【完結】彼女が18になった

チャフ

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【番外編】私と王子様の、夏の夜(side夏実)

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「本当?」
『本当だよ』
「私が未成年だから……高校生だからって、湊人はいつも無理してるでしょ?」
『してないと言えば嘘になるかな。本心を言えば、電話なんかしてないで今すぐ夏実を抱き締めたいって思っているし』
 
 湊人は誠実だ。
 私に嘘をつく事もあるけど、それはきっと必要な嘘であって不用意にみだりに使ったりしない。
 いつも私を喜ばせて、楽しませて、キラキラしたものを見せてくれる。

 ……あの時の、きらびやかなパレードのように。

「明日の夜の電話の時はさぁ……。もうちょっと、エッチな事をしてみない?」

 私は、10年前の王子様の顔を思い出しながら、そういう提案をしてみた。

『エッチな事?』
「具体的にはよく分からないんだけど……最初の電話の時みたいなさぁ、気持ち良い部分に触れながら電話する。みたいな」

 10年前の私は、本当に幼い少女だった。
 でも今は違う。
 少女は少女でも、王子様をもっと素敵な笑顔にさせる力を身に付け始めている筈だ。

『フフッ、夏実も大人になったなぁ。こんな俺にそんな提案するなんて』
「っ!!」
『最初の電話の時みたいに、頭を撫でれば良いって話じゃないんだぞ?俺は男だし30だから頭撫で撫でだけじゃ物足りなくなるかも』
「わっ……分かってるよぅっ!」

 あの時は本当に頭撫で撫でだけして満足しちゃった私だけど、茉莉まつりちゃんから具体的な方法を教えてもらったし、湊人を失望なんか絶対にさせない自信がある。

『気持ち良くなり過ぎて、声が大きくなって晴美さんに怒られるかもしれないよ?』
「私だって18歳なんだからっ! そのくらいちゃんと隠せるよう!!」
『毛布をしっかり頭からかぶらなきゃダメだぞ』
「分かってるもん」
『でも俺にはちゃんと聞かせてな、夏実の甘い声』
「それも……分かってるよぅ♡」

 そうだ。私はもう18歳で、湊人のれっきとした彼女で、同棲準備をしちゃってるくらい関係が深まっているんだから、寧ろ「好き好き攻撃」なんかやってないでもっとエッチ路線に寄せていかなくちゃならない。

(明日の夜……かぁ……)

 そう決意しながらも、明日の今頃私はどのような状態になっているんだろう?と想像した。

 気持ち良い部分を両手で弄りながら、湊人だけに甘い声を聞かせて……。
 身体全体がきゅんきゅんして、エッチな気分になって……。
 絶頂の波がやってきて目の前がチカチカとして、10年前のあの夏の夜を思い出すのかな……?

(気持ち良くなってイッちゃう瞬間って大好きなんだよね。脳がスパークして目の前がチカチカとするあの感覚が、パレードの光に似てるような気がするし、パレードの光もエッチなチカチカも湊人が初めて私に見せてくれた素敵な時間なんだもん)

「明日の夜は、そういう電話しようね。湊人っ♪」

 照れ臭さも混じりながら私が元気にそう言うと、湊人はクスクス笑いながら「うん」と返事してくれた。

 親友には全く共感を得られないけど、やっぱり湊人は私にとって「肩車してくれた王子様」だし、30歳の今でもその素敵さは変わらない。
 そんな湊人が私は大好きだし、10年経ってちょっぴり大人になれた私は一層、その王子様を真に愛するお姫様であるべきだと感じている。

 ……明日の今頃、目の前をチカチカさせながらも私はやっぱり湊人をあの夜の王子様だと認識するんだろうと思う。
 声も勿論素敵な湊人だけど、何より湊人はそれ以上に素敵でかっこいい部分をたくさん持っているんだから。


 10年前の、あの夏の夜……。
 人の多さで頭を痛くして辛そうに顔を青ざめていた細い身体のみなとくんは、それでもなんとか幼い私を少しでも楽しませようと、無理に力を振り絞って私を持ち上げ肩に乗せてくれた。

 身長185㎝よりも、ずっとずっと高い位置に目線が上がった私の目の前にはきらびやかな光がキラキラチカチカと輝いていて、その動きに合わせた楽しげな音楽は、夢のような別世界へと幼い私を導いた。
 その世界を肩車という形で見せてくれたみなとくんは、やっぱり私の王子様だとしか考えられない。


「じゃあ、また明日ね。湊人♡」

 名残惜しい気持ちもあるけど、もう湊人を寝かせてあげないといけないと思い、私は電話を切ろうとしたら……

『遅い時間まで俺に付き合ってくれてありがとう夏実』

 30歳の王子様は、パレードが通り過ぎた後に呟くように言った20歳のみなとくんと同じ台詞を私にかけて……

 それから優しく落ち着いた低音ボイスで

『おやすみ』

 も言ってくれた。



「うん、おやすみ♡ 王子様♡」






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