116 / 317
俺と彼女と幼馴染み
16
しおりを挟む「寸法測るのも仕事のうちなんで何もない部屋なんてあの子見慣れてるんです。それに広瀬さんが急いで契約したくらい好条件の部屋なんでしょう?」
野崎さんが業務部に来てすぐ俺が教育係に就いたけど、それ含めてもこの丸2年通してこんなに長く会話のキャッチボールをするのは初めてかもしれない。
「そうなんだよ好条件なんだよ。エアコンと照明が備え付けなのもそうだけど全体的に良心的な賃貸物件なんだよ。充実してる割に安いし、駅から徒歩3分だし、ベランダからの眺めもいいし」
「そうなんですか。でしたら私だって決算期でも急いで契約すすめるかもしれませんね」
だから俺も仕事モードだった頰の筋肉を緩ませて……
「野崎さんもそう思うだろう? だから俺も朝早くから会社来て定時帰りする為に毎日頑張ってさぁ」
まるで村川くんや森田さんと喋っているような感覚で野崎さんに微笑みを作ってみせたら
「じゃ、遠慮なく通常の価格にさせてもらいますね」
俺が頑張って作った笑みなんか冷たく無視して事務的な態度に彼女は戻ってしまった。
(やっぱり俺への塩対応は変わんねーのかよ……まぁ、俺も気色悪い笑顔見せて申し訳ないって思うけどさぁ)
教育してる時もそうだったのだが、やはり俺は野崎さんと色んな面で相性が悪いらしい。
別に俺だっていつも冷たい態度を取る野崎さんに今更好かれようなどとは思ってないし、事務的な会話のみを望むのであればそれで構わないと思っている。
その方がお互い都合が良い訳なのだから。
「あのねあのね! 茉莉ちゃんと滉くん、今から部屋に呼んでもいい? 新居見てみたいんだって!」
するとちょうど図ったかのように夏実が自動ドアから顔を出して俺に呼びかけてきた。
「いいけど、ちゃんと『まだ何もない』って伝えたのか?」
「言ってるよ! さっき買ったものの整理も手伝ってくれるみたい。ショッピングモールの駐車場で待ち合わせしていいよね?」
「分かった。今から俺も行くから、途中コンビニか自販機で飲み物買っておいて。後で払うから」
俺の了承に夏実はとびきりの笑顔を見せて、外に居る少年に
「良いって! コンビニ行こ!!」
と嬉しそうに呼びかける声が、自動ドアが閉まる直前に聞こえた。
「彼に寸法測ってもらうよ。不動産屋よりは電器屋の方が正確だろうし」
少年少女が駆け出すのを見送った後で俺はなるべく短い言葉で野崎さんに言い、彼女から離れようとした。
「分かりました。滉に寸法確認の連絡してもらいます」
「うん、すぐにさせる。購入品の機種を変えなくて良いならそのまま注文するからよろしくお願いします」
こちらも事務的な声のトーンに戻して野崎さんに会釈し、あの2人をゆっくり追いかけるつもりで店を出ようとした。
「あの、主任っ!」
「えっ?」
自動ドアを開けさせた時に背後から
「もう一つ、頼まれ事があるんですが」
と、野崎さんに何故か呼び止められる。
「何?」
「その様子だと彼女さんから何もお聞きしてないようですので……」
と、野崎さんは俺にこの電器店の軽い事情を聞かせてきたのだった。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】


密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる