【完結】彼女が18になった

チャフ

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俺と彼女と幼馴染み

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「あのさぁ夏実、着替えたいから出て行って欲しいんだけど」

 まさか意味が分かってないのか?と思ってストレートにそう言うと

「いやいや、寧ろ手伝わせてほしいんだよっ!私は湊人を出て行かないんですけど!?」

 と、夏実はトートバッグの中身をチラ見させながらを俺の前に差し出す。

「着替え? させたい?」

(なんだ唐突に。手伝わせてほしい? 俺を介護するつもりか? いや、着せ替え人形のつもりか?? 
 まさか夏の暑さで頭が溶けたのか? まだ朝なのに?)

「この前言ったでしょ? これからの湊人はの対象なの! 湊人の私服は私がコーディネートするの! だからネットで服いっぱい買ったんじゃん」
「ああ、なんかえーと……おじさんが可愛い夏のパーカー……だっけ?」
「全然違う! 『大人可愛い要素を少し取り入れた夏スタイル』だってば」

 夏実は頰を膨らませながらトートバッグから俺の為に買った服を取り出して

「一緒だろ。ちょっとした表現の違いってだけで」
「全然違うの! はいこれ着て!」
「えー……」
「次はこれ履いて!!」

 とドンドン俺に衣服を手渡ししてくる。

「……はい」

 顔も仕草も相変わらず可愛いのだが、今朝の夏実はちょっと怖い。

「着替え終わったら髪のセットするよー」
「髪のセットも……って、マジか」

 ちょっと怖い夏実は俺をパソコン机の前に座らせ、強制的に寝癖直しを振りかけ、タオルでガシガシ水分を拭き取ってきたと思ったら即ヘアワックスでわしゃわしゃ掻き乱した。

「よし! 大人可愛い湊人くんの完成っ!!」

 この部屋にはクローゼット備え付けの鏡しかないから、自分がどんな頭になっているのか想像がつかない。

「えっ……俺、今どんな頭してんの?」
「気になるなら洗面台まで行けばいいじゃない♪ 一緒に行こっ♪」

 夏実に両肩をポンッと叩かれて、これまた強制的に洗面台まで連れて行かされる。

 だがしかし……!!

「ちょっと待て夏実!! これは正解のヤツなのか? なんか俺の頭ヤバくないか?」

 洗面台の鏡の前に立った直後、普段やってる前髪を掻き上げたアップバンクとは真逆のスタイルに驚愕した。

「合ってるから! 寧ろ湊人はこっちが正解だから! ……あぁっ!! 湊人は髪の毛に指一本触れちゃダメー!!!!」

 それでも夏実は「合ってる」の一点張りで髪を一切弄らせてくれない。

「髪触っちゃダメなら、歯は磨いてもいい?」
「歯なら大丈夫っ!存分に磨いてピッカピカにしてね♪」

 俺はこの家の住人で息子なのに、隣人の女子高生に歯磨きの了承を得ようとするこの状況はちょっと変だし

(歯磨き中もピッタリくっつくのかよ夏実は……監視員かよ)

 髪弄り防止策なのか、夏実はその場から離れてくれなかった。

「……」

 歯を磨いたり髭を剃ったりしている間、背後に位置する居間への出入り口からはお袋の笑い声しか聞こえない。

「どうしたの? 湊人。眉毛がグニャグニャに曲がってるよ」

 母親から嘲笑されてると思ったら言い返す事も振り向く事も出来ないのが悔しい。だから眉を捻じ曲げているのだ。

「……なぁ夏実、笑われてんじゃん俺」

 身支度を整えている間にサッと2階に駆け上がって俺の鞄を取りに行ってくれた夏実にそう呼びかけてみたが

「おばちゃんはテレビ観て笑ってるだけ! 湊人は笑われてないから!! 早く行くよっ!!」

 と、2階からトントン階段を降りて俺の腕を掴み、居間に顔を出す事なく玄関までまた俺をグイグイ引っ張っていく。

「ちょっと夏実っ!俺まだちゃんと靴履いてないって!」
「えー、お隣さんなんだからかかとまでしっかり靴の中入れなくてもいいじゃあん!! 早く早くっ!急がなくちゃ!!」
「えー……いい加減な靴の履き方したら晴美さんに叱られるの俺なんだぞ?」

 玄関で靴を履きながら夏実とそんなやり取りをしていると……

「湊人、チョコレート買ってくれてありがとう。後で私も頂くから」
「あ……」

 と、いつのまにかお袋が背後に来ていて俺にそう呼びかけてきた。

「あのチョコレートは会社に渡す分のついでだからさ……その」
「でも、湊人がんだもん。ありがたい気持ちで頂くわよ」

 チョコレートに関する諸々の事情を知るからこそ、畏ってくれているのかもしれない。

「気軽に食べてくれた方がきっとだろうからさ。夜にゲームする前に晴美さん達と楽しんで」

 俺は後ろを振り返る事なくお袋に返事し、夏実の手をしっかりと握った。

「じゃあおばちゃん! お母さん達とチョコ開けたら、新居のアパート向かって湊人と準備頑張ってきまーす♪」

 夏実はお袋に顔を向けるなり元気良く挨拶して手を振っている。

「真夏の家具家電選びは大変だけど、思いきり楽しんでね。いってらっしゃい」

 多分、お袋は夏実と俺どちらにも向けて「いってらっしゃい」を言ったんだろう。
 俺も「いってきます」とだけ言って実家の引き戸をガラガラと開け、隣家の薗田家へ夏実と共に歩きだした。
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