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可愛い彼女と俺の恋
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「…………『負け』……か」
互いが好き合っているのであれば勝ちや負けなんて概念は必要ないのだろう。
俺が滉や茉莉に主張した、きっかけや順番は重要でないという意見の意味はそこにある。
だからといって、俺はその勝ち負けを一切スルーして夏実を想っている訳ではなかった。
「俺がなつこに言った『先に惚れた方が相手をめちゃくちゃ可愛がって大事にするのは当たり前だ』ってヤツ……あれはなつこが可哀想だからオブラートに包んだ言い方をしたんであって、『先に惚れた方が負けなんだから、惚れられた方を尽くして大事にしなきゃ恋愛なんて持続出来ない』って事が言いたかったんだ本当は」
「追うものと追われるものが居たら、追われるものは追うものの気持ちなんて分からないし追うのを辞めた時点で全ては終わるもんな」
「なんだ分かってんじゃん、おっさん」
「俺もそれなりに年食ってるからな」
「じゃあ逆に、理解してるからおっさんはそんな態度を取り続けるのか? 10年前から片想いしてるなつこは負け続けてて、意味わかんねぇ王子様に縋るしかなくて、何も言ってこない何もしてこないおっさんの態度に焦れて悩んで……彼氏でもない俺がその度に『16になったら告白してみよう。それまで頑張ろう』ってガキみたいな励まししてさぁ。そんな思いをして16の誕生日になつこは告白したのにおっさんはあっさり即答でOKしたんだろ?」
「そうだよ。あの時俺は夏実の告白に対して『こんな俺に気持ちを伝えてくれた夏実が好きだ』と言ったし、付き合ってくれるか?の問いにも『夏実が望むなら付き合おう』と言った」
「なつこは純粋に喜んでいたけど、それ聞かされた俺はムカついたよ。『馬鹿にしてる』って思った」
「馬鹿にしたつもりはないんだが」
「それって、なつこが告白しないでおっさんからの告白を待つような事してたら一生チャンスが来なかったって意味じゃねぇか! 卑怯だろ!!」
滉の感情が昂っていくのを全身で感じる。
「なつこの想いが通じた後も、俺はおっさんの態度に失望した。付き合うって言ってもなつこからデートしたいって言わない限り出掛けようとしないし、キスやハグだってなつこからいつも先にするし、手を繋いでくっついて歩きたいが為にヒールの高い靴ばっかり揃えて姉ちゃんの服借りて精一杯背伸びしてさぁ。なつこばっかじゃん努力してんの!」
「……夏実はそういう事も滉に相談してたんだな」
「相談じゃねぇよ。俺が毎回聞き出したんだ。なつこは『おっさんに自分の好きが伝わってれば充分だ』って言って、俺と茉莉の仲が進展してくのをニコニコしながら『良かったね、幸せそうだね』って言うんだ」
「うん……」
「なつこは女だから10代の男ほど性欲無いとか幻想抱てんだろ? おっさんが簡単に言い放った『エッチは18になってから』ってヤツも、なつこは毎日カウントダウンしてたんだからな! 『あと何日で18になれる』ってカレンダーの日付見ながら呟く女の気持ち考えた事もないんだろ?」
「…………」
「茉莉も言ったけど、自分の好きが叶わない相手を想い続けるのは苦しいし、負けてる自分は勝ってる相手に一生敵わないのも同じように苦しい。俺は女じゃないけど同じ経験をしたから物凄くよく分かるんだ。だから尚更、無条件でなつこに愛されるおっさんがムカつくし卑怯だと思うし……」
「いつから好きかと質問しても夏実が告白した時点だとしか返答しない俺が大嫌いだと…………滉はそう言いたいんだな」
滉の強い眼差しを自分の目で全て受け止めながら、俺は目の前の男の気持ちを簡潔にまとめた。
「そうだよ……その通りだ。エッチもそうだし、今ここで一緒に暮らす準備もそう。
初対面の時はうちで家電買って欲しいから下手に出てみたけど、やっぱり我慢出来なかった。おっさんみたいな男、一番大嫌いだから」
「確かに今回の事も『一緒に暮らしたい』と提案したのは俺が先だけど、それより前から夏実は本気で『お嫁さんになりたい』って強く望んでいたからそれに答えたまでの行動だ」
「ほら見ろ! 今ですらおっさんは無条件で好かれてるんじゃねぇか! 男なら好きな女を喜ばす努力をしろよ! 努力を!!」
「だが、俺は夏実に何の感情も抱く事なく今までやってきた訳じゃない」
滉の言葉は、どれも事実だ。
事実だからこそ、抉られまくった俺の心を……傷ついた自分の心につい手を当ててしまった。
「は? 俺が責めたら今度は自衛か? 努力も何もしてない中途半端なおっさんの癖にこの期に及んで汚い言い訳でもするつもりかよ」
本当に汚いものを見るような目で睨んできた滉に、俺は自分の出来得る限りの真剣な表情で見つめ返した。
「言い訳と思ってくれてもいい。今から俺が話す事は夏実や茉莉にバラしたっていい……でもその代わり俺が自分の気持ちに正直になった時点で、俺と夏実は『終わる』と思っている」
追うものと追われるもの。
「追うもの」が、実はずっと最初から「追われるもの」で尚且つずっと勝者であると気付いた場合……その関係はどうなってしまうだろうか?
