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俺と彼女と幼馴染み
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(まぁ、あの野崎さんが弟に俺の話をするなんてシチュエーション自体あり得ないものだと思っていたし、たとえ仕事の愚痴程度のものを漏らしていたとしても……姉から話を聞かされただけの弟に、ここまで嫌なヤツを見るような目で見られるなんて……)
本当に俺は野崎さんに嫌われているんだなと再認識した。
部内の後輩から羨望されてもそれはそれで嫌なのだが。
「なつこ、ちょっと……」
少年は何を思っているのか、夏実に耳打ちするくらい顔を近づけながら「あっちへ行こう」と店の出入り口の方を指差す。
「どうしたの? 滉くん。」
少年はもう片方の手でさっきみたいに俺の右腕をブンッと放り投げて夏実の手と俺の腕の接触面を無理矢理はがし、これまた無理矢理夏実の手を取って強制的に店内の端の方に夏実を連れ出していった。
こういう時、彼氏として「俺の彼女に何をするんだ?!」と少年の行動を制止するのが正解なんだろうか?
けれども少年の様子が「クラス内でいつも嫌な目に遭わせているいじめっ子に対して、いじめられっ子を守る為に教室内の片隅にその子を連れ出す女友達」にしか見えず、こんな俺の立場でさえ少年の行動に「夏実への恋愛感情が欠片も存在しない」事くらい容易に想像出来た。
2人はほんのしばらく、こそこそと何かを喋っていたようで……。
「湊人! ちょっと店の外出てるね」
夏実だけ俺にそう呼びかけて、少年と自動ドアを通過していった。
(なんなんだ一体……)
一旦呆然とその様子を見るも、すぐに俺の目線は変わり、まるで公園で遊ぶ幼い子ども達の様子をはたから見守る父親のごとく、俺はその場に立ったまま自動ドア越しに透けて見える少年少女の背中に目を向ける。
少しでも動いたらサッと追いかけて捕まれられるように見守る……っていうアレだ。15年くらい前にしょっちゅうやっていた。
だが、思いの外子ども達はそこから動く事もなく……後ろ姿の夏実は3歳では手にする事がないスマホを取り出し、誰かと連絡を取っているような行動をとっている。
(夏実はもう3歳児じゃないんだし。
スマホ持ってるなら離れてどっか行ったって連絡取れるよな……)
俺の脳はそのように判断をして大きく息を吐き、彼女の背中へと突き刺していた保護者的目線を向けるのをやめた。
「広瀬さん、見積もり修正しました」
それからしばらくして、店の奥に引っ込んでいた野崎さんの声をきっかけに俺は仕事モードの顔つきになり
「野崎さんごめん、比較の為にさっき見せてくれた『友達価格』とやらも見せて」
と、ここは会社じゃないと分かっていても目の前の後輩についそんな態度を取ってしまった。
「はい、こちらが最初に渡した見積書です」
野崎さんは案外素直に修正前の見積書も俺に渡してくれた。
(なるほど……これは野崎さんも文句出るよな)
扱う商品の分類は違えど、仕事上で似たようなやり取りは日常行っている。
俺は特に営業事務の仕事も一時期していたから、家電量販店のような大企業と、こういった個人経営の販売業者との仕入れ価格に差がある事にも理解がある。
「修正した方って適正価格なのか?いつもお客さんに出してる率?」
「いえ、一応そこから1%引きました」
友達価格の見積書の上に野崎さんが赤いボールペンで走り書きした数字の羅列はメーカー小売価格なんだろう。
赤い数字を分母、見積金額を分子に置き換えたら頭の中で整理がついた。
「1%なんか引かなくていいよ。その分野崎さんとこの利益が減るんだろう? 1%なんて5000円くらいじゃん。俺が更にエアコン3台購入するなら1%下げどころか友達価格の方でお願いしたいところだけど」
俺はそう言って野崎さんに見積書を返す。
「そうなんですよ。なんでエアコン買ってくれないんですか? 電子レンジだってオーブンレンジにしてくれないし炊飯器に至っては今時マイコンってどういう神経してるんですか?」
「エアコンは既に各部屋備え付けなんだよ。
それに料理始めたばかりの18歳にとって高機能家電は荷が重いんじゃないのか? 機種選んだのはあの子であって俺の意見は一つも入ってないんだ」
俺の言葉に野崎さんは小さな息を吐く。
「スペック良いのは冷蔵庫と洗濯機くらいですね……これ、部屋の寸法ちゃんと測りました?」
「契約結んでる最中、不動産屋の担当者に測ってもらったよ」
「ちゃんと測り直した方がいいですよ。そしたらこのテレビももっと大画面なもの置けるかもしれませんし。テレビ台まだ購入してないんですよね?」
穏やかな吐息だと思ったのに、俺の方に向き直った彼女の目付きはキリッとしていて
(おいおい、デカいテレビに変更させて更に費用負担させる気かよ。確かに値引率は低くしてやったけどさぁ……)
と、少々焦ったものの
「まだ買ってないけど、でもまだ2人だしデカ過ぎる画面はちょっと……」
会社では必要最低限しか話さない野崎さんと会話のキャッチボールが出来ている事実が少々嬉しい。
「まぁどっちみち後で滉に測りに行かせます。購入したもののやっぱり入らなかったなんてお互いみっともないでしょう?滉は店番してる間、メジャーを常備させてますから上がらせてやって下さい。お友達の新居とやらも気になるでしょうし」
「夏実の親友みたいだから、上がらせるのは別にいいけど、本当に何もないから男子高校生が喜ぶかどうかは……」
本当に俺は野崎さんに嫌われているんだなと再認識した。
部内の後輩から羨望されてもそれはそれで嫌なのだが。
「なつこ、ちょっと……」
少年は何を思っているのか、夏実に耳打ちするくらい顔を近づけながら「あっちへ行こう」と店の出入り口の方を指差す。
「どうしたの? 滉くん。」
少年はもう片方の手でさっきみたいに俺の右腕をブンッと放り投げて夏実の手と俺の腕の接触面を無理矢理はがし、これまた無理矢理夏実の手を取って強制的に店内の端の方に夏実を連れ出していった。
こういう時、彼氏として「俺の彼女に何をするんだ?!」と少年の行動を制止するのが正解なんだろうか?
