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俺と彼女と幼馴染み
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しおりを挟む9年前は家族の誰とも連絡を取る気がなかった直くんも、今では心変わりしているかもしれないしそうではないかもしれない……とはいえ直くんからの「なっちゃんの願いを叶えてくれてありがとう」の言葉は、やはり夏実を常に気にかけている心の表れによるものなのではないかと、彼と長らく幼馴染の関係でいる俺は思わずにいられなかった。
それに直くんが家を離れた時にあんなに泣いて寂しがった夏実の姿を目の当たりにしている俺の立場としては、家族全員というよりもまずは直くんと夏実とを繋げてあげたいという気持ちもあり、それが直くん夏実両名の幼馴染である俺だけに出来る唯一の行動なのではないかと感じている。
「…………やっぱり、いいや。
家族の中で私だけ直くんの連絡先を知るのはみんなに悪いから」
意外にも夏実は俺の提案をハッキリと断った。
「良いのか? 夏実だって直くんと連絡とってみたいだろう?」
「それはそうだけど、私はお母さんやお姉ちゃんも同じように連絡先を知りたいの分かってるもん。今朝だってチョコレート食べてる最中誰もその事に一切触れなかったけど、お母さんもお姉ちゃんも『直くんと連絡取りたい直くんの声が聞きたい』って強く願っているのをめちゃくちゃ感じ取ったから。だから尚更そんな中私だけ知るのは悪いなぁって罪悪感があるし、直くんが私達にじゃなくて幼馴染の湊人にだけ連絡先を伝えた気持ちを大事にしたいんだ」
夏実は、そう言って哀しく微笑む。
「……それだったら、俺は夏実に何も教えていない体で直くんに御礼メッセージ送るけどそれでいい?」
俺の念押しの確認にも
「それでいいよ。メールの返事がきても私に見せなくてもいいし、湊人の中で留めといて」
彼女はそう答えたので、俺は尚も哀しげに下げる彼女の睫毛を左手の指でちょんと撫でて静かに頷き、彼女の想いに了承した。
「うん、分かった。じゃあ、今後はそうさせてもらうよ」
「うん……」
それからはショッピングモール内にある夏実オススメの店でランチを食べて、昼過ぎから予定していた日用品の買い出しを始めた。
夏実は村川くんから料理初心者でも使いやすく便利なキッチンツールのシリーズを教えてもらったらしく、実家暮らしの俺には目にした事のない暖色系カラーの調理器具がたくさんカゴの中に入っていく。
俺が仕事や賃貸契約で慌ただしくしている中、夏実は夏実で生活しやすいツール選びや買いたい家電の目星をつけたりしていたらしい。
「ちゃんとそういう事も考えてて夏実は偉いなぁ」
と褒めたら
「当然っ! 私にはお母さんやお姉ちゃんみたいな相談しやすい主婦の先輩がいるもん!!」
と鼻息をフンッと勢いよく出すのが面白くそれでいて可愛い。
「夏実はきょうだいの中でも一番下だし女だから、母親とか姉とか相談しやすい環境かもな。一人息子なんて親に相談とかまずしないから」
「えー? 女とか男とか関係ないよぅ。湊人もおじちゃんおばちゃんと相談すれば良いのに」
「なんか照れ臭いのが前面に来るんだよなぁ……まして親父もお袋も夏実大好きだろ? 多分何相談したって『なっちゃんの好きにさせろ』って返事しか返ってこないよ」
「あはは……!! 言いそう!!」
「だろ? 夏実は赤ん坊の頃から親が4人居るんだよ」
「でも湊人も大事にされてるのすごく感じるよ! 私が広瀬家へ遊びに行く時、湊人の居ないところで湊人の子どもの頃の話沢山聞くから」
「……そうなんだ」
「うん。湊人だっておじさんおばさんの事を嫌いな訳じゃないんでしょ?」
「まぁ、な」
「おじさんなんて去年は特に手術や入院したから『息子一人だけだから実家に残っててくれて嬉しかった』って言ってたし、おばさんもそう。私からしてみたら湊人はめちゃくちゃ愛されてると思う」
「確かに、愛情を受けなかったとも感じなかったとも思わないけど」
「あと『私の好きにさせろ』っていうのも照れがあるんだよ。それだけ湊人の判断に任せてるんだろうし、そういうの私は羨ましいな」
「そうか?」
「うん! そう思う!」
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