら、俺から話を振ってやれば良かったんだ。
そんな簡単な事にも気付けなかったと反省した俺は夏実に頭を下げた。
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