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俺と彼女と恋待つ時
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「はい、私から言わなくても彼が先にオイル手にしてマッサージの準備してくれるんで助かりますよ」
だから奥さんがニコニコ笑いながら言う発言がそのまま答え合わせのようになった。
「……彼、会社でご迷惑をおかけしてませんか?」
一呼吸おいた後、奥さんが俺の方を見上げながらそう訊いてきた。
「とんでもない。新人の中では比較的よく動いてくれていますよ」
村川くんは奥さんを「妻」って呼ぶのに奥さんは「彼」なんだ……と思いながら、正直な感想を述べる。
確かにここ3年部内の新人教育が続いているが、野崎さんはとある事情で春は欠席をちょくちょくやってOJTが進まなかったし、去年の森田さんは入社2年目だから楽に教えられるかと思ったのに蓋開けたらメモ取りの習慣が無い子でそこから教えなきゃならならず苦労した。
それを考慮したら今年の村川くんはスムーズに進んでいる。指示には素直に動いてくれるし、仕事の覚えも早くて、何より事務の皆さんから「社内一のイケメン」と評判だ。
「それなら安心しました。家では色々してくれて私は助かるんですけど会社での振る舞いまでは分からなかったので」
「確かに今日の彼見るだけでも凄かったですね。料理も掃除も、ヘアアレンジまでしてしまうので」
「やり過ぎですよねー、彼」
ホッとした顔つきになる奥さんに俺がポツリと呟いたプライベートの彼の行動について、奥さんはケラケラと笑う。
「いや、『今時の既婚者はそこまでするのか』って軽くプレッシャーかかりましたよ……」
「広瀬さん、結婚が怖くなっちゃいました?」
「怖いっていうか、ハードル上がったっていうか」
「彼が過剰なだけですから!ジュンさんは家事ほとんど出来ないって言ってますし、彼を基準に考えなくていいですから」
尚も笑いながら言う奥さんに、俺は軽く息を吐いた。
(自覚してるんだな……村川くんの行動が丁寧かつ過剰だって)
「彼、一人暮らし長かったから私と付き合う前から掃除や片付け完璧にこなしていたんで私はずっと楽してばかりですよ」
奥さんが幸せそうな表情をするのを見て、改めて自分が今まで実家で温く過ごしていた事に気付かされる。
「やっぱり若い内から親元を離れておくものなんでしょうね」
今日、村川くんを見ていて改めて感じた。30年実家暮らしの自分は「あまちゃん」なのだと。
自分の不甲斐なさがそのままそこに直結してなくても、少しは影響してるんだろうな。という考えの上で奥さんに言うと
「それは……」
と、奥さんの表情が一瞬曇り
「………てどうでしょう?さっきも言いましたが、ジュンさんみたいに『10年以上一人暮らししてる癖に家事が碌に出来ない』ってパターンもありますから」
と、また笑い顔の表情に戻す。
「所詮は『人による』ってヤツですか?」
「そうですそうです。その代わりジュンさんは食料品の買い出しは責任持ってしていますし、そこはパートナーと相談して行動するのが理想形ですよねー」
奥さんは笑顔のままマンションのエントランスへと指差して俺を誘導した。
エレベーターに4人一緒に乗り込んで、いつの間にか隣同士くっついて並んでいる村川夫婦の背中をジッと見つめる。
(村川くんもそうだけど、奥さんもちょいちょい意味深な表情してくるなぁ。
この2人、結婚前に何か色々あったんだろうか?一見、順調そうに付き合って結婚したようにしか見えないけれど)
そしてさりげなく俺の手に指を絡めて可愛らしく恋人繋ぎし始める夏実を見下ろし、「俺はこの先夏実とあんな風に理想形を作っていかなきゃならないんだな」と……村川くんの家に訪問して4人で時間を過ごす事に意味を見出す必要があるのだと気付いた。
奥さんはどう思っているのかは分からないが、少なくとも村川くんは俺に何か気付いてほしい何かがあるからわざわざ「泊まりに来い」と言ってきたんだろうし、ただ物件情報を渡して夕食食べるだけの理由ではそもそもそんな提案をしてこないはずだ。
そしてその予想は的中した。
夕食の後、夏実が入浴している間に村川くんが俺に
「後で俺の部屋で話しましょう」
と耳打ちしてきたからだ。
夏実は今ここには居ないし、奥さんは食器の片付けのついでに台所仕事をすると言っている。
