【完結】彼女が18になった

チャフ

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俺と彼女と恋待つ時

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「うわっ!! 廊下に立ってんなよ! ビックリするだろうが!!」

 俺も風呂を借りて部屋着を身につけると、廊下で既に村川くんがつまみや缶飲料を乗せたトレイを両手に持ちながらスタンバイしていたのだから驚く。

「夏実ちゃんはリビングでテレビ観てますよ」

 村川くんは彼女が何して時間潰してるのかを報告し

「妻も風呂入りたがってるんで早くそこどいて下さい」

 と俺の逃げ道を完全に絶ってくる辺りが実に怖い。

「分かったから。あっちの部屋へすぐに行けばいいんだろう?」

 俺は両手に脱衣物を抱えて彼の言われた通り、本日貸してもらう彼の部屋へと入った。

 ここの間取りは3LDK でリビングや寝室とは別に2部屋、彼らの部屋がそれぞれある。
 奥さんの部屋は玄関入ってすぐ右手側
 そして村川くんの部屋は玄関と向かい側に位置している。

「二人暮らしでも部屋は3つあった方がやっぱり便利なの?」

 俺は彼が「作業台」と呼ぶ机の椅子に腰掛け、部屋を見回しながらそう質問した。

「んー……俺の場合、一人暮らしの部屋もここも自分で選んだんじゃなくて従兄にてがわれただけなんで何とも言えないです。部屋の数に応じて彼女と相談して使ってるって感じなんで」

 彼が座る場所はどこかというと、リビングに置かれていたビーズクッションをこっちに移動させたらしく、夕方に彼から軽い説教を受けた時と似た配置で今から喋るという事のようだ。

「充てがわれた……」
「だって考えてみて下さいよ。20歳になったばかりの大学生がマンション購入出来ると思います?」

 村川くんはクッションから立ち上がって机の前に立ち、冷えたグラスにノンアルコール缶の中身を丁寧に注ぐと、俺につまみの小皿と一緒にグラスを近付ける。

「彼女との同棲理由では購入しないよね、学生が」
「ですから彼女のご両親にはしばらく言い出せなかったですね。こんな俺と付き合ってしかも一緒に住んでます、だなんて」

 そして自分は缶ビールを掴んで蓋を開け、クッションに座り直し缶に直接口をつけながらゴクゴクと喉を鳴らした。

「……そうなんだ。苦労したんだね、村川くんも」

 彼の口ぶりやその態度からして、やはり結婚前は何か色々あったんだろうと確信を持つ。

「苦労っていうか、俺自身に対しての情けなさがありました。彼女にも、彼女のご両親にも俺はめちゃくちゃ助けられたので特に」
「……彼女の姓にしたのも、会社の忖度だけが理由じゃなかったんだ?」
「そもそも実家といち早く縁を切りたかったんで逆に好都合でしたよ。去年就活を通して実家の醜さを嫌という程感じさせられましたから」
「やっぱり苦労してるじゃないか」

 俺は人事や総務担当ではないけれど、同じ敷地内に居る所為か色々と耳に入る事もあるし、個人的な世間話としてジュン先輩からも彼の話を色々聞かされた。

 だからといって俺は新入社員としてうちの部に来た彼を特別な目で見ようだなんて思わず、最初から一新入社員と接する態度で仕事内容を教えていたまでだ。

「でも今はすごく幸せです。広瀬さんは頼りになる先輩ですし、妻との生活も以前と変わらず楽しいし、離れて暮らしてる広島のご両親からは血の繋がった息子のように接してくれているし。幸せ過ぎてヤバいくらいです」

 村川くんは一気にそこまで喋ってまたビールを喉へ流しこみ、本当に嬉しそうな息遣いをした。

「結婚制度について今は色んな考えがあるんでしょうが、他人同士でも家族になれるなんて俺にとっては最高に幸せな制度ですよ。ましてその相手が大好きな人達であれば特に。
 その点ではジュンさんの奥さんと考え方は同じかもしれないです……も、妻のご両親から長女みたいな扱いされてるって言ってましたから」

 その言葉で、ジュン先輩の奥さんを『お姉さん』と呼ぶ意味が理解出来た。

「広島にいらっしゃるという奥さんのご両親は、心の広い人なんだね」
「そうですね。だから俺も大好きです。妻も、お姉さんも、ご両親も、ジュンさんも……俺に関わる人みんないい人だから、広瀬さんも、夏実ちゃんも大好きです」

 理解出来た……のに、彼の突飛過ぎる論理が突然俺の前にあらわれて

「っ!……俺と夏実もそこに入んのかよ」

 飲んでたものを噴き出すかと思った。

「だって会社では俺と広瀬さん一括ひとくくりにされるじゃないですかぁ。血は繋がってないけど兄弟みたいな、俺ってそんな関係の人だらけの中に居るから……だから広瀬さんも大好きだし、夏実ちゃんも大好きなんです」

 村川くんはいつの間にか2缶目のビールを開けてゴクゴク飲んでいて

「いやいや、もう一回聞いても意味分かんない」

(そういえばコイツ食事中もビール3缶飲み干してたな。って事はこれで5缶目……)

「なんで分かんないんですかぁ? もう一回言いますよ?」
「いやいやいや、何回聞いてもそこに俺らが入る意味がわからないって」

 俺はてっきりこの部屋でまた説教を受けるんだろうなと軽い緊張を持っていた分、コイツの意味不明な酔っ払い論理に可笑しくなってしまった。
 緊張の緩和は笑いだと、どこかで聞いた気がするけどまさにその通りだと実感する。
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