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俺と彼女と恋待つ時
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しおりを挟む19時過ぎ。
村川くんは奥さんを迎えに行くと言うので、マンションから徒歩十数分の珈琲店まで俺らも歩いてついて行った。
別に村川くんの家で待っていても良かったんだけど暇だし夏実も奥さんの働く店を見てみたいというので3人ぞろぞろと歩く羽目になった訳だけど……。
「村川くんは毎回歩いて奥さん迎えに行くの?」
「可能な限りって感じですね。今月は流石に出来ませんでしたが、仕事帰りは必ず寄る事にしてます。ジュンさんと帰宅時間が合えば一緒に行く時もありますけど」
「へ~ぇ」
村川くんが毎回19時半という時刻を気にする理由は知っていた。
2年くらい前に奥さんがちょっと危ない目に遭ったらしく、以後はなるべく迎えに行くのだと耳には入っていたけれどこうして毎回歩いていると知るとまぁ「おアツい事で」と感想を持つ。
「じゃあ村川さんは会社帰りに毎回こうやって歩いてお迎え行くんですか?大変じゃないですか?」
俺の持つ感想とは違い、単純に疑問を投げかける夏実に村川くんは「全然」と首を横に振りながら微笑む。
「バイクで迎えに行ってもいいんだけど、ここの商店街に大型バイクはうるさ過ぎてね。
俺が迎えに行けない日は妻は自転車使ってるんだよ。夜道に妻1人歩かせるのはやっぱり不安だから」
「村川さんが帰りに自転車2人乗りして帰ったらいいんじゃないですか?」
「嫌だよそんなの。恥ずかし過ぎるし」
(確かに。村川くんが奥さんと自転車2人乗りしてるの目撃したら俺でも会社でネタにするくらい面白い光景かもしれない……)
「それにしてもジュン先輩まで会社帰りに村川くんとわざわざ電車乗ってこっち来るの面倒臭くないか?」
村川くんのマンションは珈琲店から徒歩圏内だから良いとして、ジュン先輩は会社からほど近いマンションに夫婦で住んでいて自転車通勤をしている。
村川くんの話をまとめると、ジュン先輩は自転車で自宅マンションまで自転車で帰った後にまた外出して村川くんと電車で珈琲店へ向かい、その後再び自宅マンションまでマスターと移動して帰宅するという何度手間になるか分からないような行動をとっているという事に俺は気付いた。
「ジュンさんはお姉さんを溺愛し過ぎなんですよ。店の掃除や片付けしに寄ってるようなもんで、その後お姉さんの車で一緒に帰るからあまり苦じゃないんじゃないんですか? おかげで妻は早く帰れるからこっちとしても都合良いですけど」
「じゃあ、今店に先輩いるの?」
「ですね! 土曜日は午前中ジムで体鍛えて午後にはもう珈琲店に入り浸ってるんです。ジュンさん今頃お姉さんにこき使われながらヘラヘラ笑ってますよ」
「そっか、居るんだ」
休みの日に会社の人間に2人も会うのか。と、いつもならゲンナリするところだが、今日は忙しい土曜日に俺らの為に村川さんの奥さんの休憩分ジュン先輩が働いたって事なのだから今回ばかりは御礼言わないとな……と思ってたところで
「え? 今から行くお店って、村川さんのお姉さんのお店なんですか?」
と、夏実が村川くんの言う「お姉さん」の呼び名に引っかかったようだ。
「ああえっと『お姉さん』って言うのは実の姉って意味じゃなくて奥さんのお姉さんが店主だから……」
それで俺がすかさず説明を入れようと思ったんだが、途中で俺も「ん?」となった。
ジュン先輩の奥さんは、うちの会社の元事務員で俺が営業所に居た頃に「仕事が正確で早く、伝説と化したような人」と噂に上がっていた。俺が入社する前の所内集合写真だって何度も目にした事があり、旧姓は「村川」ではなく「遠野」であった。
村川くんの方を向くと、彼は眉を下げて苦笑する。
「あー、そこ引っかかりますよね。ややこしいんですがジュンさんの奥さんは俺のお姉さんなんですよ。そこは譲る気ないです」
と俺に言い、夏実には
「だから夏実ちゃんの解釈で合ってるよ」
と言って微笑んだ。
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