「今ここじゃ話しにくい話題って意味?」
と俺が確認すると
「そういう事です」
と、彼は短い言葉で答えた。
だから奥さんがニコニコ笑いながら言う発言がそのまま答え合わせのようになった。
「……彼、会社でご迷惑をおかけしてませんか?」
一呼吸おいた後、奥さんが俺の方を見上げながらそう訊いてきた。
「とんでもない。新人の中では比較的よく動いてくれていますよ」
村川くんは奥さんを「妻」って呼ぶのに奥さんは「彼」なんだ……と思いながら、正直な感想を述べる。
確かにここ3年部内の新人教育が続いているが、野崎さんはとある事情で春は欠席をちょくちょくやってOJTが進まなかったし、去年の森田さんは入社2年目だから楽に教えられるかと思ったのに蓋開けたらメモ取りの習慣が無い子でそこから教えなきゃならならず苦労した。
それを考慮したら今年の村川くんはスムーズに進んでいる。指示には素直に動いてくれるし、仕事の覚えも早くて、何より事務の皆さんから「社内一のイケメン」と評判だ。
「それなら安心しました。家では色々してくれて私は助かるんですけど会社での振る舞いまでは分からなかったので」
「確かに今日の彼見るだけでも凄かったですね。料理も掃除も、ヘアアレンジまでしてしまうので」
「やり過ぎですよねー、彼」
ホッとした顔つきになる奥さんに俺がポツリと呟いたプライベートの彼の行動について、奥さんはケラケラと笑う。
「いや、『今時の既婚者はそこまでするのか』って軽くプレッシャーかかりましたよ……」
「広瀬さん、結婚が怖くなっちゃいました?」
「怖いっていうか、ハードル上がったっていうか」
「彼が過剰なだけですから!ジュンさんは家事ほとんど出来ないって言ってますし、彼を基準に考えなくていいですから」
尚も笑いながら言う奥さんに、俺は軽く息を吐いた。
(自覚してるんだな……村川くんの行動が丁寧かつ過剰だって)
「彼、一人暮らし長かったから私と付き合う前から掃除や片付け完璧にこなしていたんで私はずっと楽してばかりですよ」
奥さんが幸せそうな表情をするのを見て、改めて自分が今まで実家で温く過ごしていた事に気付かされる。
「やっぱり若い内から親元を離れておくものなんでしょうね」
今日、村川くんを見ていて改めて感じた。30年実家暮らしの自分は「あまちゃん」なのだと。
自分の不甲斐なさがそのままそこに直結してなくても、少しは影響してるんだろうな。という考えの上で奥さんに言うと
「それは……」
と、奥さんの表情が一瞬曇り
「………てどうでしょう?さっきも言いましたが、ジュンさんみたいに『10年以上一人暮らししてる癖に家事が碌に出来ない』ってパターンもありますから」
と、また笑い顔の表情に戻す。
「所詮は『人による』ってヤツですか?」
「そうですそうです。その代わりジュンさんは食料品の買い出しは責任持ってしていますし、そこはパートナーと相談して行動するのが理想形ですよねー」
奥さんは笑顔のままマンションのエントランスへと指差して俺を誘導した。
エレベーターに4人一緒に乗り込んで、いつの間にか隣同士くっついて並んでいる村川夫婦の背中をジッと見つめる。
(村川くんもそうだけど、奥さんもちょいちょい意味深な表情してくるなぁ。
この2人、結婚前に何か色々あったんだろうか?一見、順調そうに付き合って結婚したようにしか見えないけれど)
そしてさりげなく俺の手に指を絡めて可愛らしく恋人繋ぎし始める夏実を見下ろし、「俺はこの先夏実とあんな風に理想形を作っていかなきゃならないんだな」と……村川くんの家に訪問して4人で時間を過ごす事に意味を見出す必要があるのだと気付いた。
奥さんはどう思っているのかは分からないが、少なくとも村川くんは俺に何か気付いてほしい何かがあるからわざわざ「泊まりに来い」と言ってきたんだろうし、ただ物件情報を渡して夕食食べるだけの理由ではそもそもそんな提案をしてこないはずだ。
そしてその予想は的中した。
夕食の後、夏実が入浴している間に村川くんが俺に
「後で俺の部屋で話しましょう」
と耳打ちしてきたからだ。
夏実は今ここには居ないし、奥さんは食器の片付けのついでに台所仕事をすると言っている。
「今ここじゃ話しにくい話題って意味?」
と俺が確認すると
「そういう事です」
と、彼は短い言葉で答えた。
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