【完結】彼女が18になった

チャフ

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可愛い彼女と俺の恋

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 倒れた2回目は高橋部長から思い出話として聞かされるまで一時忘れていた癖に、何故か視界全体に映る夏実の泣き顔だけはハッキリ覚えていて俺の記憶中枢はどうなっているんだと自問したい。

「いたかったけど、いてほしい」

 回想から意識を脱け出す俺の口は、現実の夏実にそう呟いた。

「え? だって重かったでしょ?」

 夏実の身体は、既に横たわる俺から離れて頭を撫で続けている。

「夏実は重くないよ。重いのは、俺の想いの方だから」

 頭に置かれてる白い手を取って、それを頰に当てて訳の分からない事を言う俺の真意は夏実には伝わらないだろう。

「湊人、何言って……?」

 首を傾げる夏実を俺の身の上にゆっくりと乗せて……俺は7年前に言えなかった言葉を発した。
 
「ありがとう、俺を心配してくれてずっと見続けていてくれて。俺は、そんな夏実がこの世で一番大好きだよ」

 本来ならそこで「本当は夏実よりもずっとずっと前から俺の方が好きだった」と真実を伝えれば良かったのに、何故か素直になれなかった。
 7年前夏実の目が成し得た涙の行為が今の俺に出来なかったのは、恐らくそれが原因なのかもしれない。


「…………」

 俺の言葉に黙り込む夏実に

「少しは王子っぽい事言えた?」

 と笑ってみせると

「んもぅ♡」

 と夏実は短く言って俺の唇の上に可愛らしいキスを落とす。

(ごめん夏実。口では「王子の幻想を抱くな」と言っておきながら、心の底では「夏実の恋心の中だけでも王子であり続けたい」と自ら願っているんだ。
 醜くて汚らしいエゴだよな、こんな想い。
 でも……こんな俺は夏実の事が大好きで、大事にしたくて、心の底から愛しているんだよ)

 両腕で夏実の身体を包み込むように抱き寄せ、一旦その可愛い顔を視界全体に収めた後……。
 目を閉じて自分の世界を可愛い夏実の笑顔でいっぱいにさせながら、可愛い頭を自分の方に引き寄せ……精一杯愛をもって水蜜桃の甘い蜜を舌で慈しむ。

「んぅぅ♡」

 甘い蜜は可愛い舌と共に俺の舌へと絡んでトクトクと喉奥へと流し込まれるから……目を閉じていてもそれは桃の果実というガキの記憶ではなく、「夏実」という現実そのものなのだと理解が出来た。



 ひとしきり舌の愛撫で甘い蜜を楽しんだ後で俺も風呂に入り身支度を済ませる。

「夏実? 何してる?」

 洗面所を出てリビングを覗いたらまた消灯されていたので、寝室の方へと俺の足は向いてドアをゆっくりと開け彼女に声をかけた。

「茉莉ちゃんや滉くんとグループトークしてるー」

 夏実はベッドの上にぺたん座りをするもののドア側に背を向けてスマホを弄って俺にそう返答する。

「どうせ俺の悪口で盛り上がってんだろ」

 俺もベッドに上がって、スマホ画面を見ないように配慮しつつ可愛い肩の筋肉を揉み始めた。

「んぁん♪ ……違うよぅ。湊人の事、2人共褒めてるもぉん」

 マッサージの気持ち良さが混じった甘い声を出す夏実は、俺にスマホの画面が見えるように向けてきた。

「高校生同士のトーク画面なんて見ていいのか?」
「大丈夫だよぅ。ってか、大丈夫だから見せるんだし!」

 夏実は口を尖らせて台詞後半を茉莉みたいな口調で俺にそう言う。

「ほんとだ」

 彼女の言う通り、トーク画面は俺の褒めワード満載で文字やスタンプが並べられている。

「でしょ? 特に茉莉ちゃんは湊人のノートが気に入ったみたい」
「あいつ文系なのに全部持って帰っていったぞ」
「あとで滉くんに渡す気なんじゃない?」
「いや、滉は全く興味示してなくて予備校のテキストで勉強してたけど」
「じゃあ二学期始まったら渡すのかも」
「渡すのは固定なんだな。滉は受け取らないよ絶対」
「いや、絶対受け取るっ! 滉くんは素直じゃないところもあるからねー♪」
「ふぅん」

 俺とそこまで喋ると夏実はスマホをパタッと伏せて俺に振り返り「ふふふ」と微笑む。

「素直じゃない繋がりで湊人に教えてあげる。
 今日の集まりでね、お母さんがずーっと湊人の事を褒めてたんだよ。」
「褒めてた? 晴美さんが??!」

 夏実の発言が信じられなくて、彼女の肩をマッサージしていた自分の手を止める。
 
「昨日の夜のお母さん、ピリピリしながら『結婚の話は今年しない。事後報告にする』って言ってた癖に、お昼にはペラペラ喋っちゃうんだから! 私もお父さんもビックリしちゃったよ!!」
「えぇ!? 晴美さん、夏実の結婚の事親戚にもう話したのか??」
「そうなの。具体的な日にちとか決めてないのにだよ!? しかも相手が30歳って事まで言っちゃうしさぁ……お母さんの名誉の為に今まで付き合ってる事も内緒にしてたのにおかげで全員から私質問責めに遭ったんだから!!」
「質問責めって……夏実も晴美さんも絶対嫌な思いしたんじゃないか?」

 保守的な親戚連中の前で「18の娘が30の中年男と来年結婚する」なんて発表したらどんな目に遭うかその場に居なくても想像がつく。
 しかもそういうシチュエーション、晴美さんが一番嫌いとするものだ。今まで三男の嫁という立場にありながら「舐められないように蔑まれないように、粛々とその時間をやり過ごす」をモットーとして毎年この時期を過ごしてきていたのに。
 ……実際、直くんの一件で少なくとも一度は母親としてそういう経験を経てきたというのに。

「確かに色々言われたけど、大半は『何故そんなに良い人なのに付き合ってる事黙ってるのか』って言われたかなぁ」
「へ? 俺、良い人扱いなのか?」

 だから余計に夏実の言葉に拍子抜けした。

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