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俺と彼女と営みの巣
18
しおりを挟む18時頃になると料理がほぼ出来上がった。
「まだ時間あるから卵焼きの練習してみようね、夏実ちゃん」
「はいっ! よろしくお願いします村川先生っ!」
村川くんは夏実が卵を焼くところをゆっくり教えてくれるらしい。
「……物件、見とこうかな」
俺はポツリとそう呟いて椅子に腰掛ける。
「あれぇ~? パパは可愛い娘さんが焼く卵焼きに興味ないんですかぁ?」
俺にわざとらしい口調で言う村川くんに
「1時間近く立っていたから足を休めるんだよっ」
と言い訳をして、夏実が料理する前まで眺めていた紙の束に手を触れる。
正直言うと、単純に見たくなかっただけだ。
別に虎柄だろうが何だろうが、可愛い夏実が作るものなら美味しいと思える自信はあるし、綺麗に焼けるならそれはそれで食べてみたいと思う。
ただ、また夏実が作って持たせてくれる弁当に入る定番おかずの練習風景だけは俺が見ちゃいけないような気がした。
……何で急にそんな心境になったのか、自問すると答えるのは難しいのだけれど。
物件情報に目を通していたら、夏実の声がカウンターを飛び越えてきて
「どっちが私の卵焼きでしょうか?」
と突如クイズが始まった。
小皿にそれぞれ乗せられた卵焼きを一切れずつ口にして味わい……
「こっちが夏実の」
それを言い当てると何故か2人から驚かれた。
「凄い広瀬さん!! なんで分かったんですか?」
「本当だよ!! 村川さんのと遜色ないくらい綺麗に焼けたのに!」
「簡単なクイズだったよ、村川くんの甘過ぎるから」
という俺の指摘に夏実は大きく頷き
「確かに村川さん一杯多くお砂糖入れてた! 村川さんのも美味しいのは間違いないんだけど!」
と、夏実も村川くんの焼いた卵焼きをもぐもぐしてまた笑う。
「えぇ~? 俺のってそんなに甘くし過ぎてるかなぁ? 甘いの好みではあるんだけど」
「でも焼き加減とか流石って感じです! 村川さんの!」
「確かに村川くんの方が舌触りは滑らかだったな」
俺や夏実に笑われつつ褒められた彼は、洗面台からサッと出て行った時と同じ表情をしていて……
「えぇ~そんなに褒められちゃうと、本当に参っちゃうなぁ」
色々器用にこなす割に結構照れ屋なんだな。と、プライベートな彼の日常を垣間見れてなかなか楽しかった。
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