ーーー
『私と湊人の場合だと私の方が先に好きになったから湊人を王子様と思うのは固定で揺るがないの』
ーーー
憧憬を抱く俺の背中は単なる幻だと知ったら、王子様だと思っていた幼い少女の恋心は滉みたいに失望するんじゃないだろうか。
「負け続けているのは夏実じゃない、俺の方だ。
俺は夏実が8歳になるずっと前から……彼女の事が好きだったんだから」
互いが好き合っているのであれば勝ちや負けなんて概念は必要ないのだろう。
俺が滉や茉莉に主張した、きっかけや順番は重要でないという意見の意味はそこにある。
だからといって、俺はその勝ち負けを一切スルーして夏実を想っている訳ではなかった。
「俺がなつこに言った『先に惚れた方が相手をめちゃくちゃ可愛がって大事にするのは当たり前だ』ってヤツ……あれはなつこが可哀想だからオブラートに包んだ言い方をしたんであって、『先に惚れた方が負けなんだから、惚れられた方を尽くして大事にしなきゃ恋愛なんて持続出来ない』って事が言いたかったんだ本当は」
「追うものと追われるものが居たら、追われるものは追うものの気持ちなんて分からないし追うのを辞めた時点で全ては終わるもんな」
「なんだ分かってんじゃん、おっさん」
「俺もそれなりに年食ってるからな」
「じゃあ逆に、理解してるからおっさんはそんな態度を取り続けるのか? 10年前から片想いしてるなつこは負け続けてて、意味わかんねぇ王子様に縋るしかなくて、何も言ってこない何もしてこないおっさんの態度に焦れて悩んで……彼氏でもない俺がその度に『16になったら告白してみよう。それまで頑張ろう』ってガキみたいな励まししてさぁ。そんな思いをして16の誕生日になつこは告白したのにおっさんはあっさり即答でOKしたんだろ?」
「そうだよ。あの時俺は夏実の告白に対して『こんな俺に気持ちを伝えてくれた夏実が好きだ』と言ったし、付き合ってくれるか?の問いにも『夏実が望むなら付き合おう』と言った」
「なつこは純粋に喜んでいたけど、それ聞かされた俺はムカついたよ。『馬鹿にしてる』って思った」
「馬鹿にしたつもりはないんだが」
「それって、なつこが告白しないでおっさんからの告白を待つような事してたら一生チャンスが来なかったって意味じゃねぇか! 卑怯だろ!!」
滉の感情が昂っていくのを全身で感じる。
「なつこの想いが通じた後も、俺はおっさんの態度に失望した。付き合うって言ってもなつこからデートしたいって言わない限り出掛けようとしないし、キスやハグだってなつこからいつも先にするし、手を繋いでくっついて歩きたいが為にヒールの高い靴ばっかり揃えて姉ちゃんの服借りて精一杯背伸びしてさぁ。なつこばっかじゃん努力してんの!」
「……夏実はそういう事も滉に相談してたんだな」
「相談じゃねぇよ。俺が毎回聞き出したんだ。なつこは『おっさんに自分の好きが伝わってれば充分だ』って言って、俺と茉莉の仲が進展してくのをニコニコしながら『良かったね、幸せそうだね』って言うんだ」
「うん……」
「なつこは女だから10代の男ほど性欲無いとか幻想抱てんだろ? おっさんが簡単に言い放った『エッチは18になってから』ってヤツも、なつこは毎日カウントダウンしてたんだからな! 『あと何日で18になれる』ってカレンダーの日付見ながら呟く女の気持ち考えた事もないんだろ?」
「…………」
「茉莉も言ったけど、自分の好きが叶わない相手を想い続けるのは苦しいし、負けてる自分は勝ってる相手に一生敵わないのも同じように苦しい。俺は女じゃないけど同じ経験をしたから物凄くよく分かるんだ。だから尚更、無条件でなつこに愛されるおっさんがムカつくし卑怯だと思うし……」
「いつから好きかと質問しても夏実が告白した時点だとしか返答しない俺が大嫌いだと…………滉はそう言いたいんだな」
滉の強い眼差しを自分の目で全て受け止めながら、俺は目の前の男の気持ちを簡潔にまとめた。
「そうだよ……その通りだ。エッチもそうだし、今ここで一緒に暮らす準備もそう。
初対面の時はうちで家電買って欲しいから下手に出てみたけど、やっぱり我慢出来なかった。おっさんみたいな男、一番大嫌いだから」
「確かに今回の事も『一緒に暮らしたい』と提案したのは俺が先だけど、それより前から夏実は本気で『お嫁さんになりたい』って強く望んでいたからそれに答えたまでの行動だ」
「ほら見ろ! 今ですらおっさんは無条件で好かれてるんじゃねぇか! 男なら好きな女を喜ばす努力をしろよ! 努力を!!」
「だが、俺は夏実に何の感情も抱く事なく今までやってきた訳じゃない」
滉の言葉は、どれも事実だ。
事実だからこそ、抉られまくった俺の心を……傷ついた自分の心につい手を当ててしまった。
「は? 俺が責めたら今度は自衛か? 努力も何もしてない中途半端なおっさんの癖にこの期に及んで汚い言い訳でもするつもりかよ」
本当に汚いものを見るような目で睨んできた滉に、俺は自分の出来得る限りの真剣な表情で見つめ返した。
「言い訳と思ってくれてもいい。今から俺が話す事は夏実や茉莉にバラしたっていい……でもその代わり俺が自分の気持ちに正直になった時点で、俺と夏実は『終わる』と思っている」
追うものと追われるもの。
「追うもの」が、実はずっと最初から「追われるもの」で尚且つずっと勝者であると気付いた場合……その関係はどうなってしまうだろうか?
ーーー
『私と湊人の場合だと私の方が先に好きになったから湊人を王子様と思うのは固定で揺るがないの』
ーーー
憧憬を抱く俺の背中は単なる幻だと知ったら、王子様だと思っていた幼い少女の恋心は滉みたいに失望するんじゃないだろうか。
「負け続けているのは夏実じゃない、俺の方だ。
俺は夏実が8歳になるずっと前から……彼女の事が好きだったんだから」
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