けれども少年の様子が「クラス内でいつも嫌な目に遭わせているいじめっ子に対して、いじめられっ子を守る為に教室内の片隅にその子を連れ出す女友達」にしか見えず、こんな俺の立場でさえ少年の行動に「夏実への恋愛感情が欠片も存在しない」事くらい容易に想像出来た。
2人はほんのしばらく、こそこそと何かを喋っていたようで……。
「湊人! ちょっと店の外出てるね」
夏実だけ俺にそう呼びかけて、少年と自動ドアを通過していった。
(なんなんだ一体……)
一旦呆然とその様子を見るも、すぐに俺の目線は変わり、まるで公園で遊ぶ幼い子ども達の様子をはたから見守る父親のごとく、俺はその場に立ったまま自動ドア越しに透けて見える少年少女の背中に目を向ける。
少しでも動いたらサッと追いかけて捕まれられるように見守る……っていうアレだ。15年くらい前にしょっちゅうやっていた。
だが、思いの外子ども達はそこから動く事もなく……後ろ姿の夏実は3歳では手にする事がないスマホを取り出し、誰かと連絡を取っているような行動をとっている。
(夏実はもう3歳児じゃないんだし。
スマホ持ってるなら離れてどっか行ったって連絡取れるよな……)
俺の脳はそのように判断をして大きく息を吐き、彼女の背中へと突き刺していた保護者的目線を向けるのをやめた。
「広瀬さん、見積もり修正しました」
それからしばらくして、店の奥に引っ込んでいた野崎さんの声をきっかけに俺は仕事モードの顔つきになり
「野崎さんごめん、比較の為にさっき見せてくれた『友達価格』とやらも見せて」
と、ここは会社じゃないと分かっていても目の前の後輩についそんな態度を取ってしまった。
「はい、こちらが最初に渡した見積書です」
野崎さんは案外素直に修正前の見積書も俺に渡してくれた。
(なるほど……これは野崎さんも文句出るよな)
扱う商品の分類は違えど、仕事上で似たようなやり取りは日常行っている。
俺は特に営業事務の仕事も一時期していたから、家電量販店のような大企業と、こういった個人経営の販売業者との仕入れ価格に差がある事にも理解がある。
「修正した方って適正価格なのか?いつもお客さんに出してる率?」
「いえ、一応そこから1%引きました」
友達価格の見積書の上に野崎さんが赤いボールペンで走り書きした数字の羅列はメーカー小売価格なんだろう。
赤い数字を分母、見積金額を分子に置き換えたら頭の中で整理がついた。
「1%なんか引かなくていいよ。その分野崎さんとこの利益が減るんだろう? 1%なんて5000円くらいじゃん。俺が更にエアコン3台購入するなら1%下げどころか友達価格の方でお願いしたいところだけど」
俺はそう言って野崎さんに見積書を返す。
「そうなんですよ。なんでエアコン買ってくれないんですか? 電子レンジだってオーブンレンジにしてくれないし炊飯器に至っては今時マイコンってどういう神経してるんですか?」
「エアコンは既に各部屋備え付けなんだよ。
それに料理始めたばかりの18歳にとって高機能家電は荷が重いんじゃないのか? 機種選んだのはあの子であって俺の意見は一つも入ってないんだ」
俺の言葉に野崎さんは小さな息を吐く。
「スペック良いのは冷蔵庫と洗濯機くらいですね……これ、部屋の寸法ちゃんと測りました?」
「契約結んでる最中、不動産屋の担当者に測ってもらったよ」
「ちゃんと測り直した方がいいですよ。そしたらこのテレビももっと大画面なもの置けるかもしれませんし。テレビ台まだ購入してないんですよね?」
穏やかな吐息だと思ったのに、俺の方に向き直った彼女の目付きはキリッとしていて
(おいおい、デカいテレビに変更させて更に費用負担させる気かよ。確かに値引率は低くしてやったけどさぁ……)
と、少々焦ったものの
「まだ買ってないけど、でもまだ2人だしデカ過ぎる画面はちょっと……」
会社では必要最低限しか話さない野崎さんと会話のキャッチボールが出来ている事実が少々嬉しい。
「まぁどっちみち後で滉に測りに行かせます。購入したもののやっぱり入らなかったなんてお互いみっともないでしょう?滉は店番してる間、メジャーを常備させてますから上がらせてやって下さい。お友達の新居とやらも気になるでしょうし」
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